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ソベルナ王国の魔法使い(魔法使いの元男爵令嬢はハイスペ王太子を翻弄する)  作者: 風野うた
第一部 その願い100%叶います!(天使カードに軽い気持ちで魔法付与をしたら大変な事になりました)
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96 氷河地帯

楽しい物語になるよう心がけています。

誤字脱字等のご連絡は感謝いたします。


 あれから怒涛の日々が過ぎ、いよいよ明後日、王都パレードと夜会を迎える。


私は持っている力を振り絞って、ソベルナ王国の貴族達、諸国の王族と有力貴族、そして国の機関、役職名と役職者、業務内容に加え、大きな商会などの情報も暗記した。


今、一言話せば、何か一つを忘れてしまいそうなくらいの詰め込みっぷりである。


正直なところ、当日まで誰ともクチヲキキタクナイ。


そんなナーバスモードの私と違い、マクスはいつもと全く変わらない。


ただ、彼がとても忙しいのは間違いないと思う。


何故なら、日付が変わる頃に部屋へ戻り、早朝には執務室へ向かう生活をしているからだ。


それを分かっているのに、スヤスヤと気持ち良さそうな顔をして寝ているマクスを眺めていると、急に腹が立って来た。


私は、明後日のことが気になって、この夜も眠りが浅く、何度も目が覚めた。


“この状況で、何故そんなに余裕なのよ!”


完全に理不尽な言い分でしかないけど、マクスが気持ち良さそうに寝ているのが気に食わない。


おもむろに手を伸ばして、ギュッとマクスの頬をつねった。


もう、それは完全に無意識と言っていいほど、衝動的に。


パチっとマクスの目が開いて、吸い込まれそうに美しい紫の瞳が私を捉える。


そして、、、。


「・・・・・・」


マクスは、とろけてしまいそうな甘い笑みを私にくれた。


目が釘付けになったまま、私の罪悪感は爆発した。


疲れて眠っている夫を、つねって起こすなど、私は何をやっているのだ!と。


「・・・・ごめん」


蚊の鳴くような声で謝った。


「眠れないのか?」


優しい声でマクスは上掛けから、片腕を出し、私の頭を優しく撫でた。


「キャロル、総務部のアメリアから、この一週間、キャロルは国のことを片っ端から覚えたと聞いた。よく頑張ったね。偉い、偉い」


そう言うと、更に頭をグルグルグルグルと撫でる。


ここまでされると、流石に悪意を感じるのだけど。


「んー!もう!!ボサボサになっちゃう!ヤメて!!」


私はマクスの手を抑えた。


マクスの言うアメリアは、マルコ次官の部下で、度の強いぐるぐるメガネがトレードマークの女性だ。


実家は、サザンマレリー侯爵家で、自分は二男四女の三女なのですと、彼女は話す。


そのアメリアは、この一週間、私に付きっきりで、様々な人間関係や組織を教えてくれた。


質問すれば、スラスラと何でも答えてくれ、頼りになる。


優秀だなと思っていたら、一昨年、王立学園を次席で卒業したと本人から聞いた。


年齢は、私より二歳年上らしい。


年下だと思っていたから、とても驚いた。


そして、あのメガネを外せば、彼女は絶対美人だと思うのだけど、、、。


「フフフ、おれの人生で、つねって起こされたのは初めてだよ」


マクスは、イヤミに聞こえなくも無い言葉を笑顔で言う。


どう言う感情?


「マクスの余裕は、今までの積み重ねよね。それに比べて、あまりにダメな自分に腹が立って、、、」


口を尖らせて、私はネガティヴを吐く。


「キャロル、充分だよ。それで出来ていないと言ったら、この国から役人が消えるぞ」


マクスは、怒ることもなく許してくれる。


「八つ当たりしてごめんね」


私はマクスの頬に手を伸ばして撫でた。


「で、今は何時だ?」


マクスは天蓋のカーテンを開けた。


室内は既に明るい。


時計を見ると、六時半を少し過ぎている。


「おれは、そろそろ起きる。キャロル、今日の予定は、、、」


そこまで言い掛けて、マクスは口を閉じた。


急に黙り込む。


とりあえず、私は洗面所に行くため、ベッドから降りようとする。


そこで腕をギュッと掴まれた。


「何?」


マクスは、視線を一度天井に向けてから、一息ついて、私を見た。


「ジョージの遺体が見つかった」


「は!?」


折角覚えたことが、この一撃で百個くらい飛んで行った。





 身なりを整えた私達は、急いで王太子宮を出る。


陛下は念話を使い、マクスにジョージ王子の訃報を伝えた。


詳細は後ほどと言われたので、私達は国王陛下の執務室へと向かう。


執務室の近くの廊下で、トッシュ少年とジャンに出会った。


彼らも陛下に呼ばれたとの事。


ジャンは分かるけれど、何故にトッシュ少年?


