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#13 混色と喜色

 タカシの声がした方へ足を向けると、少し離れた場所で手を振っているのが見えた。彼は一台の大きな機械の隣にある机のそばに立っていた。

 そのままタカシの元へと走り寄った俺は、ある異変に気付いてぎょっとする。タカシのそばにある机、その机にセットされた椅子に誰かが腰かけているのだ。思わず立ち止まる俺。


「あ、これ? 白骨死体、多分一階にいたのと同じだよ」


 何でもないかのように言うタカシ。その白骨死体は生前研究者だったのか、白衣をい、今も何かの研究中かのように机に向かっていた。

 それにしても、子供は環境に慣れるのが早いというが……、新たなサイコパス誕生か?、そんな不安に駆られる俺に構わず、タカシが机の上を指さした。


「ここで薬草を使って実験してたみたいなんだ」


 机の上を見ると、そこには俺たちが先ほど摘んできたのと同じ赤と緑の薬草が散らばっていた。どうやらここが、解毒剤の作り方の鍵を握る場所のようだった。


 さて、何から始めるか……、俺が辺りを見回していると


「たぶんこれだよ!」


 タカシが白骨死体が手にしていたメモを取り上げた。見るとそのメモには何かが書かれていた。


 -----


 やった、ついに解明した!

 これでゾンビに感染しても生存が可能なはずだ

 方法は液体抽出機に書いてあるとおりだ


 ただ問題はあの色だ

 あの色をどうやって…


 -----


 解明したというのは、解毒剤の作り方がという意味なのだろう。あの色?、というのが気になるが……、そんなことを考えていると、目の前の白骨死体がさらさらと砂のように崩れ消えていった。相変わらず不気味な演出をしやがる。


「ここにレシピらしきものがある」


 タカシの言葉で、机の横の大きな機械を見ると、そこに付箋が張り付いていた。どうやらその機械が、液体抽出機のようだ。


「まずそれぞれの薬草を液体抽出機にかけて……」


 タカシが付箋を読み上げていく。


「混ぜ合わせてオレンジ色になれば成功だって」

「オレンジ色?」


 俺は首をかしげて聞き返す。


「赤と黄色を混ぜればオレンジ色になるはずだけど……」


 机の上の薬草を見ながらタカシが答えた。しかし、俺たちの手元に黄色の薬草はない。まだ足りないのだろうか?、俺は不安を覚えながらタカシに聞いた。


「下の階で黄色の薬草を見たか?」


「どうだろう…? 二階にはなかったと思う。後は一階の倉庫か。あそこは暗かったしよく覚えてないな」


 タカシの返事を聞き俺も思い出してみる。しかし一階の倉庫に生えていた薬草の色は思い出せなかった。それに、仮にあったとしても一階には戻りたくない。ガラスを破って襲い掛かってきたキメラの残像が脳裏に浮かび、思わず首を横に振る。


 仕方なく俺たちは手元にあるもので作業を始めた。大きな機械の挿入口に赤の薬草を入れスイッチを押すと、静かな作動音がして機械が稼働を始めた。しばらくすると機械の下に取り付けられたビーカーに、鮮やかな赤色の液体が出てきた。続いて同じ手順で緑の薬草を抽出し、緑色の液体が完成した。


「赤と緑か……」


 並んだ二つの液体を見て俺はふとあることを思いついた。


「確かテレビの画面は赤と緑が合わさり黄色をつくっている。そうか、これを混ぜて黄色の液体を作ればいいのか!」


 まるで新発見をした科学者のような気持ちで、興奮して声をあげる。その横でタカシも「おお!」と感心している。

 俺は直ぐに二つの液体を混ぜ合わせてみた。しかし、出来上がったものは濁った灰色か茶色のような色合いで、どう見てもオレンジとは程遠い。


「あれ?おかしいな……」


 俺のつぶやきを聞き、タカシの表情がみるみる曇っていく。

 よく考えてみればテレビの色は光の三原色、だがこの薬品は発光しているわけではない。一瞬で似非えせ科学者になり下がった俺は、混ぜ合わせる配合を変えたり、抽出をやり直すなどを繰り返す。色々試みたが、うまくいかない。


