92 騎士になれ
楽しい物語になるよう心がけています。
誤字脱字等のご連絡は感謝いたします。
まだ夕日が地平線に潜る少し前、私達はローデン伯爵家の前に辿り着いた。
忙しいのに一緒に行こうと言ってくれたマクスには感謝しかない。
繋いだ手にギュッとチカラを込める。
「マクス、ありがとう」
「どういたしまして、それより早く感動の再会をしないと」
マクスは繋いでいない方の手で邸を指差した。
---ーー今から遡ること六時間。
絵画の前に二人で立ち、じーっとハーゲン・ロックを眺める。
「結局、エルフの森には行ってないな」
視線は絵に向けたまま、マクスは呟いた。
「そうね。ローデン伯爵領へは、私の祖父母も住んでいるから、出来れば行きたかったのだけどね」
祖父母とはだいぶん会ってない。
私が王太子妃になると聞いて、二人はさぞかし、驚いていることだろう。
「それなら行くか?午後は予定があるけど、夜なら行けると思う」
(え!?行って良いの!!)
「何時位に?」
「18時過ぎには・・・。ただ、日帰りになってしまうけど〜」
「うううん、大丈夫よ。じゃあ、最初に祖父母の所へ行ってから、エルフの森へ行こう。転移ゲートは暗闇でも見つけられるから」
「分かった」
そんなこんなで、私達は今夜、急遽ローデン伯爵家に行くことになったのだった。
この時間(夕刻)にアポ無しで来る客など、いないのだろう。ドアの前に辿り着くまで、誰とも会わなかった。
結構、不用心じゃない?
まぁ、邸を乗っ取られた私が言っても説得力ゼロだけど・・・。
「今後は警備を置いた方がいいな」
ドアの前で、マクスが呟いた。
「そうね。私もそうした方がいいと思う」
マクスの顔を見つめながら、私も同意する。
コンコン、大きめのノックをした。
----聞こえたかな?
しばらく二人で佇んでいると、内側からゆっくりと扉が開き、執事のヘイリーが姿を現した。
私達を見るなり、ヘイリーの目はクワっと大きく開いた。
「急に尋ねてすまない」
マクスが一言、告げるだけで、ヘイリーは飛び上がった。
「よよよよ、ようこそ、ローデン伯爵家へ。どうぞお入りくださいませ」
彼は扉を全開にして、私達を招き入れる。
それから、ヘイリーは邸の奥に大声で指示を飛ばす。
「ホーリー!!トリプルステラ(最上級のお客様を迎える準備のこと)で動いてくれ」
あれよあれよと言う間に、私とマクスの前に使用人達が、音も立てずに集まって来る。
十五人の使用人は綺麗に整列した。
「いらっしゃいませ」
侍女頭ホーリーの掛け声で、全員が礼の姿勢を取る。
そのタイミングで、奥からお祖父様とお祖母様がゆっくりと歩いて来た。
ええっと、私は過去にこんなお迎えをしてもらった事がないから、困惑してしまうのだけど・・・。
チラリと横に立つマクスを見上げてみる。
一瞬で、その佇まいは王太子然となっていた。
----流石である。
扉の前まで、私と砕けた雰囲気で、おしゃべりをしていたのが嘘のようだ。
「殿下、このような辺境まで足を運んで下さり、ありがとうございます」
白いもふもふのお髭が特徴的なお祖父様が、にっこりと微笑んでマクスに挨拶をした。
「いや、こちらこそ急に訪ねて済まない。王都でのお披露目の前に会って、挨拶をしておきたかったんだよ」
思っていたよりも砕けた口調でマクスはお祖父様へ話し掛けた。
「何ということでしょう。殿下が私共にお気遣いを下さるとは感無量でございます」
お祖父様、喜びで泣いてしまいそうだわ。
そこで、マクスが私に肘をコツンと当てて来ルナ。
あ、喋っていいのね。
「お祖父様、お祖母様お久しぶりです。今日は私がワガママを言って連れて来てもらったの。今日中に王都へ戻るから、余り長くは居られないのだけど、、、」
「今日中!?」
お祖父様とお祖母様の声が重なる。
「ええ、そうなの。今はお披露目パレードと夜会の準備で大忙しだから、ゆっくりお泊まりは出来ないわ」
「キャロル、そんなに忙しいのに殿下にご無理を言うなんて!!」
