85 甘えん坊
楽しい物語になるよう心がけています。
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ひらりとカッコよく、カルロ殿下が宙から舞い降りて来た。
「ごきげんよう、マクス殿とキャロル殿。そちらはレード殿とノード王国の王族の方々か?さて、今回は何用で私を召喚したのだろうか?」
彼は挨拶をしながら、麗しい笑みを振りまく。
どうしたのだろう?
いつもより機嫌が良さそうに見える。
「兄様!!」
トッシュ少年が、カルロ殿下に駆け寄って飛び掛かる。
彼はそれを軽々と受け止めて、トッシュ少年を抱っこした。
「久しいな、トッシュ。元気にしていたか?」
顔を間近に近付けて、可愛い弟に近況を問う姿は優しいお兄ちゃんそのもの。
「うん!昨日は海に行って地引網をして、今日は鍾乳洞にも行ったんだ。ノード王国の陛下と閣下が一緒に遊んでくれたんだよ」
トッシュ少年の口調がいつもと違って、甘えた感じなのも可愛い。
「そうか、色々と面白いことをしたんだな」
「うん!」
話し終えると、トッシュ少年はカルロ殿下の首にギューっと巻き付いた。
甘えん坊、全開である。
突然の遊学で本人なりに頑張って気を張っていたのかも知れない。
「久しぶりの兄弟の再会の邪魔をして済まないが、時間の都合上、そろそろ話をしてもいいか?」
「ああ、構わない。このままで良いだろうか?」
カルロ殿下は、抱きついて離れないトッシュ少年をチラッと見た。
「ここにいるメンバーは気にしないと思うぞ」
マクスは軽い口調で返すと、ノード王国の陛下の方を向き、カルロ殿下にメンバーの紹介を始めた。
「アレン陛下、こちらがブカスト王国第三王子のカルロ殿です」
「初めまして、私はノード王国の国王アレンです。そして、隣にいるのが、私の妹で王国軍総裁の任についている王女リンです」
アレン陛下に紹介されたリン王女殿下は、穏やかな笑みで、カルロ殿下に会釈をした。
「アレン陛下、リン王女殿、そして、レード殿。我が弟のことで、お世話を掛けて申し訳ない。ノード王国で見聞きしたことは、トッシュにとって良い経験なると思う。とても感謝している。ありがとう」
トッシュ少年を抱っこしたまま、カルロ殿下はお礼を述べた。
アレン陛下とリン王女が、カルロ殿下の首に巻き付いているトッシュ少年を微笑ましそうに見ている。
「それで、ここからが本題なんだが、ここはランディ・ボルドーの経営していた孤児院なんだ」
「は?此処が!?」
カルロ殿下はグルリと中庭を見回した。
マクスはロザリー孤児院に来たところ、ランディ・ボルドーの妻レイチェルが居たので、直ぐにソベルナ王国へ送った事と、中庭で鍛錬していた子供達の様子や、そこで出会った四人の少年少女の魔法使いの話を掻い摘んでカルロ殿下に伝えた。
「その、キキと言う娘の姉がサキという名前だから、私に確認がしたかったと言うわけか」
カルロ殿下は、トッシュ少年が「サキは兄上の側近です」と断言したという話を聞いた時、僅かに顔を歪めたような気がした。
何か問題でもあるのだろうか?
「ああ、その通りだ。トッシュが間違いないって言うから、キャロルに頼んで貴殿を召喚した。いつも急で済まない」
「いや、別に急に呼ばれるのは構わない。それで、その娘は?」
「ああ、呼ぼう。キキ!!ちょっと来てくれるか」
私達とは少し離れたところで待機していた四人組はマクスの声で振り返った。
マクスは、キキさんに向かって手招きをする。
キキさんは、こちらへ向かって駆け出した。
「ああ、背格好も顔も似ている。間違いないかも知れぬ」
カルロ殿下が呟く。
「トッシュ、俺は話をしないといけないから、一旦降りろ」
久しぶりに俺と言っているところを見た。
とは言え、カルロ殿下の完全に素の状態は想像が付かない。
気になるとかと言えば気になる。
「うー、うん、分かった」
トッシュ少年は、残念そうにカルロ殿下から離れ、そして下に降ろされた。
「キキ、彼はブカスト王国第三王子のカルロ殿だ」
キキさんの顔が強張る。
「キキ、そなたのフルネームを教えてくれるか?」
カルロ殿下は優しい口調で聞いた。
「はい、私の名前はキキ・ブート・モリノーです」
「お前の姉の名はサキ・ブート・モリノーで間違いないのだな」
「はい、間違いありません。姉は軍関係の仕事をしていました」
「ああ、その通り。サキは黄龍軍の指揮官をしている。どうする?私と一緒にブカスト王国へ帰るか?」
キキは、直ぐに帰ると言うのかと思えば、離れたところで待機している他の三人組をチラりと見た。
「姉に会いたいとは思っていますが、直ぐには帰れません」
カルロ殿下はキキが気にしている三人組へと視線を向けた。
「マクス殿、この子達をこれからどうするつもりだ?」
「この子たちは魔法使いの卵だ。出来れば、今後の国の方針も踏まえて魔法使いとして育てたいと思っている。だが、そうなるとサンディーが、手一杯になるんだよなぁ、、、」