「足りない、やっぱり色が足りないんだ……」


 ひたひたと迫る焦りが絶望に変わっていく。思わず振り返ってサイコの様子をうかがう。離れた床の上にぐったりと横たわる彼女は、もうこちらの呼びかけに目を開くこともなかった。くそっ、時間がない。バンと机に両手をつき考える。


 ──何か、何かないのか……


 その時、液体抽出器の上に置かれた一枚の緑の薬草が目に入った。それは作業の途中でたまたま取り残された一枚の薬草だった。その葉の一部がなぜか黄色に変色していたのだ。どうやら抽出器を動かし続けていたせいで機械が熱を持ち、それに触れた薬草の一部が変色したようだった。


 ──黄色、これか!


「ユーレカ!」と叫びたい気持ちを抑え、俺は緑の薬草を抽出器の上に並べ始めた。俺の意図に気づいたタカシも手伝い始める。だが、並べた薬草は、一部に黄色の色むらができるだけで、思うように変色しない。


 おいおい、まだダメなのか。頼むよ……、もう祈るぐらいしかできることはないぞ。その時、タカシが机の上にある小さな機械を指さして言った。


「これを使うんじゃないの!」


 それは家庭の食卓で使うホットプレートを小さくしたような形をしていて、機械の筐体にもそのまんま「Hotplate」と書かれていた。タカシは緑の薬草を並べると、機械のスイッチを入れた。しばらくすると、薬草はみるみる黄色に変色していった。


 タカシから黄色に変色した薬草を受け取り抽出器にかけると、今度は黄色の液体が出てきた。俺は赤と黄色の液体を混ぜ合わせる。すると、ビーカーの中に輝くようなオレンジ色の液体が浮かび上がってきた。


「できた!」


 大小二人の科学者が声を合わせて叫んだ。


 俺たちは調合した薬をすぐにサイコに飲ませた。彼女の体の色が戻り、顔の血色もよくなってきた。しばらくして彼女が目を覚ました。


「よかった無事か!」


 俺の呼びかけに、ゆっくり体を起こしながら彼女は言った。


「無事なもんか」


「?」


 どういうことだ?、どこかに後遺症でも残ってるのだろうか。


「今度目を覚ます時は、自分の部屋って決めてたんだ。なのにまたこんな所に戻っ来るなんて、まじ最悪!」


 不機嫌そうな顔でこちらを睨みつけるサイコ。本気で怒ってるのだろうか?、あまりの剣幕に、助けたこちらが申し訳ない気分にさえなってきた。


「ふふっ」


 タカシだ。サイコの言葉を聞いてタカシが笑い出した。


「なんだ元気になったみたいじゃん」

「ちっ、ガキが生意気言うな」

「まあまあ、サイコは一番の武闘派だからさ、まだまだ働いてもらわないと」

「たく、人使いの荒いやつらだな。アタシは病み上がりだぞ、もっといたわれ」


 そう言いながらもサイコの表情は満更でもなさそうだった。元気に言い返す彼女を見てホッとする。あの悪態も彼女なりのコミュニケーションなのだろう。ただ、武闘派と言われ満更でもないサイコって……。


「だいたいなんでここにはガキとおっさんしかいないんだ。イケメン枠はなかったのか?」


 面倒くさそうに立ち上がりながら、サイコのボヤキは続いていた。そんな彼女の言葉を聞き流して俺は言った。


「とにかく、これでチーム復活だな。屋上でヘリコプターを探そう」

「おっさんとチームを組んだ覚えはねえ」


 光の速さでサイコに返された。


 チーム復活はともかく、サイコは完全復活したようだ。俺たちは屋上を目指すべく、エレベーターへ向かった。

次回更新、02/16(金) 18:00予定

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