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#3 ゲームの始まり

 俺たちは机に駆け寄り、勝手に動きだしたタイプライターを覗き込み、打ち込まれている文字を確認する。


 -----


 ゲームワールドへようこそ


 今回のゲームは見知らぬ三人の男女が閉じ込められた世界から脱出する、サバイバルゲームだ。


 ルールは簡単、生きてこの建物の敷地内から抜け出すこと、ただそれだけだ。

 ライフゲージには十分注意したまえ。

 時間は12時間、恐らく十分だろう。

 ただ時間があるからとのんびりプレイしてもいられないと思うが……



 諸君の健闘を祈る


 追伸

 ささやかなプレゼントを用意した。ゲーム攻略に役立ててくれたまえ。


 ------


 ここまで打ち終えるとタイプライターは再び静かになった。何を言ってるのかわかるような、わからないような……。とにかく、一方的な物言いからくる不快感と、薄気味悪さだけが後味悪く心に残った。


 ──ささやかなプレゼントだと?


 何のことだと訝しんでいると、ゴトッと音がして、タイプライターが置かれた机の引き出しが少しだけ動いた。開いてみると引き出しの中には、メタリックに輝く機械が三台入っていた。細長いベルトが付いていて、シルバーのデジタル時計かスマートウォッチのように見える。その機械を一つ手につまむと先ほどの女が言った。


「で、こりゃなんだ?」


 さすがに彼女も今の状況が普通じゃないと理解したようで、俺を問い詰めるような口調ではなく、ただ疑問を口にした、そんな態度に変わっていた。


「さあな、手首につけろってことかな?」


 俺はつぶやきながらその機械を左手に近づけてみる。女とタカシもそれにならう。するとその機械は軽く手首にあてただけなのに、ぶるっと振動したかと思うと、勝手に俺の手首に巻きついてきた。


「うぉ!」

「おい!」

「わぁ!」


 俺、女、タカシが驚愕の声を上げてる間に機械は巻きつき終わると、カチッとロックする音がして手首に完全にフィットしてしまった。さらにそれがスイッチだったのか、前面のモニター部分が明るくなり何かが起動し始めた。


「アームギア装着確認。ゲームを開始しますか?」


 機械的な音声が流れ、画面にデジタル表示のスタートボタンが表れた。手首に巻き付いたこの機械、アームギアとやらは何かの端末のようだった。


「おい、どうすんだこれ?」


 女がまた問い詰めてくる。いやだから俺に聞くな。てか、これスタートボタンしかないんだが……。


「たく、面倒くせーな」


 そう言って女はボタンを押した。アームギアがピッと音を出し反応する。と同時に俺とタカシのアームギアからもピッっと反応音が鳴った。画面に12:00:00と表示され、その数字がカウントダウンを始める。


「ちょ、勝手に押すなよ」

「あぁ? どうせ他に選択肢なかったろうが」


 俺の抗議に女が言い返す。すると、再びアームギアから機械的な音声が流れた。


「スキルアイテムの抽選を開始します」


 そう言うとピピピという電子音と共に画面の中でカラフルな円盤が回り始める。ピッ、ピッ、…ピッ、……ピッ。円盤が止まり、画面に何か文字が表示された。


 ──ええっ!これって!?


 画面を見た俺は驚愕する。なんとそこに記されていたのは……。


「なんだこれ?」


 すぐ横で女も驚きの声をあげた。彼女のアームギアも抽選とやらが終了したようだ。そのまま画面をタッチする。すると彼女の手元が一瞬光ったかと思うと、次の瞬間、彼女は具現化したハンドガンを握りしめていた。


「ひゃー、すげーなこれ!なんだわかんねーがいいもん手に入れたぜ」


 手にした銃を、あちこちに向け構え始めた。ぶっそうな女だな。そんな俺の視線に目もくれず、彼女はすっかり上機嫌になっていた。


「オートマチックか、いいねぇ。それにこの重厚感、リアリティ、たまんねえなぁ~」


 うっとりした目で銃を見つめる女。その顔をまじまじと見ていたタカシが声をあげた。


「あ! 俺、お前のこと知ってるぞ、サイコだろ? ネットで見たことある」

「あぁ? サイコじゃねぇ、サ・エ・コだ! 口の利き方に気を付けろ、ガキ!」


 女がタカシの言葉に噛みつくように言い返す。


 サイコ! 聞いたことがある……。確か激しい銃撃戦が売りのFPSゲームを中心に動画配信で活躍しているゲーム実況者だ。その乱暴なプレイスタイルと歯に衣着せぬ発言(というか暴言)で人気がある一方、たびたび炎上もするお騒がせストリーマーでもある。

 最近もレジェンドプロゲーマーに「調子乗ってんじゃねーぞ」と毒づき、その界隈で叩かれてたのが話題になっていた。確か、本名はアイザワサエコだが、サイコパスにかけて、ネット上ではもっぱらサイコと呼ばれているとかなんとか。


 そのサイコがタカシをひと睨みすると、ついでのように聞いた。


「で、お前は何が出たんだ?」


 そう聞かれたタカシは自分のアームギアを操作する。すぐに彼の手の中にアイスホッケーで使われる黒い円盤、パックのようなものが具現化され表れた。


「俺のスキル? は、これ。どうも爆弾らしい」


 さらりと怖い言葉を口にした。


 おいおいどうなってんだこいつら。ヤバいもんばかり取り出しやがって。しかし動揺する俺とは対照的にサイコは「面白そうだなそいつも」と興味津々な目つきでくいついている。


「しかもこれ色々設定ができるみたいで……」


 端末の画面を見ながら説明を始めるタカシ。どうやら、彼のスキル:爆弾は、設定を変えることで、①直接ぶつけて爆発、②時間を指定して爆発、③離れた所から端末で起爆、することが可能なようだった。


 説明を読み終えたタカシは、手の上の黒い物体をまじまじと見ながら言った。


「でもこれってどういうことだろう? ここで何をやらされるんだろう?」


 不安そうにつぶやく彼の声にはまだ子供らしい面影が残っていた。


「たぶん理由があるんだ」


 俺が口を開いた。


「え?」


 二人が同時に声をあげ俺の顔を見つめる。


「何をやらされるのかはわからない。ただこのスキルと呼ばれるものには、理由がある」


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