97 マーカスとベル
楽しい物語になるよう心がけています。
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透き通るほど薄い紗をふんわりと被り、黄金のヘッドアクセサリーを付けたベルさん。
褐色の肌に、パッチリとした二重で瞳の色は透明感のある琥珀色だった。
鼻も高くて、唇もふんわり。
正統派美人とは彼女のこと。
また身長も高く、細身で姿勢の良さが際立っている。
もしかすると、武道の嗜みがあるのかもしれない。
同じく背の高いマーカス殿下と並び立てば、とても迫力がある。
彼女との最初の出会いは、閨からシーツを被り走って去っていくという衝撃的なものだった。
私はベルさんが、あの時の事を気にしているかも知れないので、触れない様にしようと心に決めていた。
「マクス殿、キャロル殿、久しぶりだな。そう言えば、うちの聖人が、何やら張り切っているぞ」
マーカス殿下は私達の前に現れた途端、気楽に話しかけて来た。
「ブカスト王国次期国王夫妻、ようこそソベルナ王国へ。お疲れのところを呼び出して済まない。マーカス殿、確かに、カルロ殿には先日からノード王国の孤児の件で、とてもお世話になっている」
「ああ、先日も子供達それぞれの個性に合った就学先を探していると言っていた」
「カルロ殿は適任だな」
「ああ、聖人を極めるつもりらしい」
マーカス殿下は、クスッと笑った。
「それはさておき、マーカス殿、おれ達にそろそろ彼女を紹介してくれないか?」
「ああ、すっかり忘れていた。彼女はオレの妃でベルだ。歳はええっと何歳だっけ?」
いや、それをここで聞く?
「殿下、わたくしは十八です!お忘れなく!!」
ベルさんは強い口調で言い返す。
あれ?か弱いイメージだったのだけど、、、。
「初めまして、ベル殿。おれは、ソベルナ王国の王太子マクシミリアンです。名前が長くて言いにくいので、マクスと呼んで下さい。そして、彼女は王太子妃のキャロラインです」
マクスが私を紹介したので、私も自己紹介をする。
「初めまして、王太子妃のキャロラインです。皆は私のことをキャロルと呼びますので、どうぞお好きな方で呼んでください。遠路遥々、ソベルナ王国まで来て下さり、ありがとうございます」
そして、ゆっくりとカテーシーをする。
私は視線を一旦下げて、またゆっくりと上げた。
すると、ベルさんが両手で口を覆っている。
どうしたのだろう?と思った瞬間、、、。
「か、か、可愛い!!キャロルさん、噂には聞いていましたが、本当に恐ろしいくらい可愛いいですぅ。その愛らしい瞳は罪です!!」
ベルさんは、目を潤ませながら、一気に捲し立てて来たので、私はその勢いに負けて、口を半開きのまま立ち尽くしてしまった。
べ、ベルさん?
「驚かせて済まない。ベルは思ったことをハッキリ言うタイプなんだよ」
マーカス殿下が、私に謝る。
「え、ええ、そうなのですね。沢山お褒めの言葉をありがとうございます。ベルさんこそ、とても美しい方で驚きました。マーカス殿下もカルロ殿下も正統派美人がお好きなのですね」
「カルロが女!?」
ベルさんが叫んだ。
あ、カルロ殿下の名前は呼び捨て、、、なのね。
「ベル、カルロは、先日とある女性に対して女神のように美しいと無自覚で発言して、周りをザワつかせた。後日、崇拝したいほど美しいとも言っていたらしい」
「カルロが女を崇拝!?大災害でも起きるんじゃない?」
私達を他所に、二人は盛り上がる。
「その女性は我が国の大魔法使いです」
マクスが会話に参戦した。
「マクス殿下、下さい!!」
ベルさんは、マクスにグワっと近寄る。
マーカス殿下が、慌ててベルさんの腕を掴んで止めた。
私には分かる。
今、マクスは、とても混乱している。
「、、、、下さい?」
マクスは、ベルさんの言葉を復唱する。
「はい、カルロに、その大魔法使い様を下さい!!」
後ろから腕を引っ張って止めようとするマーカス殿下の努力も虚しく、ベルさんは止まらない。
勢いに負けて、マクスは黙り込む。
「あの、大魔法使いサンディーの気持ちも聞いてから、お返事すると言うことにしては?」
仕方なく、私が口を出す。
すると、私の発言を聞いて、我に返ったのか、マクスが口を開いた。
「そうだな。そうしよう!ベル殿、当人同士の気持ちを確認してから、この件は進めよう。おれも、彼らを特に邪魔するつもりはない」
「はい、ありがとうございます。是非是非!よろしくお願いいたします」
ベルさんの情熱が凄い、、、。
