初めての恋の終わりと蝉の声
「私、一人で生きてくって決めたの。
もう別れよっか」
彼女からその言葉が出た時
僕の頭の中は真っ白になった。
ジー…ジー…ジー……
夏の始まりを告げる初夏の蝉の声。
蝉の声が鳴り響く
学園の裏山で
放課後、僕は恋人の由那と
待ち合わせしていつも会っていた。
学園に入学した時から
由那とはすぐ仲良くなり
気がついた時には付き合っていた。
僕の初めての恋で初めての彼女だった。
学園の裏山は生徒は誰も来ないので
二人きりになるのにうってつけだった。
いきなり由那は言い放った。
「私、一人で生きてくって決めたの。
もう別れよっか」
「別れる・・・?」
「そう。私、
あんたのこと嫌いになったの。
もう話したくないの」
「嫌いになったって・・・」
「私もう帰る。
あんたのこと飽きたのよ」
翌月、由那は突然転校した。
突然僕の前から消えてしまったのだ。
僕は由那と仲が良かった女子生徒に
必死に別れの理由を知らないか訊ねた。
「いきなり別れ話を持ちかけられて
いきなり転校して・・・。
何があったのかなって思ってさ・・・」
「あんた鈍いね。
いきなり嫌いなったから
別れるって言ったのは
由那が親の転勤で札幌に
引っ越すからだよ」
「でも一体どうして・・・」
「遠距離恋愛じゃ
上手くいかないからって
思ったかららしいよ。
宏志って頑固だから別れたくないって
言い出すに決まってるしさ。
由那さ、宏志には別の
新しい恋人見つけて
幸せになって欲しいから
強引な嘘をついて
別れ話をしたって言ってたよ」
それから
由那は電話番号もメールアドレスも
変えてしまっていた。
ある日の放課後、
僕は裏山のベンチに座り
空を見上げていた。
真夏になり
裏山の蝉が狂ったように
鳴き声を上げている。
夏の始まりに鳴り始めた
裏山の蝉の声は、
僕の恋の終わりを告げた。