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#14 遺伝子を操作

 感染から回復したサイコ、そして俺とタカシの三人でエレベーターに乗り込みRのボタンを押す。滑るように動き出すエレベーター。


「けどヘリコプターがあったとして操縦できるのかな?」


 タカシがもっともな疑問を口にする。


「そりゃー、どうにかなるだろ」

「そうなの?」

「だいたいゲームってそういうもんだろ」


 サイコがそう言い乱暴に話を終わらせる。


 どうなのだろう? そうだといいんだが。今までのパターンからしてこのまま素直にヘリコプターに乗って飛び立てると考えるのはあまりにも楽観的過ぎる気もした。


 ポーンと到着音が鳴り静かにエレベーターの扉が開くと、目の前には空が広がっていた。エレベーターはだだっ広い屋上の屋外に設置されていたのだった。

 上空はどんよりと曇った鉛色で、ひんやりと冷たい風が吹いていた。それでも、久しぶりの外の空気に、少しホッとする。そして目的のものはすぐに俺たちの目に飛び込んできた。


「あった」


 俺が目を向けた方向、屋上の一角に、大きな円とHのマークが太い黄色で描かれており、その円の中に白と赤で塗装されたヘリコプターが一機、静かに佇んでいた。

 白地に鮮やかな赤のペイント、力強い色彩が希望の光のように映る。俺たちは急いでヘリに駆け寄り、操縦席の扉を開けた。


「うわっ!」


 俺の口から思わず声がこぼれる。中には一体の白骨化した死体があったのだ。ここまで何度か見てきたが、慣れることはできず思わず腰が引ける。骨だけの遺体はオレンジの航空服を着ており、頭蓋骨が操縦席から無念そうに空を見上げていた。


「またこれか」


 サイコは驚く様子もなく手荒に航空服をつかむと、そいつを操縦席から引きずり下ろす。その拍子に死体から、白い紙片が舞い落ちた。タカシが紙を拾い上げ、一読するとこちらに見せた。


 -----


 無念だ、ここまで来たのに

 ヘリコプターを動かすためのが鍵ない

 鍵は恐らく院長室だ

 しかし、もう私には時間が…


 -----


 読み上げたのが合図のように白骨死体はサラサラと音をたて風に散っていった。


 操縦席を確認すると操縦桿の横に鍵の差し込み口が見えた。そしてそのすぐ横に「オートパイロット」と書かれたボタン。鍵さえあれば操縦はどうにかなりそうだが……


「ここまで来てまた、鍵探しかよ」


 サイコがいらついた声をあげた。


 やはり一筋縄ではいかないようだった。


「行こう、これで最後だ」


 二人にそう言いながら、心の中で、そうだといいなと願っていた。


 エレベーターに乗り込み、フロアー案内を確認する。院長室は15階、この屋上のすぐ下だった。

 エレベーターを降りて、足を踏み入れた15階は、他のフロアとは雰囲気が違った。絨毯が敷き詰められた落ち着いた雰囲気。この病院全体が暗かったが、ここは暗さの種類が違う。単純に明りが弱いのではなく、間接照明で照らされているせいだった。廊下を進むと会議室、応接室などが並び、そして一番奥に院長室はあった。


 だが、扉は施錠されており、鍵は見当たらない。


「鍵、カギ、かぎ、kagiもううんざりだな!」


 サイコが俺たちの思いを代弁して罵声をあげた。


 ため息をつき、三人で手掛かりを探し始める。院長室を出て直ぐ向かいには、扉の開いた小さな部屋があった。中を覗くとそこは警備管理室のようだった。部屋の中に、各フロアを映す監視モニターが並び、デスクの上にはパソコンもあった。下の階で何度か見たのと同じパソコンだ。俺はパソコン操作しフロアマップを確認する。院長室を解錠する手がかりがないか探すが、見つからなかった。