マクスは悩んでいる姿を隠さずに見せた。
「サキは魔法戦士だ。少しは魔法を使える。ブカスト王国はマナが少ない故、大した訓練は出来ないかも知れぬが、一旦、私が四人を預かるというのはどうだろうか?」
「それなら、まずは普通の生活を身に付けさせよう。半年後を目処にサンディーの手が空く様にする」
カルロ殿下は、マクスの提案に頷いた。
「お節介序でに聞くが、ここの孤児院に子供達は何人いる?」
ふと見ると、トッシュ少年はいつの間にか、カルロ殿下の腰に巻き付いていた。
彼らはそれを気にもせず、話を続ける。
「名簿には三十一名と記載されていた。まだ本人と名簿の照合をしていないけどな」
「その人数なら、私が引き取る」
カルロ殿下は言い切った。
「え!?」
ノード王国の三人と私の声が重なった。
「カルロ殿、大丈夫なのですか?」
レード様が心配そうに尋ねた。
「ああ、私はブカスト王国で福祉関係の業務に携わっている故、ここの子供達の受け入れ先も直ぐに用意出来る。心配しなくても大丈夫だ。勿論、変な施設に送るなど決してしない。安心して欲しい」
あっ!そう言えば、マーカス殿下が、カルロ殿下のことを“困っている人を直ぐ保護する聖人”って、言っていたのを思い出した。
召喚して良かったかも!!
「実は黄龍の宮殿で、全員の面倒を見るとか言うんじゃないよな?」
マクスは、カルロ殿下が無理をしているのでは無いかと、気になっているみたい。
「マクス殿、私も情に流されたとか、そんなに話ではないので、心配しなくていい。ブカスト王国では、教会や寺院に必ず孤児院や救護院のどちらかが設置されている。また、学校に通える年齢の子は寄宿舎付きの学校もある。本人達の適正に合わせて行く先を考えるつもりだ。だが、魔法使いの四人は施設には送らず、黄龍の宮殿で半年後まで責任を持って預かる。これで良いだろうか?」
カルロ殿下は全員に向かって尋ねた。
「私はそうして貰えると助かる。お恥ずかしい話だが、我が国はそもそも人口が少なく、孤児院の数も少ない。三十名規模の受け入れ先が直ぐに見つかるとは断言出来ない」
アレン陛下は自国では対応が難しいと正直に告白した。
「私も陛下の意見に同意する。我が国ではキャパが足りないからね、、、」
リン王女は悔しそうな顔で語った。
「私は子供達の為にも何とかしたいという気持ちがあります。ただ、直ぐに普通の生活が送れるなら、ブカスト王国へ送り出した方が良いのかと、、、」
レード様は歯切れが悪い。
「マクス、子供達の出身は、ほとんどブカスト王国とソベルナ王国だったのでしょう?ノード王国の子供は何人いたの?その子達は祖国のノード王国で対応してもらうというのは如何かしら?」
私はカルロ殿下の提案は良い内容だと思いつつも、自分たちも何かしたいという雰囲気のノード王国の御三人の気持ちを考慮してみた。
「リスト上は二人。赤子と五歳の女の子となっていた。ただ、赤子は兎も角、五歳の女の子は一人だけ別のところへ送ったら不安定になったりしないか?」
「確かにその可能性はあるわね」
私はそこまで考えが及ばなかったことが恥ずかしかった。
マクスの指摘はごもっともだ。
「では、私が決断する。カルロ殿下、此処の子供達を宜しくお願いします。今後、必要な協力は惜しみませんので、遠慮なく言ってください」
アレン陛下が、宣言したことで、子供達はブカスト王国へ向かうことが決定した。
子供達の顔とリストの確認などの細々とした作業はノード王国の皆様に任せる。
準備が整い次第マクスに連絡をしてもらい、後日、全員を転移で安全に移動させることになった。
魔法使い四人組は、ブカスト王国へ引っ越す前にヨースケさんにお礼を言いに行きたいとレード様に頼んでいた。
後日、レード様が四人組に付き添い、マーベラス商会に行くという約束をして話は纏まった。
私は最後に一つ聞いておきたいことを口にした。
「あのね、キキさんに聞いておきたいのだけど、転移ポイントって消せるの?」
「はい、消せます。ただ、私は消し方を知らなくて、、、。このままにしていたらマズイですかね?」
逆に上目遣いで私に聞いて来る。
私では判断出来なくて、マクスをチラリと見た。
マクスが代わりに答えた。
「とりあえず、このままで。近日中に我が国の大魔女サンディーを送る。彼女に消して貰えばいい」
サンディーさん、クシャミを連発してないかしら?
どんどん、彼女の仕事が増えていっている気がする。
怒るサンディーさんを想像したら、クスッと笑いが出てしまった。
「如何した?」
不覚にもマクスから怪訝な目で見られる。
そんなマクスの後ろでは、カルロ殿下がトッシュ少年をまた抱っこしていた。
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