表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ソベルナ王国の魔法使い(魔法使いの元男爵令嬢はハイスペ王太子を翻弄する)  作者: 風野うた
第一部 その願い100%叶います!(天使カードに軽い気持ちで魔法付与をしたら大変な事になりました)
94/127

94 月明かりに照らされて

楽しい物語になるよう心がけています。

誤字脱字等のご連絡は感謝いたします。


 おれは、キャロルが長年微妙な立場に身を置いていたと、ローデン伯爵邸で思い知る。


“騎士にもならない、跡取りでもない女の子”


この祖父母は、事情を知らないまま“キャロルをどう育てよう”と、悩んでいたのかも知れない。


「だから、お祖父様は縁談ばかり持って来たのね」


キャロルが小さな声で呟いた、一言にドキッとした。


ああ、誰かに彼女を取られなくて、本当に良かった。


それと、ローデン伯爵に、エルダー王国の妖精の血を、暗黙の了解で繋いで来たという話を聞いた時、何かが胸の中にストンと落ちる感じがした。


 エルダー王国の血が濃いサンディーは、色々と秘密を隠している。


人を生き返らせたりする技は、恐らく魔法では無い。


魔塔の周りに精霊の使いが多く住んでいるのも、大昔の彼女の仕業かも知れない。


いつか、その辺りをサンディーに詳しく聞いてみたいと思っている。


素直に答えてくれるかは分からない。


また、生き返ったサンディーが、今後、子を産むならば、ローデン伯爵達が繋いで来た妖精の血よりも、遥かに濃い血を持った子供が産まれるだろう。


だが、おれは、サンディーが結婚や、子を持つことを望まないのなら、それでもいいと思っている。


だから、ローデン伯爵にはサンディーのことを詳しく教えるつもりは無い。


自然と消えゆくものがあるのも世の常だからだ。


 

