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#15 恐怖との再会

 部屋に足を踏みいれた俺たちの目に最初に飛び込んできたのは、中央に据えられた大きな実験台だった。そこには見たこともない奇妙な器具と、怪しげな色を放つ薬品が無秩序に置かれていた。


 実験台の隣には、何に使うか見当もつかない機械がいくつも並び、管やケーブルが複雑に絡み合いながら床を這っている。うねうねと床を伝う管やケーブルは、途中に置かれた植物プランターや消火器を迂回し、伸びた先に、ひときわ異彩を放つ機械が鎮座していた。


 ガラスで出来た大きな筒状のその機械は、まるでホラー映画かSF映画に登場する液体槽、いわゆる培養ポッドのような形をしていた。前面のガラス部分は砕け散り、床に落ちた鋭い破片が周囲に不気味な光を反射している。機械の中は空で、そこから粘着性のある液体が滴り落ちていた。


「なんかまたやべえとこに来ちまったな……」


 サイコがつぶやく。


「ああ……」


 絞り出すように返事をする俺。そして同時に感じる悪寒。


 ──寒いな……


 薄気味悪い光景を目の当たりにして体に悪寒が走ったのかと思ったが、それだけではなかった。部屋の中に風が吹き込んでいたのだ。よく見ると実験台の奥には、外に面した大きな窓ガラスがあり、その一枚が大きく破れていた。そこから吹き込む風によってカーテンがはためいている。


 その風を受け呆然とした顔で俺が立ち尽くしていると


「あそこに」


 そう言ってタカシが左の壁を指さした。そこは一面ガラス張りの壁があり、その奥に院長室らしき部屋が見えた。あそこだ!、あの部屋に行けばヘリコプターの鍵があるはずだ。


「さっさと片付けようぜ」


 サイコがそう言うと身近にあったキャスター付きの椅子を、ガラスの壁に向かって思い切り蹴りつけた。勢いよく滑っていく椅子がガラスに激突し、大きな衝撃音が響いた。しかし、ガラスには傷一つつかない。


「ちっ」


 舌打ちするサイコにかわってタカシが前に出た。


「俺が試してみる」


 そう言って、手首のアームギアを操作する。すぐにこぶし大ほどのサイズの黒い爆弾が具現化された。それをガラス壁にセットすると、距離をとりアームギアをタッチする。火花と共に、爆発が周囲に轟音を響かせた。しかし、ガラスには僅かに亀裂が入った程度だった。


 防弾ガラスなのだろうか?、まったく破れる気配がない。それでも諦めないサイコが銃を構え、ガラスの亀裂に向かって発砲する。派手な音をたて銃弾はガラスに跳ね返される。ほとんど効果がないように見えた。

 爆弾音に銃声、続けざまの爆音が止み、部屋に静寂が戻る。


「どんだけ固てえんだよ」


 静かになった部屋の中でサイコがあきれたようにつぶやいた。思ったより厄介なようだ。何か別の方法を考えた方がいいのだろうか。


 その時だった。俺たちは何かの叫び声を耳にした。聞き覚えのある声、できれば二度と聞きたくなかったこの叫び声は……。

 一階で見たあのキメラだった。やつが血走った目でこちらをひと睨みすると、その巨体をかがめるようにして破られたガラス窓から侵入しようとしていた。


 下から登ってきたのか?、ここ15階だぞ……、恐怖と驚愕の入り混じった思いでキメラに目をやる。よく見るとその両手の指に、ヤモリの手のようにいくつもの細かい筋が走っている。その手がみるみる変形し、今は大きく鋭い爪を持つ手に変わりつつある。


 ──こいつ自分の体を変態させることができるのか……


 窓から侵入してきたキメラは、鋭い牙を威嚇するように突き出しながら、まるで値踏みするかのように三人を見比べる。その視線がタカシに止まる。一瞬の間を置き、キメラは猛然と彼に襲いかかった。しかしタカシは既にやつの行動を察知していて、素早い身のこなしで躱すと機械の隙間を抜け、培養ポッドの後ろに回り込んだ。


 タカシを取り逃がし、その場で動きを止めたキメラに、サイコが容赦なく銃弾を撃ち込んだ。三発、四発、銃弾を受け流血したものの、キメラは怯むことなく鋭い爪を立てサイコに襲い掛かった。その爪を素早くかいくぐり、サイコは研究机の上をダイブして、机の反対側に逃れる。


 ──どうする?どうすればいい……


 やつがサイコに気を取られているうちに、扉を開けて逃げ道を用意するべきか。おそらく全員一緒には逃げられないだろう、だが隙を見て一人ずつなら可能かもしれない……、しかし、そうなると誰か一人は取り残される可能性が高い。


 くそっ! 何か手は無いか?、タカシの爆弾は使ったばかりで今は使えず、サイコの銃弾にも限りがある。だからと言って、今ここで俺の釣り竿を振り回しても、何かの役に立つとも思えなかった。


 その時、あるものが目に留まった。


 ──あれを使えば多少の時間稼ぎには……


 キメラはまだサイコを睨み様子をうかがっている。俺は、その隙に静かにそれを手元に引き寄せた。


「おい!」


 俺はキメラに向かってそう叫ぶと、足元に転がっていた薬品の瓶をやつの体に向かって蹴り飛ばした。瓶はキメラに直撃し、ぐしゅっと鈍い音がした。もちろんやつがダメージを受けた様子はない。だが、その瞬間、やつは俺に顔を向けた。


 俺はすかさず手にしていた消火器をキメラに向けると、中身を一気に噴射する。真正面から白い消火液を浴びたキメラは、一瞬で視界を失ったようだ。パニックに陥ったのか、やつは叫び声をあげながら部屋の中をやみくもに暴れ回り始めた。


次回更新、02/22(木) 18:00予定

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