#2 未知との出会い
気が付くと俺は見知らぬ部屋に横たわっていた。体を起こし辺りを見渡す。
――ここはどこだ……
どこかの部屋の中のようだが、薄暗くてよくわからない。とりあえず立ち上がって自分の体を確認してみる。特に異常はないようなので、あらためて周囲を観察する。
背の高い棚がいくつか並べられており、何かの倉庫のようだった。棚には梱包された段ボールや、液体の入ったプラスチックのケースなどが並んでいる。向かいの棚に口の開いた箱があったので中を調べてみる。どうやら中身はシーツか何かのようだった。
薄暗いのは明りが消えているせいだ。非常灯と思われるわずかな明かりが灯っているだけだった。特に危険はなさそうなので、奥へと足を進める。いくつかの棚を過ぎ壁に突き当たった。壁際には消火器が置かれ、その隣になぜかプランターがあり、色のついた植物が植えられていた。
壁際を見通すと少し先に扉が見えた。あそこから外へ出られるかもしれない。薄暗く息苦しさを感じるこの部屋からとにかく抜け出したい。そんな思いで扉に手をかけた。
「そこ、開かないよ」
突然天井から声が降ってきた。
「ひっ!」
驚いて声を上げる。
見上げると薄暗い天井あたりに人の顔らしいものが見える。どうやら棚の上に誰かいるようだ。声から察するにかなり若い……少年のようだ。
「誰だ?」
「俺? 俺はタカシ」
こちらの質問に少年?はそれだけ答えると、また黙ってこちらを見下ろしてくる。その声にはかすかに緊張が滲んでいた。まあ、突然暗がりで知らない大人と相部屋になったら警戒もするだろう。だが今、この状況で名前だけ名乗られてはこっちも困る……。
「いつからそこに? それにここはどこだ?」
あせる気持ちもあり、立て続けに質問を繰り返す。
「まあ、ちょっと落ち着いてよ」
そう言うとタカシと名乗る少年は仕方がないといった様子でするすると棚の上から降りてきた。横に立った彼の背丈は俺の胸元ぐらいで、フードのついたパーカーにひざ下まであるハーフパンツとラフな格好をしていた。
「ぶっちゃけ俺も何もわからない。なんか気づいたらこの部屋にいたんだ」
そう語るタカシに詳しく話を聞いてみると、彼はこの春中学生になる年齢で、家の近くの公園で一人でゲームをしていたら、突然周囲が真っ白になり気が付いたらこの部屋にいたという。つまり俺と同じ境遇ということで、それ以外のことは何もわからないようだった。
状況を把握できるような情報もなく落胆していると、「そう言えば」とタカシが部屋の隅を指さした。その方向へ目をやると小さな台のようなものが見える。近づくとそれは引き出しのついたテーブルで、その上になぜか一台のタイプライターが置かれていた。タイプライターには用紙がセットされており、覗き込むと薄明かりの中に入力途中らしき文字が読み取れた。
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ゲームワールドへようこそ
今回のゲームは見知らぬ三人の男女が閉じ込められた世界で、
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文章はここで終わっていた。なんなんだこれは……?、ゲームワールド?、三人の男女?
「なんだこれ?」
「さあ……」
俺の質問にタカシがわかるわけないという声で返事を返す。
「だけど、もし三人の男女が俺たちのことを指してるなら……」
タカシがそこまで言いかけた時、突然部屋の片隅が白く光り出した。見ると、床の一部が発光している。光はどんどん強く大きくなり、床の上で球体に拡大していく。その光の玉の中に、何かの影が見えるようだ。しばらくして、大きな卵のように成長した球体から光が消えると、そこに一人の女が姿を現した。
二十歳前後だろうか、若者のようだ。チノパンを履き上にジャージを着こんだ女が呆然とした顔で辺りを見回している。驚愕、困惑、その表情はちょっと前の自分を見ているかのようだった。まあ、そうなるわな……。
戸惑う彼女を見て、ここは大人としてショックを和らげる優しい言葉の一つでもかけるべきだろう。そんなことを思いながらセリフを考えていると、彼女の方から口を開いた。
「何だお前ら……?」
そう言って、こちらを鋭い眼光で睨みつけた。どうやら、彼女に優しい言葉は必要ないようだった。それからまるで尋問するかのように、矢継ぎ早に質問をあびせてくる彼女。
だが、俺の説明を聞いても納得せず怪訝な表情を浮かべるだけだった。そりゃそうだろう、俺自身が状況を把握できてないのだから。しまいには俺が若い女や子供をたぶらかして監禁しているのではと疑い騒ぎ出した。
「いいから早くここから出せ! 今ならまだ間に合うぞ」
「いやだから違うって」
「この人も突然ここに連れてこられたんだよ!」
激しく詰め寄る彼女に俺が言い返し、そこへタカシも加勢に加わる。出口の見えない押し問答を繰り返していると、突然タカシが「しっ」と人差し指をたてた。
「?」
口を閉じ耳をそばだてる三人。どこからか音が聞こえてくる。カシャカシャという音が……
──これは?
「タイプライターだ!」
タカシの声に机の方を振り返ると、先ほどのタイプライターがひとりでに動き出し、何か文字を打ち始めていた。