 すると一緒にフロアマップを見ていたタカシがあることに気付いた。院長室の隣の部屋の壁が妙に薄いのだ。


「これもしかすると、繋がってるんじゃないのかな」


 マップ上で「lab」と書かれたその部屋は、かなりの大きさのようだ。すぐに警備管理室からその部屋へ向かおうとした時、監視モニターを見ていたサイコが叫んだ。


「おい見ろ!」


 彼女の視線は、13階のモニターに注がれている。そこに映し出されていたのは、大量のゾンビの姿だった。13階の遺体安置所の扉が壊され、ゾンビが廊下になだれ込んできたのだった。


「時間がない、急ごう!」


 俺たちは院長室の隣の部屋へと急いだ。その部屋の扉には「遺伝子研究所」と書かれていた。部屋の前に到着すると、扉は当たり前のように施錠されていた。やっぱりか……。

 だが、扉の前に、タブレットサイズのモニターが取り付けられている。これを操作して開くのだろうか?、俺は画面をタッチする。すぐに画面が明るくなり、何かの映像が浮かび上がった。


「なんだこれ? 気持ちわりーな」


 サイコが呟くように言う。


 画面には、赤と青の色が付いた、糸くずみたいな絵が、散らばっている。よく見ると、その絵はいくつかのブロックに分割され、ブロックの集合体で一枚の絵になっているようだ。ブロックの数は全部で15枚、その一個一個に糸くずみたいなものが描かれ、さらに右下に1ブロック分の空きスペースがあった。


 ──なんか見たことあるな……


 戸惑いながらも俺は手を伸ばし、人差し指でモニターに触れる。画面を通してブロックをつかむような感覚があった。そのまま指をスライドさせる。するとブロックが指の動きにあわせて移動して、空きスペースだった所に一枚のブロックが移った。その動きを見て俺の口から声がこぼれる。


「15パズルだ」


「15パズル」、別名スライドパズルとも言い、4×4のボードの上に15枚のブロックが置かれ、空いた1マスを利用してスライドさせ並び替える。1から15までの数字を並べるのが一般的だが、絵柄を揃えるタイプのものもある。


 そして今、目の前にあるこのパズルの絵柄、青と赤の曲がりくねった物体は、この色と形から想像するに、おそらくDNA配列図だろう。パズルが揃えば、医学資料などでよく見る二重らせん構造の絵柄が完成するはずだ。


 とりあえず仕組みとゴールはわかった。あとは完成させるだけだ。初めて見る複雑なデザインのパズルに、少し戸惑いながらも、俺はタッチパネルの操作を始める。


 だが、想像以上に難題だった。通常の数字が書かれた15パズルならどの位置にどのピースがくるかがわかる。しかし目の前にあるこの15パズルは正解の位置が予測できない。

 部分的に絵柄が揃っても、ピースの位置が正解とは限らない、結局途中まで組みあがったものをばらして初めからやり直すはめになる。そんなことを何度か繰り返し思わず頭を抱えた。


「まだなのか?時間ないぞ」


 すぐ横でサイコがせっついてくる。


「わかってる」


 短く答えて、パズルをやり直す。しかしまた直ぐに行き詰る。目の端に映るサイコの貧乏ゆすりをする足が気になり集中できない。


「代わるか?」


 イライラを隠せない彼女に俺が声を掛ける。一瞬驚いたような顔でこちらを見るサイコ。


「あぁ!誰が代わるか!」


 見事なまでの逆切れを返してきた。ため息をつき再度取り掛かろうとすると


「俺やってみる!」


 タカシが手をあげた。俺が場所をあけると、すぐにタッチパネルを見上げながら操作を始めた。ある程度絵柄を完成させては、崩すを繰り返している。結局やってることは俺と同じか、そう思っていると


「わかったかも!」


 ──え?、まじで…


 どうやらタカシは、一見似ているが微妙に異なる絵柄の違いを認識したようだった。それからは自信に溢れた動作でピースを動かし、その度に絵柄は揃っていった。

 ついに、最後のピースがカチッと音を立ててはまると、タッチパネルが「解錠成功」のサインを示した。その瞬間、扉に取り付けられたロックの解除音が静かに響き渡った。


 ひとつ息をすると俺たちは、ゆっくりと扉を押し開ける。しかし部屋へ足を踏み入れた瞬間、俺たちはその部屋の異様な光景に息をのんだ。

次回更新、02/21(水) 18:00予定

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