83 マーベラス!!
楽しい物語になるよう心がけています。
誤字脱字等のご連絡は感謝いたします。
キキが作った転移ポイントはここから、王都の地下にある鍾乳洞へ繋いであり、少年少女の魔法使い四人はそれ使って王都へ行っていたらしい。
レイチェル院長と職員は気付いていないと言う。
そこまで、ザックが話したところでマクスが一旦止めた。
しっかり話を聞きたいから、一度、場を整えようと言うのだ。
これにより、午後に帰る予定だった私達のスケジュールは変更を余儀なくされるだろう。
それはそれで仕方が無いと分かってはいる。
魔法使いである十四歳の少女キキと、十三歳の少年マグナム、ルーク、ザックの四人は、レイチェル院長とその娘ミレイに洗脳されているフリをしながら、その実は冷静に可笑しな大人達の行動を観察していたのだから。
これ以上、有力な情報は無い。
この子達の話は聞けるだけ聞いておくべきだろう。
だが、それと引き換えに、ソベルナ王国が国を挙げて、ニ週間後に行う私達の結婚お披露目パレードと夜会パーティーの準備が間に合わなくなるかもしれないなんて、今は忘れたい。
と言いつつ、全然忘れられないし、正直なところ自国の王宮に戻るのも怖い。
それは何の準備も出来ていないからだ。
私は無意識のうちに、こめかみを押さえていた。
マクスが「いざとなればおれが全員を転移帰還させればいいんだから、そのことは心配しなくて大丈夫だ」と私の耳元で囁く。
その優しさは嬉しい。
でも、王太子妃の初仕事として少しは頑張りたかったのよ。
だけど、だけども、何でも中途半端が一番良くないよね?
先ずは目の前の事から片付けよう!!
私が、グタグタとスケジュールのことを考えている間に、小さな子供達は騎士達が室内に連れて行ってくれた。
今、大人達と少年少女の魔法使い四人は中庭で輪になっている。
「みんな、待たせたな。では、詳しい話を聞こうか」
マクスは、ザックに向かって言った。
「はい、転移で一年前から僕たちは王都に行ける様になりました。一様、僕たちはあるお屋敷の小使のフリをして、街をウロウロする事にしました。すると、マーベラス商会の人が声を掛けてくれて、、、」
「は!?マーベラス商会だと?」
マクスの突然の叫びにビックリした。
「マクス殿、貴殿はマーベラス商会を知っているのか?」
レード様が聞く。
「ああ、知っている。マーベラス商会は、ソベルナ王国に本拠地のある大商会だ。それで、何と声を掛けられたんだ?」
マクスはレード様に答えながら、少年少女達の方へは話の続きを求めた。
「ええっと、その時は夜の八時過ぎくらいだったんですけど、パンが売れ残ったから食べてって大きな紙袋をくれたんです。それで、私達は鍾乳洞に戻って、すぐに開けてみました。紙袋にはパンとチョコレートとお金が入っていました」
キキは紙袋の大きさを手で表しながら話す。
「僕たちはそのお金で、洋服を買いました。そうすれば、小使のフリをしなくても大丈夫だと思ったからです」
確かにこのグレーの服は悪目立ちしてしまいそうだから、服を買うと言うのは賢明だと思う。
「パンを渡した人間が危険な奴だとは思わなかったのか?」
マクスは額に手を当てて、呆れた声で言う。
「王太子殿下の言いたい事は分かりますけど、僕ら、その時は餓死しそうなくらいお腹が空いていたんです。だけど、お腹が空いてなくても、危険な奴だとか考えなかったかも知れません。だって、一番危険なのはこの孤児院です。ここの環境は異常です。死んでしまう子も普通にいるんです。当然、人を人と思う様な先生もいません。結局、王都に四人で行ける様になっても、他のチビ達に暴力を、振るわれるのが怖くて、そのまま逃げずに戻ってくるくらいの調教は僕たちもされていたんですよね」
ザックが自分たちのことを自虐的に言うのは聞いていて辛い。
「ええっと、マーベラス商会のヨースケさんは、ぼくたちが王都に行く度に声を掛けてくれました。それで、すっかり親しくなりました」
マグナムはそう言うと、ザックの肩をポンポンと軽く叩く。
それは慰めているように見えた。
「マーベラス商会のヨースケという奴か、、、」
「はい、ヨースケさんは、ぼくたちに食べ物と少しのお金をいつもくれます。特に探るようなことを聞かれた事はないですけど、「ソベルナ王国に行きたい時は言いな」って、いつも笑顔で言ってました」
「それはいい奴なのでは無いか?」
アレン陛下が言う。
「陛下、人攫いかも知れないですよ!」
話を黙って聞いていたトッシュ少年が、アレン陛下に話し掛けた。
あ、大人の中に一人子供が紛れていたことを忘れていた!!
