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#10 難解な手術室

 3階4階と登ってきたが閉じられた部屋やシャッターなどの障害はなく、そのまま上を目指す。途中で二度ゾンビに遭遇したが、サイコがヘッドショットでなんなく対処した。

 5階に到着すると、6階へ続く階段がシャッターで閉じられていた。仕方なく三人で、5階のフロアー内の探索を始める。


 フロアーの廊下にはガラス製の覗き窓がついた扉が並んでいる。調べるとそれは手術室の扉だった。この階は、いくつもの手術室が集まるエリアとなっているようだ。俺たちは、手前から一つ一つの部屋を確認していった。


 一つ目二つ目と手がかりもなく、三つ目の部屋へ足を踏み入れる。


「うわっ!」


 中の様子を見てタカシが声をあげた。そこは今までの手術室と違い手術台の上に様々な手術道具が散乱していた。メス(スカルペル)、先の曲がったハサミのような鉗子かんし、注射器といった様々な器具が無秩序に置かれ、一部は床の上にも転がり落ちていた。


「きたねぇ所だな!」


 サイコが足元に落ちていたものを蹴り飛ばしながら言った。その衝撃で一本のメスが床を滑っていき、金属的な音を残して、壁際の作業台の下に消えていった。


「あれは」


 タカシが指さした方向にモニターのついた医療機械らしきものが並んでいる。そしてその隣に見覚えのあるパソコンがあった。二階にあったものと同じだ。これで階段のシャッターを解放できるかもしれない。

 俺がパソコンの電源を押すと、モニターが光り出した。


「今度なんだ? 医者の勤務シフトでも組まされるのか……」


 サイコがふざけた様子でつぶやいた。


 パソコンは、OSが起動したがパスワードの入力画面で止まってしまった。エンターキーを押すが先に進めない。


「くそっログインできない」


 俺は画面を睨んでそうつぶやくと


「どこかにパスワードらしいものはないか?」


 二人にそう言って、自分もあたりを見回す。


 ふと壁に目をやると、奥の壁の一部にいくつものデコボコした模様のようなものが並んでいた。まるで古代遺跡の壁画か何かのようにも見える。だが、それにしては精巧なつくりだ。デコボコのボコの部分はハッキリしたくぼみになっていて、それが規則的に整然と並んでいた。


 ──何か意味があるんだろうか?


 だがパスワードとは関係なさそうだ。そう思い直し周囲にある戸棚などを改める。しかし何も見つからない。


「開かない……」


 壁際の作業台机を調べていたタカシだ。どうやら作業台の引き出しが一か所だけ開かないらしい。


「爆破するか」


 条件反射のように言うサイコ。


「いやいやいや」


 俺がその短絡的な提案にあきれ顔で返事をし、タカシもやれやれという顔をしながら言った。


「言ったろ、爆弾はなるべく使わないと。きっと何かあるよ、ヒントが」


 タカシの言う通り、敵との遭遇時に爆弾のあることは大きなアドバンテージになるので極力温存しておきたい。それにここで使っても引き出しの中身まで破壊しないとも限らない。


 俺は先ほどの壁に改めて目をやる。デコボコとしたくぼみは何かの形に似ている、問題はそれが何の形か?、なのだが……


 ──ひょっとして!


 俺は手術台の上にある道具の一つを手に取ると、壁際ににじり寄った。手にした器具はボーンソウと言うのだろうか、細かいのこぎり状の刃がついた金属製の道具だ。

 壁のくぼみに同じような形状の所を見つけて、はめ込んでみる。くぼみに軽くあてがっただけなのに、手にしていたボーンソウは吸い付くようにくぼみの中に収まった。


「こういういうことか!」


 俺は二人に振り返り、このくぼみが各手術道具がピッタリ収まる形状でその収納スペースになっていることを説明する。

 それから三人で一つ一つの手術器具を手に取り、それぞれの形状やサイズを注意深く観察しながら、それぞれの収納場所を探し始めた。


 最初は間違うことも多かった。特に鉗子やメスは数が多く形状が似ていて、ぱっと見ではどれが正解か分かりにくい。こういうことが苦手そうなサイコからはイライラした様子が伝わってくる。

 その点、タカシは同種の器具の細かな特徴を見抜くのがうまかった。メスのサイズや刃のカーブ、鉗子の持ち手の形状の違いを見抜き、素早くぴったりの場所を見つけ出していた。


 一つずつ確実に、器具を正しい場所に配置していく。時間が経つにつれて選択肢は狭まるので、最後の数個はほとんど迷うことなく適切な場所へと納められた。


 ついに空いているくぼみはあと一つとなった。振り返り手術台を確認する。しかし手術台の上にはもう何も残っていなかった。


「どういうことだ?」


 俺の言葉に二人も当惑する。


 するとタカシが思い出したように口を開く。


「あれじゃない?さっきサイコが蹴っ飛ばした……」


「あ!」と言う俺、「!」って顔のサイコ、その顔がヤバいって表情に変わっていく。


 作業台の下を覗き込むと、奥の方でかすかに見える、メス。手を伸ばすが届かない。作業台は床に備え付けのようで動かすこともできなかった。


「どうするんだよ?」

「どうするって言われてもなぁ~、なんか棒っきれでもあれば取れんじゃねえか」


 問い詰めるタカシに、サイコが他人事のように答える。


「棒っきれ」その言葉を聞いてすぐに俺は思いついた、思いついてしまった。だが、なぜか実行するのが躊躇ためらわれた。しかし他の方法が思いつかない。


 ──仕方ないか……


 俺はアームギアを操作して、釣り竿を具現化した。それを手にして床に這いつくばり、狭いすき間になんとか釣り竿を通そうとするが、長すぎてうまくいかない。



 もう少し短いといいんだが…、そう思った瞬間、釣り竿にグンと反応が起こった、ような気がした。んっ? しかし見た感じ変化はない。気のせいかと思い直し、再度すき間に釣り竿を通すと今度はうまくいった。俺は釣り竿を器用に操り無事メスを引きずりだした。


「おー!」


 素直に感心するタカシ。その一方で


「アハハ!、役に立ったな、ニキのスキルが!」


 だから嫌だったんだよな……、高笑いするサイコを恨めしそうな顔で睨みつけ、


 ──もとはと言えばお前のせいだぞ!


 心の中で毒づいた。


 釣り竿をしまうと、俺はメスを拾い手に取った。これが最後のピースだ。それを残っていたくぼみに滑り込ませる。すると、壁が一瞬光ったような反応を示し、すぐに静かなカチャリという音と共に、作業台の引き出しのロックが解除された。


 引き出しを開けるとアルファベットの文字が書かれた一枚の紙片が出てきた。


 > infection


 おそらくこれがパスワードだろう。


「インフェクション?」

「たしか、感染……って意味だな」

「ちっ、気味の悪いパスワードにしやがって」


 俺の答えにそういってサイコは顔をしかめた。


 紙片に書かれた文字を入力し無事パソコンにログインする。パソコンに表示されたフロアマップで階段のロックを解除することでシャッターが開いた。

 俺たちはさらに上を目指して階段に足を踏み出した。

次回更新、02/10(土) 18:00予定

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