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#9 ハードな勤務シフト

「ちくしょうが」


 サイコが不機嫌そうに声をあげ、シャッターを叩く音が周囲に響く。

 廊下の先は予想通り階段だった。しかし階段の三段目あたりで、シャッターが降りていてそれ以上先に進めなかった。シャッターの上部、天井付近に小さなランプのついたボックス型の機械が取り付けられており、今は赤のランプが点灯していた。どこかで電気制御されているようだ。


「爆弾は使えようになったか?」


 サイコの問いかけにタカシがうなずく。一時間が経過し彼のスキル、爆弾が使えるようになっていた。


「サクッと爆破してさっさと上に行こうぜ」


 そう言うサイコに俺はある質問をした。


「今、弾は何発残ってるんだ?」

「ん? 残り一発だな」


 先ほどのゾンビとの戦いでサイコの銃弾はほぼ使い切ってしまった。フル装填されるまで後10分程だろうか。今の戦力を考えるとここは、慎重になったほうがいい気がした。


「タカシの爆弾は敵と遭遇した時の為にも、とっておいたほうがいいじゃないか?」

「たしかに」


 俺の提案にタカシが同意し、続けた。


「きっとシャッターを開ける手掛かりがあるはずだよ、探そう」

「ちっ、しかたねーな」


 しぶしぶという感じでサイコがつぶやいた。


 それから三人で全ての病室にゾンビがいないことを確認した後、各々目ぼしい場所の探索を始める。俺はエレベーターの所までいき、やはりカードキーがないと使えないことを確認し戻ってきた。


 近くで病室を調べているサイコとタカシの声が聞こえてきた。


「探索ごっこはもう飽き飽きなんだよな」

「ゾンビとやりあうよりはましだよ」


 そんな会話を耳にして、


 ──ゾンビか……


 先ほどの廊下での戦闘の記憶が蘇ってきた。なぜ俺はあの時ムキになって釣り竿でゾンビに向かっていったのか……、モヤモヤしたものが心に広がっていく。およそ自分らしくない行動だ。ヒーローにでもなるつもりか? 釣り竿ニキのくせに。そんな自嘲的な言葉が胸に浮かぶ。

 それとも道化の俺でも戦力であると、戦えるのだということを証明したかったのだろうか。


 ──とんだ中二病だな


 止めとけ止めとけ。無茶する必要なんてないんだ。ヒーロー、ヒロインがいるならそいつらに任せておけばいい。そう考えモヤモヤを振り払う。「俺は無理せず、お気楽にやっていけばいい」そう自分に言い聞かせると、探索を続けた。


 ナースセンターで、机に置かれているパソコンをもう一度調べてみる。画面に表示されているフロアマップにはこのフロア全体が載っていて、病室の所には見取り図だけでなく利用患者の名前や病名、投与されるクスリなどの情報が記されていた。

 マウスでフロアマップをスクロールさせていく。よく見るとマップには階段も載っていて、表示された階段の横には赤のシグナルが点灯し、閉鎖中の文字が記載されていた。


 ──!?


 このパソコンでシャッターの操作ができるかもしれない、そう考えてマップ上の階段にカーソルを合わせてみると、グレーアウトした「解放」の文字が浮かび上がった。その文字をクリックしてみる。しかし、文字はグレーアウトしたまま変わらなかった。

 その代わり鈍いエラー音と共に警告ウインドウが表れた。画面には「解放するには看護師のシフト表を完成させてください」の文字とOKボタンが表示されている。


 OKボタンをクリックすると、フロア図が消え新たな画面が開き、そこに縦横にいくつものグリッドが引かれた表のようなものが表れた。一瞬またクロスワードパズルかと思ったが、どうも違うようだ。表の枠外に記された0〜24の数字、これは時間を表しているのだろうか。

 さらに表の横には6名の看護師らしきネームタグが、赤や青、緑などに色付けされて並んでいる。


 ──これをどうしろというんだ?


 病室を調べていたタカシが廊下に出てきたので呼び寄せると画面を見せて説明する。二人がかりであれこれ口にしながら、思いつくことを試していく。

 グリッドの表に何かを入力しようとしても入れることはできない。看護師のネームタグをグリッド表にスライドさせてみるがこれも反応しない。


 途方に暮れ、やみくもに画面をクリックしていると、偶然「山崎」と書かれた赤のネームタグをダブルクリックしていた。すると、ネームタグだった四角が拡大し、その中に様々な形をした複数の赤いブロックが現れた。


「どういうことだ?」


 つぶやく俺にタカシが言った。


「このブロックでグリッドの表を埋めるんじゃない!」


 ──!


 どうやらブロックは各看護師の勤務希望を表しており、「午前中のみ」、「夜勤」、「週末のみ」などの希望が、直線型やT型、L型のブロックとして表現されているらしい。試しに「木村」と描かれた青のネームタグをダブルクリックする。やはり様々な形をした、青のブロックが現れた。

 そしてグリッドが引かれた表が、シフト表になっているのだ。つまり様々な形のブロックをグリッドに配置し、表を埋めていく。ただし、ブロックは重ならずに完全にグリッド内に収まる必要があり、全ての看護師の希望を満たし、かつ全ての時間を埋める配置を見つけなければならない。


「たく今度はテトリスごっこか……」


 いつの間にか後ろに来て覗き込んでいたサイコがぼやく。確かに、見ようによってはそう見えなくもない。


 俺はマウスを操作して、ブロックを埋めていく。限られたスペース内で全てのブロックを配置するのは、想像以上に難しかった。四角やL型のブロックで外枠から埋めていくのだが、必ずどこかで埋まらない隙間や、ハマらないブロックが出てきて、振出しに戻ってしまう。

 それでも根気よく続けて数十分後、ついに最後のブロックまで辿り着いた。


「ふー」


 ひとつ息を吐くと俺は残ったブロックをマウスでつかみ、隙間にはめ込んだ。全てのブロックがピタリとグリッドに収まり、シフト表が完成した。

 会ったこともない看護師たちだが希望は全て満たしている、きっと彼らも満足してくれるだろう。

 全てのピースがおさまるとブロックが粉砕し表が消えた。「勤務シフト完成」の文字が表示されフロアマップに戻った。


 図の中の階段にカーソルをあわせて表示された「解放」の文字をクリックする。グレーアウトだった表示が今度はアクティブに変わった。その瞬間、廊下の奥からシャッターが開くガラガラという音が聞こえてきた。


「やれやれだだな」


 隣の机の上で胡坐を組んで座っていたサイコが机から飛び降りながら言い、さらに銃を確認し続けた。


「まあおかげで、こっちはフル弾倉されたけどな」


 これでサイコの銃はフル装填、タカシの爆弾も使える状態となり戦力は整ったようだ。そのことを確認し俺たちは上を目指すべく階段へ向かった。


次回更新、02/09(金) 18:00予定

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