聞かせて良かったのかな?
チラリとマクスに目配せをしたら、小さく頷いた。
良かった、マクスは把握していたのね。
「まぁ、肩を持つわけでは無いのだが、マーベラス商会が本物だとすれば、人攫いでは無いと思う。たまたま、出会った相手が良かったってことだろうな」
マクスは言葉を選んで上手く誤魔化そうとしている。
私は先日聞いたから知っている。
マーベラス商会はマーベル伯爵が大陸中に展開している大商会だ。
そして、彼の裏の仕事は、ソベルナ王国の王家の諜報機関である。
この事は王族しか知らない。
私もこの話を教えてもらう迄は、陛下にベッタリで何を企んでいるのかしらと本気で思っていた。
マーベル伯爵、単に仕事熱心だったなんてね。
ちょっと笑える。
そう考えると、マーベラス商会のヨースケさんは、この四人の様子が可笑しいから保護しようとしていたと考えるのがスマートだ。
ただ魔法使いだと言う事に気付いていたとしたら、ソベルナ王国へは積極的には連れて来られないよね。
それで、お金とパンなのかも。
「王都で食べ物を貰って元気なのは分かった。他に何か話したい事は?」
マクスは黙っているルークへ聞いた。
「魔石を運んで来る転移ポイントの話は?」
ルークはキキに聞く。
「いや、あんた口に出して聞いたら意味なく無い?」
ルークはテヘッと舌を出す。
ヘラヘラしていて、多分、反省はしていない。
と言うか、確信犯ならかなり、、、。
「魔石を運んで来る転移ポイントは、この中庭じゃなくて、食堂裏のミモザの木のところにあります」
ルークの代わりにザックが答えた。
「あのー、ちょっと聞いていいですか?」
私は小さく手を上げた。
皆の視線が私に来る。
「キキさんに質問です。転移ポイントはどうして作ろうと思ったの?そして、どうして作れたの?」
「転移ポイント作成は我が家で習う魔法の一つだったので、作り方は知っていました。作ろうと思ったのはここの生活にもう限界だったんで、、、」
キキは渋いお茶を飲んだような表情になる。
「ちょっと待て、我が家でと言ったが、キキは帰る家があるのか?」
マクスの質問にキキはあっさり答えた。
「両親は亡くなりましたけど、私の姉は多分生きてます。私はブカスト王国から連れて来られました。でもルーツはソベルナ王国です」
「自分のフルネームは覚えているか?」
「ええ、覚えています。私の名前はキキ・ブート・モリノーです」
あ、、、。
モリノーって、言ったわよね?
「マクス、モリノーって辺境伯?」
私はマクスの袖を引っ張って、小声で聞いた。
「その通り、王族の血が入ってる一族だ」
マクスも私にしか聞こえない声で囁く。
「キキ、姉は何処に居そうなんだ?」
「姉はサキ・ブート・モリノーです。五年前のままなら、ブカスト王国で軍事関係の仕事をしているかも知れません。でも、既に死んじゃってたらどうしよう、、、」
悲しそうな表情になるキキ。
やっぱり、この子は喜怒哀楽がハッキリとしている。
「サキ、、、。軍事関係、、、」
マクスが、キキの言った事を復唱する。
「あのー!!ぼくはサキを知ってます!!」
大きな声でトッシュ少年が手を挙げた。
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