81 子供たちの未来
楽しい物語になるよう心がけています。
誤字脱字等のご連絡は感謝いたします。
庭で遊んでいるっていうか、これは、、、。
藁で出来た人型にナイフを投げている子。
取っ組み合いで闘っている八歳くらいの子供達。
腕立て伏せをしている幼い子。
木に逆さまに吊り下げられ、腹筋をしているのは、恐らく10代の子?
何故、性別が分からないかって?
それは皆、髪を短く切られ、服装はグレーの半袖と長ズボンに黒いベルトで揃えられているからである。
そして、足元は裸足だった。
こんな悲惨な状態だなんて!!!
「コ、コレは、、、」
マクスも言葉が続かない。
チラリとレード様を見ると、目を閉じて、眉間を揉んでいた。
「レイチェルさんは育てるとかいっていたわよね!」
ムカついて、感情が昂る。
「ああ、言ってたな。このザマでアイツよく言ったよな」
マクスの方が荒ぶっていた。
「僕は、この子達をどうしたら幸せに出来るだろう」
レード様は怒りを越えて、悲嘆に暮れ始める。
「兎も角、この状況は、すぐに改善しましょう。お洋服もこんな囚人服みたいなものではなく、もっと清潔なものを沢山用意して、髪型も好きな様に、、、。ゔっ、、悲しくなってくる、、、。何で、こんなに酷い事を出来るの!」
私が悔し泣きを始めるとマクスが背中を摩ってくれる。
泣いている場合ではないのに止まらない。
「キャロル殿、正直なところ私も泣きたい。子供達の環境が、、こんな酷い状況になっているのに気付けなかった事を悔やんでも悔やみきれない」
レード様が苦しそうな声を絞り出す。
「二人とも怒ったり、嘆いたりするのは後にしないか?何よりもまず、この子達の話を聞こう」
マクスは、私達に向かって苦言を呈す。
私はポケットから出したハンカチで涙を拭って、気合を入れ直し、顔を上げた。
目が合ったレード様と一緒に強く頷く。
「もう大丈夫よ。子供たちの話を聞こう」
マクスに向かって言う。
「では、おれたちは一旦別れて、各々で子供達のところへ行って話を聞こう。圧を感じさせたら、本音が出ないだろうから」
「マクス殿、それはいい考えだ。私はあの辺りにいる子供達のところへ行ってくる」
レード様はナイフ投げや取っ組み合いの子供達がいる方向を指した。
「では、おれは木に吊り下がっている大きい子供のところへ行く」
「私は、腕立て伏せをしている子供達のところへ行くわね」
三人で行き先を確認してから、私達は其々の子供達のところへと向かった。
私は、地面に手をついて腕立て伏せをしている三人の小さな子供のところに行って、話し掛けた。
「こんにちは、お喋りしましょう。今は何をしているの?」
「・・・・・・」
三人とも全くの無反応。
「あのね、ここの先生は変わるのよ。もう、言われた通りにしなくても大丈夫なのよ」
「・・・・・んんん」
三人の中の一人が少し反応した。
「ちょっと、お休みしてお話ししよう?」
「・・・怒られるから嫌だ」
「・・・・喋ったらダメ」
「・・・・・・」
三人のうちの二人から、反応が返って来た。
「もう誰も怒らないから大丈夫よ」
屈んで、姿勢を低くして、出来るだけ優しく語りかける。
一人の子が腕立て伏せを辞めて、地面にペタンと伏せた。
あと二人は気になりつつも、腕立てを辞めない。
「お疲れ様。腕立て伏せは得意なの?沢山出来るのね。驚いたわ」
伏せている子に話しかけてみた。
「ううん、得意じゃないよ。しないと痛いから」
「痛い?」
「うん、パチンってされるの」
あ、話してみて、分かった。
この子は女の子だ。
「そっかー、痛いのは嫌だね。あとの二人もパチンってされたことがあるの?」
私は黙々と腕立て伏せをしている二人に話しかけた。
すると二人も腹筋を止めて、ペタっと地面に伏せた。
「ねえ、本当にあの人もう居なくなったの?」
二人のうちの一人が顔を上げて、私に聞いた。
「ええ、彼女は悪い事をしたから反省しないといけないの。ここにはもう居ないわよ」
「本当?本当の本当に!?」
私の袖を引いて確認をしてくる。
何だか、涙が出そうな気分だけど、グッと堪える。
「ええ、本当よ。あなたたちは、もう何かを無理やりさせられたり、それが出来なくて、パチンと痛い事をされたりはしないのよ」
「やったー!!」
ずっと黙っていた子が、歓喜の声を上げた。
「早く助けに来れなくてごめんね。これからはみんなで仲良く過ごせる様なお家にするからね」
私は孤児院の建物を指差しながら、子供達へ言った。
「私はキャロル。みんなのお名前も教えてくれるかな?」