「ベル、ここはブカスト王国じゃ無い。発言には気をつけろ」
マーカス殿下が、ベルさんに注意した。
「マーカスが言わないから、代わりに言ったのよ」
気持ちいいほど、ツンと言い返されていた。
自然と二人の力関係が見えてくる。
私は、予想外の脱線で、ここに四人で集まった目的が、頭から消え去っていた。
すると、マーカス殿下は、タイミング良く、私達の目的に近づく話題を持って来る。
「マクス殿、ジョージ王子のことを父上から聞いた。謹んで、お悔やみ申し上げる」
マーカス殿下とベルさんは一瞬で、落ち着いた雰囲気になり、目礼をした。
「マーカス殿、こちらこそ迅速に連絡を貰えて助かった。礼を言う」
マクスに合わせて、私も目礼で返した。
「いや、礼には及ばない。無事に発見出来ていれば一番良かったのだが」
「もう過ぎたことだ。そこは気にしないで欲しい。そして、お二人を呼んだのは、この件で聞きたい事があったからだ」
「ああ、機密事項以外なら何でも答えよう」
マーカス殿下は腕を組んで、マクスの質問を待つ。
「王龍の神殿につい、、、」
「ちょっと、待て!」
マーカス殿下が、マクスの言葉を遮った。
「それは機密だ」
「そこを何とか、、、。いや、既に場所は分かるんだが、勝手に入ったらダメだろう?」
マクスは、カマをかける。
実際に場所を知っているのはピピであって、私達は知らない。
「いや、場所を知っていようと機密は機密だ。話せない」
残念ながら、マーカス殿下は堅い守りを見せる。
「マーカス、何故隠すの?」
ここで、予想外の援護射撃が来た。
「いや、ベル。国家機密は簡単に話せない。国を揺るがす訳には行かない」
「だけど、王龍の信仰の話くらいで、国は揺らがないわ」
「それでも、信仰している国民もいるんだ。簡単には言えない」
二人がもう少し話してくれたら、真実がポロっと出て来そう。
「王龍信仰をしている奴らなんて、碌なもんじゃ無いわ」
ベルさんが、吐き捨てた。
「信仰は自由だ。災害の多い我が国では、心の支えとしている者もいる」
「大体、お金を集める信仰は詐欺よ」
「別にオレは王龍信仰の奴らを庇っている訳じゃ無い」
「それなら、話したら良いじゃない」
ベルさんは腰に手を当てて、勝ち誇っている。
「あーもう!!」
マーカス殿下が、頭を振った。
あ、負けた。
あの太々しいマーカス殿下が負けた。
ベルさん、凄い。
「話す。ただし、極秘にして欲しい」
神妙な面持ちで、マーカス殿下がマクスに言った。
「ああ、もちろん他言はしない」
「はい、私も他言しません」
マクスと二人で声に出して誓う。
「まず、大陸を作った龍の話は、ブカスト王国の神話として有名だが、ご存知か?」
「ああ、それは知っている。ブカスト王国が、この大陸で一番歴史がある国だと言うことも」
「その神話と今回の話に出てくる“王龍の信仰”は別物だ」
「別物?」
マクスが首を捻る。
「王龍の神殿は、かつて、龍のねぐらと呼ばれた秘境に建てられた宗教施設だ。王家とは全く関係ない。ただ、龍のねぐらは神話上の聖地で、ブカスト王国の王家が管理している土地だ。そこへ勝手に宗教施設を建てているのだから、王家は当然、四六時中、監視している」
マクスは少し考えてから、こう言った。
「聖地を宗教団体に乗っ取られているということか?」
「、、、、ああ、その通りだ」
マーカス殿下はこめかみに手を当てて、とても嫌そうな顔をしている。
内容が内容だけに言いたくなかったのだろう。
「それは、厄介だな」
マクスの顔に、聞かなければ良かったと書いてある。
「マクス殿、キャロル殿、お二人のお祝いをするために、オレたちはここに来た。せめて、この数日だけでも、此処のところの騒動を忘れるべきだと、お二人にオススメする」
マーカス殿下はマクスに真面目な顔で話した。
私達が色々と考え過ぎて、楽しめなくならない様に気遣ってくれているのは、単純に嬉しい。
マクスは、何と答えるのかしら。
「ああ、そうする。しばらく忘れる」
口を尖らせて拗ねる様な、その言い方が、普段の冷静沈着なマクスと違い過ぎて、面白くて、私は吹き出した。
同じく笑い声がすると思ったら、ベルさんもいい笑顔で笑っていた。
ベルさん、明るくて、豪快で良い人だ。
「では、ブカスト王国を代表して、お二人の結婚を心から祝福いたします」
マーカス殿下が言い終えると、二人は揃って、私達へ深々と礼をした。
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