私は疑問に思いつつ、皆と一緒に陛下の執務室へと入った。


「父上、ジョージの遺体とはどういう事ですか?誰かに殺されたのですか!」


マクスは開口一番、陛下に詰め寄る。


「マクス、落ち着け。夜中に起こったことの説明をする」


陛下は、私達四人を椅子に座らせてから、話を始めた。


「未明に、ブカスト王国の国王から、『昨夜十時ごろ、氷河地帯の警備隊が、ソベルナ王国の紋章が刺繍されている衣服を身に付けた男性の遺体を収容した』と連絡が入った」


氷河地帯ですって!?


たまたま昨夜、探索したあの物凄く寒い氷河地帯、、、。


「そして、身元確認のため、私とピピは、ブカスト王国の氷河地帯ミノン駐屯地まで即座に行って来た」


「ピピ!?父上とピピが行ったのですか?」


マクスが驚きの声を出す。


「ああ、流石に私もブカスト王国の見知らぬ場所へ正確に飛ぶ自信はないからね」


ピピ、皆に頼られ過ぎ、、、。


「それから、ピピはジョージを逃してしまったのは、自分達の失態だとずっと嘆いていた。今回、私が頼んだら直ぐに協力してくれたよ」


「確かに嘆いていましたね」


マクスは肯定した。


「そして、収容されていた遺体を確認した。遺体は間違いなくジョージだった。彼の死因は凍死だ。遺体は持ち帰り、王家の霊廟に安置している。ブカスト王国の国王はこの件を公表しないと約束してくれた」


サバサバと話す陛下。


ジョージ王子に問題が多かったとしても、キッパリと割り切って対応する陛下を見て、その姿を冷たく感じてしまう私は考えが甘いのかな、、、。


「父上、不謹慎かも知れませんが、割り切り過ぎでは?」


うわっ!?マクスが言っちゃった。


途端に陛下の顔が曇る。


「マクス、今は国王として発言している。悲しむのは家族の前だけでいい」


陛下の声は少し震えていた。


「すみません。余計な発言でした」


マクスは直ぐに詫びた。


「あのー、発言しても?」


ジャンが小さく手を挙げた。


「ああ、何だい」


陛下が発言を許す。


「どう言う形で、ジョージ王子殿下の訃報を伝えますか?明後日は王太子殿下結婚の祝賀行事が控えています」


早速、元の空気に切り替えてくるジャンに驚いた。


弟は強者だった。


「まず、ジョージの訃報は二週間後に、病死として国民に伝える。明後日の夜会は体調不良で欠席とする。また、王弟妃カシアは王族から籍を抜く。手続きが終わり次第、カシャロ一族と共に処分する」


処分、、、。


重い響き。


大罪人は命を持って償わせる。


それは当然なのかも知れない。


だけど、彼らが何をして、どう言う風に私利私欲に溺れて、多くの犠牲者を出したのか、後からでも知りたい。


何となく、こう言う裁き方が普通ですとは成りたくない。


これが、こうだから、こうなるのですと正しく理解したい。


そして、陛下が口にした“一族を処分する“と言う言葉は、それ相当の覚悟が必要なことくらいは私にも分かる。


今後、マクスの横に立つなら、少しでも彼を支えられる存在になりたい。


既に、ネガティヴを吐くくらいの、へなちょこだけど、、、。


「陛下、僕に何かご協力出来ることはありませんか?」


唐突に、トッシュ少年が陛下に質問した。


「トッシュ殿、お聞きしたいことがある。勿論、国の機密ならば無理に答えなくても構わない。氷河地帯に何か重要なものでもあるのだろうか?ジョージは何を目指してあのような場所に軽装で居たのかが、分からないのだ」


「陛下、氷河地帯は、この大陸を作ったとされる龍の伝説がある地です。ただ、氷河地帯は過酷な環境ですから、誰も居住していませんし、何も無いと思います。僕はそれ以上の情報を持っていません」


あれ、トッシュ少年は王龍の神殿を知らない!?


それとも、機密だから、言えないのかな。


私は念のため、横に座っているマクスを引っ張って、耳打ちをした。


「王龍の神殿って、ピピは言っていたわよね?」


私の言葉を聞いて、マクスも私に耳打ちして来た。


「一先ず、王龍の神殿は置いておこう。マーカスに確認してからの方が良いだろう」


「確かに!では、黙っておきます」


マクスの機転が効いた回答に、私は同意した。


「そこの二人、朝からイチャつかないでくれない?」


ジャンがイヤミったらしく、私達に向かって言った。


「ジャン、ヤキモチか?」


マクスが言い返すと、トッシュ少年が、クスッと笑った。


可愛い。


「さて、緊急の伝達は終わりだ。まずは明後日の慶事をしっかりとやり遂げよう。トッシュ殿、マーカス殿が今日の午後、ベル殿と一緒に到着する予定だよ」


陛下は、トッシュ少年に優しく語り掛けた。


分かり易く、トッシュ少年の表情が喜びに溢れる。


「陛下、教えて下さり、ありがとうございます。楽しみです」


「ああ、勉強の成果を見せると良い、マーカス殿も喜ぶだろう」


「はい!!」


トッシュ少年の元気な返事で、その場の全員が和んだ。


最後まで読んで下さりありがとうございます。

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