 うさぎ肉のパエリアと一緒に、ローデン伯爵は心臓という名が付いた赤ワインを振る舞ってくれた。


血のように赤黒いワインは、少しアルコールが強く、うさぎ肉特有の獣臭さを飛ばしてくれる。


「ローデン伯爵、このワインは料理との相性がとてもいい」


おれが感想を述べると白髭の伯爵は、ニコッと笑った。


 最初は、ピピのことが頭を過り、食べる事を渋っていたキャロルも、今はスプーンでパエリアを口に運び、美味しそうな表情を見せている。


「このワインは少し強いから苦手かも、、、」


心臓という名のワインを片手に、キャロルは言った。


「確かに度数が高いからね。キャロル、その辺で辞めておきなさい」


ローデン伯爵が、キャロルに無理はしない様にと促す。


おれはキャロルの手から、グラスを奪った。


そして、それを一気に飲み干す。


「マクス!?」


キャロルが驚きの声を上げる。


「おれはこのワインを結構気に入っているから、、、」


「んー、もぉー!飲みかけを奪って飲むなんて!!マクス、お行儀が悪いわよ」


「キャロルの飲みかけだから、気にしない」


「いや、そこは人前なのだから、気にして欲しかったわ」


「ハハハ」


「笑って誤魔化さないで!」


おれたちが、いつものノリで、ワチャワチャしていると、それを見たローデン伯爵夫妻は何かをヒソヒソと話している。


「お祖父様とお祖母様、何を話しているの?」


キャロルは、ストレートに聞いた。


「いや、キャロルがそんなに明るく話しているのを初めて見たから、私達は驚いたよ」


「そう?いつも私はこんな感じよね、マクス」


「ああ、そうだな」


おれの一言で、何となく目の前の二人がシュンとした気がする。


「ローデン伯爵夫妻、キャロルは秘密を抱えて、色々と我慢していたのかも知れない。これからはお二人に何でも本音で話せるだろう」


「確かに、思っていても言えないって場面が多かったわ。これからは何でも言うから、お祖父様、お祖母様、宜しくね!」


キャロルは元気良く宣言した。


「ええ、そうして頂戴。殿下と楽しそうにおしゃべりをしているあなたが見られて嬉しいわ。今日は来てくれてありがとう」


夫人は感慨深そうに、言葉を紡いだ。


キャロルはそれを笑顔で受け止めた。


「さぁ、キャロル。デザートはお前の好きなバスクチーズケーキだぞ。ヘイリー、準備を!」


「はい、旦那様」


「バスクチーズケーキ!?うわー、大好きよ。楽しみだわ!!」


キャロルの喜び顔を、ローデン伯爵は目尻に皺を寄せながら見ていた。


その横では夫人も微笑む


 最初はどうなることかと思った夕食も、最後には良い雰囲気になって、ホッとした。


漸く、ローデン伯爵夫妻がキャロルをキャロルとして認めてくれた気がする。


彼女もそれを感じているだろう。




 おれ達は、突然尋ねた上、夕食までご馳走になった。


何の文句も言わず、温かくもてなしてくれたローデン伯爵夫妻に心から感謝したい。


行事がひと段落ついた頃、キャロルと一緒にまた来よう。




 月明かりの下、二人で手を繋いで歩く。


「夕食は美味かったな」


「マクスとあのメニューを食べるのは、ちょっと不思議な気分だったわ」


「そう?」


「そうよ。一緒に祖父母のところへ行くなんて、考えた事も無かったから」


「赤ワインは、ニ種類とも美味しかった」


「私は、赤シャンパン?えっと、赤いスパークリングワインの方が好きよ」


私は、マクスと繋いだ手をブンブンと前後に振った。


突然訪問して、夕食を一緒に食べてから、祖父母たちの家を後にした。


また突然来るわね!と気軽に言ったら、二人で呆れた顔をするから、笑っちゃった。


祖父母ともこれからは色々とお喋りをして、新しい関係を築いていきたい。



 そして、今から二人で黒の森に行こうとしている事は心配しそうだから話さなかった。


マクスも帰り際、この後のことには触れなかった。


多分、正しい選択だったと思う。



 さて、ハーゲン・ロックが目印の黒の森。


実は私も森の中には入った事がない。


ジャンと野山を駆け巡っていた時も、近づいたらダメって言われていた。


オバケは無理だけど、可愛い妖精が出てくるのは多分平気。


少しワクワクしている気持ちをマクスに伝えたら、笑われそうな気がする。


「キャロルは黒の森に入った事がある?」


「無いわ。入ったらダメって言われていたから」


「何かありそうな気がする?」


「んー、それは分からないけど、流石にオバケはいないよね」


「妖精はいるかも知れないな」


あ、やっぱり、マクスもそう考えたのね!


「ピピみたいに可愛い子なら嬉しいけどね」


「ああ、そうだな」


前方に黒い塊が見えてくる。


「マクス、あれハーゲン・ロックかも」


「あー、あれか。結構大きいんだな」


マクスは視線を岩の方に向けて、何かを考えているのか、急に黙り込んだ。


私は繋いだ手を、好き勝手に振り回す。


マクスは思考の淵にいて、わたしのイタズラにも気付いていない。



 とうとう、私達は岩の前に辿り着いた。


私の記憶より、大きかった。


何メートルあるのだろう?


まじまじと見つめながら、大きさを考える。


高さは四メートルくらい?


「キャロル、ピピを」


「あ!そうだ。ピピを呼んで、ここの事を聞こう」


「まぁ、それもいいけど、先に転移ポイントだな」


私は、指輪に魔力を流した。


宙から、白い毛玉が降ってくる。


「キャロル、お呼びですか?」


可愛い相棒は、首を傾げて聞いて来た。


「ピピ、来てくれてありがとう。これから、転移ポイントの探索をしようと思って」


私はピピの背後を指差した。


「ピピ、ここにお前の仲間とかはいるのか?」


マクス、フライング!?


私には探索の後で聞けって言ったよね。


むぅー!


「キャロル、膨れっ面可愛すぎる、プッ」


マクス、違う!


ここは笑うところでは無い。


私は怒ったのよ。


「殿下、ミーの知っている精霊と眷属の妖精は王家の森にいますから、ここの状況は分かりません」


「ピピ、それってお引越ししたってこと?」


「お引越し、、、?そうですね、お引越ししたのかも知れません」


少し引っ掛かる回答をするピピ。


「まぁいい、先ずは転移ポイントを探すか」


マクスが、指示を出した。


話の途中だったのに!


「では、転移ポイント出て来い!」


私は手を挙げて、願いを口に出した。


だけど、いつも出てくるオレンジ色の柱が出てこない。


「あれれ?」


「キャロル、ココじゃないのかもしれないな。少し森に入ってみるか?」


「ピピも、お供します」


マクスは私の手を引いて歩き出す。


目の前の真っ暗な森に平然と入って行けるから凄い。


「ねぇ、道も無さそうだけど、、、」


「木の下はそんなに草も生えてないから大丈夫だ。歩ける」


そう言って、何かが出て来そうな森の中を、ズンズンとマクスは進んでいく。


ピピもその横を跳ねて付いてくる。


最早、私は引き摺られていると言って良いのでは?


そんな状態で、十五分ほど歩いただろうか?


少し息も上がって来た頃、マクスの足が止まった。


私は転ばないように足元に向けていた視線を上げる。


そして、月明かりに照らされていた風景に息を呑んだ。



 案の定、この森には秘密があった。


私達が辿り着いたのは、古の遺跡らしき場所。


そして、その遺跡の中に、オレンジ色の柱が立っているのが見えた。




 



最後まで読んで下さりありがとうございます。

面白いと思ったら評価、感想のほど、どうぞよろしくお願いいたします。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