90 肝心なことは最後に
楽しい物語になるよう心がけています。
誤字脱字等のご連絡は感謝いたします。
コンコン、ノックの音がした。
ハンカチで涙を拭って、何事も無かったかの様に整える。
私の席はドアを背にしているから、泣いていたことはバレないだろう。
マクスが突然、罪を告白するなんて言い出すから、何が出てくるのかと思えば、私を隠す為のアレコレで、、、。
全ては、私を守るためにしたと言う事だし、特に怒りの気持ちも湧かない。
この話を聞いて嫌いになる事も無い。
だって、私はマクスを大好きなのだから。
寧ろ、私が知らないところで、ずっと守っていてくれたと知ったら、胸がいっぱいになった。
ただ、“あらゆる手で”という言葉は引っ掛かるけど。
ウェイターさんは、私の心配を他所にサッサと配膳をして出て行った。
テーブルに置かれたお皿を見ると、、、。
「うわっ!なにこれ!?チーズたっぷりー!!」
クロックムッシュは見た目だけで、胃袋が踊り出しそうだった!!
焦げ目のついたチーズが、とろけてパンから流れ落ちている。
パンの間からハムがチラリと見えているし、ホワイトソースらしきものも、、、。
「こんなに美味しそうな食べ物が存在していたなんて!!」
ほんの数分前まで泣いていたのは何処へやら、大袈裟に騒ぐ私を、マクスは楽しそうに見ている。
徐にマクスはナイフとフォークを手に取った。
「こっちのマダムは、ほら、卵が入っているから厚みがあるだろう?少し分けるから、食べてみてくれ」
マクスはクロックマダムの真ん中を切った。
とろーりと半熟の黄身が流れてくる。
「くうーぅ!?何なの!た、たまごがぁー」
私の騒ぎっぷりに、マクスは笑いを堪えているのか、手元が僅かに震えていた。
「そんなに驚いて貰えたなら、感無量だな」
声も震わせながら、マクスはクロックマダムの六分の一を素早く切り取って、私のお皿に上手に乗せた。
黄身を溢しもせずに、、、。
「マクスのナイフ術、スゴイわ」
私が呟く。
「そんな褒め言葉は初めてだ。さあ、温かいうちに食べよう」
一口、クロックムッシュを食べて驚いた。
本当の本当に美味しい!
「コレ、コレまでの人生で一番美味しいかも知れない」
私は口元を押さえ、感動で目が潤む。
「フッ、それならマダムを食べてみろ!」
少し調子を取り戻したマクスが、ケシかけるような言葉を言う。
私は、クロックマダムを一口食べた。
むむむ!?コレは、、、。
ヤバい、ヤバすぎる。
チーズとホワイトソースのハーモニーに、とろーり玉子が参戦した!!
「お知らせします!一番が、たった今、入れ替わりました!!」
「ハハハ、キャロルと一緒に食事をするのは本当に楽しいな。その表情を見ているだけで美味しさが伝わってくる気がする」
マクスは、楽しそうに笑った。
マクスが笑うと、私も楽しくなる。
そして、感動の嵐を起こしたクロックご夫妻を二人で堪能した。
食べ終わって幸せを噛み締めていると、マクスがちょっと企んだ顔で話しかけて来た。
「マダム、何かスイーツはいかが?」
マクスが、私に問う。
「ムッシュ、オススメはありますか?」
「爽やかに洋梨のソルベはいかがでしょうか」
「では、それで」
クロックご夫妻ごっこで、直ぐにデザートの注文が決まる。
マクスは再び、ウェイターを呼んで注文を伝えた。
個室は自由に出来て楽しい。
「ここのカフェは、居心地がいいね」
「ああ、おれもここの居心地の良さは気に入っている。後は料理が美味いって言うのも忘れずに付け加えておく」
私も頷いた。
すっかりお腹も満たされて、お互いに少し落ち着いた。
そこで、先程から気になっていたことを聞いてみることにした。
「マクス、話を戻して悪いけど、さっき気になったことを聞いてもいい?」
「ああ、構わない。何でも聞いてくれ」
「私へのお誘いを全てマクスが断っていたのなら、マーベル伯爵から何回も届いた招待状って、マクスの目を掻い潜っていたってことなの?」
「いや、それは違う。マーベル伯爵の茶会は、おれの戦略の一つだった」
マクスはさっきまでの楽しそうな表情から、いつものクールな王太子の顔になった。
「戦略?」
なぬ!?戦略って何。
聞くのが怖いような、、、。
「まず、キャロルが王太子妃になるというのは、おれの中では決定事項だった。それで、いよいよキャロルが王太子妃となった時、誰も君の存在を知らないと言うのは困るだろう?だから、カシャロ公爵家のセノーラ嬢を目一杯持ち上げる会を作った。その末席にキャロルをさりげなく置いておけば、彼女のターゲットになることもなく、茶会メンバーと面識くらいは作れるだろう?末席なら、キャロルがどんなに美しくても、身分の事しか頭にないあの女は気にしないからな。それとメンバー選びはマーベル伯爵に任せた。言うまでもなく、伯爵はおれがキャロルを王太子妃に望んでいることは当初から知っている」
怖っ、、、。
「マクス、、、。社交界の駆け引きって、そんな感じなの?」
「ああ、そうだ。現在のソベルナ王国の社交界において、キャロルはナンバー2、そして、トップは王妃の母上だということも付け加えておく」
ヒョエー、急に寒気がして来る。
私は身震いをした。
「ふっ、そんなに怯える必要は無い。困ったら何でも話してくれ」
ニヤリとマクスが笑う。
「いやいやいや、マクスに言ったら、ありとあらゆる手を使っちゃうんでしょう?」
「いや、流石に今後は二人で話し合って決めるから、心配は要らない」
「それなら、良いけど」
コンコン。
サッと、ウェイターが部屋に滑り込んで来て、洋梨のソルベを配膳して去った。
「結婚して、もうすぐ三週間か。やっとお互いの話が出来るようになって来た気がする」
マクスは洋梨のソルベを一口食べた。
冷たそうな素振りが可愛い。
「そうね。事件から始まったから、仕方ないのかも知れないけど」
私も一口、ソルベを口に運んだ。
「まだ、大きな問題が残っているけどな」
「うわっ!?この洋梨のソルベも物凄く美味しい!!」
再び感動の嵐に巻き込まれる。
マクスは私の様子が面白いらしい。
ニコニコしながら、眺めている。
パクパクと食べたら、上品な量のソルベは直ぐに無くなってしまった。
目の前のマクス見れば、優雅な手付きでソルベを口に運んでいる。
「早く食べてしまうのはマナー違反?」
ちょっと聞いてみた。
「それだけ美味しそうな顔で食べていたら大丈夫じゃないか?おれは、じっくり味わいたいだけだから」
「美味しそうな顔?」
「ああ、食べたくなるくらい可愛い顔をしている」
「ふーん、食べさせませんよぉー」
不貞腐れて答えた。
「この空間は平和でいいな」
「まぁ、そうだよね」
「あー、それで一つ懸念があるんだ」
「ん、さっき言いかけた大きな問題ってやつ?」
「そうそう、王子の方のジョージが行方不明だと」
「・・・・・」
「カシャロ公爵家を投獄した後、王宮で、王弟妃カシアと一緒に処分が出るまでは謹慎としていた。で、今朝ジョージだけが消えた」
「それさぁ、、、。ここでこんな楽しいランチをしてる場合じゃなくない?」
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