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#1 春の珍事

 とある土曜日の昼下がり、俺はアパートの自室で寝起きのスエット姿のまま、ベッドの上で寛いでいた。寛ぐ……と言うとどこか優雅な響きにも聞こえるが、実際は疲れたおじさんが、ただゴロゴロしているだけだ。


 俺の名はモリノアツヒコ。36歳、独身。派遣社員として都内の会社に勤めている。休日ということで、二度寝をむさぼった後、遅めの朝食をとり、そのままだらだらとスマホをいじり続けていた。


「ふぁ~あ……」


 生気のない顔で生あくびをひとつすると、頭を掻きつつ重い腰を上げ、洗濯物を洗濯機にぶち込み、開始ボタンを押す。そして、決して綺麗とは言い切れない、室内を一度見回し、


「掃除は……今日は大丈夫だな」


 都合よく自分を納得させ、再びベットの上にどかりと腰を下ろす。ほどなくして洗濯機の終了の合図を耳にすると、乱雑に洗濯物を干していき、終えた後にはもう何もする気がしなくなっていた。


 ──暇だな、酒でも飲むか……


 テレビでは桜の開花予想が流れるうららかな春の陽気の中、開け放たれた窓から流れ込むぬるっとした風を受け、ぼんやりした頭で怠惰のギアを一段上げるかどうかを考えてみる。


 その時ふと、テレビラックの隅にあるゲーム機が目についた。携帯型ゲーム機の”スライブ”だ。なんでこんな所に……? いぶかしみながらも、誘われるように手に取り、スイッチを入れる。すぐにモニターにゲームタイトルが映し出された。


『集まれ!モフモフぱらだいす!』


 ──うげっ!


 心の中で変な声が出た。何でそんなにうろたえたのか? 実はそのゲーム(通称:モフぱら)が別れた彼女との思い出のゲームだったからだ。あまりゲームをしない彼女が珍しくハマっていたのがこれだった。

 付き合っていた当時、この部屋に遊びに来た彼女が楽しそうにゲームをする姿をビールを飲みながら眺めていたっけ……。俺の脳裏に、ささやかだがほっこりとした時間、ウエットな思い出が蘇ってくる……


 ──って、なに思い出に浸ってんだよ


 心の中でツッコミを入れながらも、俺は何故かゲーム画面を閉じられずにいた。そのまま半ば無意識にスタートボタンを押し、気づけばプレイを始めていた。


 画面に表れたキャラクターを動かしてみるが、何をすればいいのかよくわからない。結局、彼女が好んでプレイしていた魚釣りを始めた。特に楽しいという感覚もなく、ただ無心で釣り竿を振っていた。

 途中で派手な柄シャツを着たあやしい目つきのキツネが近づいてきて、レアアイテムだという釣り竿を売りつけてきた。断るのも面倒なのでそのアイテム、"SSRの釣り竿"とやらを手に入れ、その後もひたすら魚を釣り上げていく。


 どのくらい時間が経っただろうか。何やら目の隅がチカチカしてきた。疲れたのか? ちょっとゲームしただけで目が疲れるなんて……俺も年か? だが、違った。おかしいのは俺の目ではなかったのだ。


 ゲームのモニターから目を離して、初めて部屋の様子がおかしいことに気が付いた。いつのまにか部屋全体が強烈な光に包まれたかのように白く輝いていた。


 ――おいおい!なんだこれ?


 驚いている間にも光は益々に強くなり、もはや壁や床はハッキリと識別できず、部屋全体が真っ白な発光体に変わっている。


 ――これは一体……?


 やがて周囲だけでなく、頭の中まで真っ白になり、俺は意識を失った。


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