お祖母様が口に手を当てて、呆れた声を出す。
「行き来は魔法でひとっ飛びすればいいから、おれは全然気にしていない。それよりもお二人にお会いしたかったんだ」
今、マクスに心を射抜かれた二人へ、私は言った。
「そろそろ、椅子に、、、」
祖父母はハッとする。
その様子を見ていた執事のヘイリーは一早く動き出す。
「失礼いたしました。こちらへどうぞ」
私とマクスが歩き出すと、使用人達は持ち場へと去って行った。
応接室へ四人で腰掛けると、お茶とお菓子が運ばれて来る。
「お祖母様、もしかして夕食の時間じゃなかった?間が悪くてごめんなさい」
「キャロルと殿下は?」
「・・・・・・」
食べてないとは言いづらい。
「そう、まだみたいね。それなら、ご一緒しましょう。ヘイリー、お願い」
「はい、ご準備して参ります」
ヘイリーは、部屋から出て行った。
「ローデン伯爵と御夫人。此処にいるおれはキャロルの夫なのだから、特別扱いは無用だ。夕食もありがとう。遠慮なく、いただこう」
マクスは王太子の仮面を脱ぎ捨てたらしい。
一気に表情が柔らかくなった。
「マクス、お腹空いているの?」
「ああ、午後は来客が多くて疲れた」
私達のやり取りをお祖父様とお祖母様が不思議そうに見ている。
「ねぇ、キャロル。二人は以前から、顔見知りだったの?」
恐る恐る聞いて来るお祖母様は可愛い。
「ええ、おれたちは幼い頃から友達で、互いに心も通わせていた。ずっと秘密にしていて済まない」
何故か、私の代わりにマクスが楽しそうな様子で答える。
「幼い頃から、、、?」と、お祖父様が呟き。
「互いに心も通わせて?」と、お祖母様も呟く。
私達のことは極秘だったので、驚くのも無理はない。
「それから、秘密にした理由は、おれが王太子ということもあるが、彼女が魔法使いだったというのが一番の理由だ」
あー、もう!!
何で全部喋っちゃうの?
マクスぅー!!
「魔法使い・・・。キャロル、お前は魔法が使えるのか!?」
お祖父様が信じられないという目で、私を見てくる。
「ええ、使えるわ。だけど、ほら事情があって使わないようにしていたの」
「捕まるからか?」
お祖父様が、私に聞く。
「そう。それも、今は誤解だと分かったのだけどね」
「魔法使いは魔塔に幽閉されるというのは、誤った話だと言うことが先日、確認出来た。今後のソベルナ王国は魔法使いが安心して住めるように変わっていく」
マクスが私の話に補足する。
「あー」
お祖父様は両手で顔を覆う。
「何も知らず、何の協力も出来ず、済まなかった。キャロル、どうして騎士に成らないのかと何度も怒ったことを謝らせてくれ」
顔から手を下ろしたお祖父様の表情が余りにも悲しそうで、私は微妙な気持ちになる。
私は自分が魔法使いだから、騎士には成れないと分かっていた。
だから、お祖父様に何度怒られても気にも留めてなかった。
お祖父様の方が気にしていたなんて・・・。
「大丈夫よ。気にしてないわ」
「キャロル、私も分かってあげられなくてごめんなさい。ジェシカの娘だから、騎士になるのが一番だと勝手に考えていたの」
お祖母様も、私に謝り始める。
完全に私の考えていた再会とは違う空気になってしまった。
もっと、ふわふわと結婚の報告をするつもりだったのに、、、。
「キャロル、騎士になった方が良いって言われていたのか?」
「そうね、結構言われていたわ。でも、色々と理由をつけて逃げたから、、、」
「そうか、その頃に話を聞いてやれなくて、ごめん」
マクスまで、私に謝って来る。
一体、この雰囲気は何なの?
私にどうしろと言うのよー。
「あのね、私はお詫びを言って欲しくて此処に来たわけじゃなくて、結婚の報告に来たの!!どうせ言うなら、お祝いの言葉にしてくれない!?」
私が不機嫌に言い捨てたところで、ヘイリーが「お食事の用意が出来ました!」と、笑顔で知らせに来たのだった。
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