私の問いかけへに一番早く答えてくれた子は、女の子のリノで五歳、袖をひいて来た子が、女の子のセレーヌで六歳、最後に歓喜の声を上げた子は、男の子のセバンで六歳だった。
聞いたところによると、毎日午前に腹筋とランニングの決められた量を達成しないとお昼ごはんが出ないらしい。
更に怠けていると判断されれば、鞭で打たれるという。
虐待以外の何者でもない。
この三人に魔法の力があるのか、無いのかは分からない。
どちらにせよ、刺客にするために、こんなに幼い子へ厳しい訓練をさせていたことは間違いない。
マクスが木に吊り下がっていた四人の子達と私の方へやって来た。
「キャロル、この子たちは魔力持ちだ。木に吊るされて、これは精神統一の練習だと言われていたらしい」
マクスの声で分かる、呆れているのだと。
吊るされて、腹筋して精神統一って、、、。
何じゃそりゃって、私も思うわ。
「皆さんは結構お兄さん、お姉さんよね?」
「はい、私は十四歳のキキです。彼らは皆十三歳で、マグナムとルークとザックです」
キキが全員を紹介してくれた。
彼女がこの中ではリーダーの様だ。
小柄で丸い目が印象的な愛らしい顔をしているお嬢さん。
こんな灰色の囚人服の様なお洋服ではなく、もっと可愛い服装をさせたいと願ってしまう。
「中庭にいない子供たちは何をしているのか知っている?」
私はキキに尋ねた。
「赤ちゃんや幼児は室内で訓練を受けています」
「赤ちゃん!?」
「はい、二歳以下の赤ちゃんも五人居ます」
「幼児の訓練って何をするの?」
「運動は飛んだり跳ねたりするくらいですけど、お勉強が多めです」
お勉強、、、?
「身体の急所や縄の結び方とかを習います」
「かなり実戦向けな教育をするんだな」
マクスの美しいお顔の眉間に皺が寄った。
「はい」
キキはハキハキと答える。
後ろの三人は黙ってそれを聞いている。
「君たちは何が得意なの?」
私が、質問をすると彼らはモジモジする。
「彼らは不都合なことを話せない様にされているんです。私はそこそこに魔力があるから効かなかったけど、、、」
なるほど、アレか!
「あのね、私、その制約を解けるかも。ちょっと肩を触ってもいい?」
三人は直ぐに頷いた。
私は、マグナムの肩に手を乗せて、「制約よ解けろ」と念じながら、魔力を通す。
パチンと言う反動も来なかった。
「どう?話せるかな」
マグナムは首を傾げながら、口を開いた。
「レイチェル院長は僕たちを虫けらの様な目で見て、ご飯もろくに与えませんでした。あの人はいつも何処か違う場所を見ていて、気持ちが悪い、、、。あ、話せてますね」
口を手で覆って、目を見開くマグナム。
「良かったわね。これからは思った事を伝えられるわよ」
次はルークの肩に手を置く。
同じく念じながら、魔力を流す。
またしても抵抗なし。
「レイチェルのクソババー!!あ、大丈夫っス」
ブフッ、その場にいた全員が笑った。
子供らしくていいと思う。
最後にザック。
一言目に何を言うのかを皆が期待する。
「あー、魔石は院長室の床下に隠し扉があって、その下にあります」
「ザック!!」
マクスは彼の名を叫び、グッジョブ!と親指を立てた。
十三歳の少年が褒められて、ハニカム姿がいい。
「レード殿!場所が分かったぞ!」
ナイフ投げや取っ組み合いをしていた子供を集め、輪になって話をしているレード様に向かって、マクスが叫ぶ。
レード様は腕で大きな丸を作って、全員を引き連れてこちらへやって来た。
「マクス殿、何が分かったって?」
「魔石の場所だ。院長室の部屋の床下に隠し扉があるそうだ。ザックが教えてくれた」
マクスはレード様にザックを紹介した。
ザックは照れている。
「それは良かった。騎士達に指示を出そう。それから、ナイフ投げの子達の話なんだけど、毎日300回投げて外した数だけ鞭打ちされていたらしい。お腹を見せてくれた子供もいたんだけど、、、」
レード様は物凄く辛そうな顔をしている。
「分かった。皆、今日からはみんなで仲良く過ごそう。美味しいご飯をいっぱい食べて、お喋りをして、素敵な服を着て、普通の学校にも行こうな!」
マクスの言葉を聞いて、目を輝かせる子もいれば不安そうにしている子もいた。
それぞれが新しく生活を始める。
ゆっくり馴染んで行けばいいと思う。
私達は全力でサポートするだけだ。
マクスはレード様の肩を抱き、何かを話している。
私は気付かないフリをして、また子供達と他愛無いおしゃべりを始めた。
最後まで読んで下さりありがとうございます。
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