80 気持ち悪い
楽しい物語になるよう心がけています。
誤字脱字等のご連絡は感謝いたします。
「こうも明白なリストだと、いっそ清々しいな」
レイチェルさんの差し出したリストを見て、皮肉を口にするのはマクスである。
「殆ど、ソベルナ王国のカシャロ領とハーデン領から連れて来ているよね。もしかして誘拐して来たの?」
レード様が、レイチェルさんに聞く。
「いえ、誘拐では、、、。ここは孤児院ですので、身寄りのない子供を保護したのです」
レイチェルさんは、何だか歯切れの悪い回答をする。
「ご両親を殺害したりなんて、まさかしていないですよね?」
私は恐る恐る尋ねてみた。
「・・・・・・・」
嘘でしょ!!当たりなの!?
いやいやいや、それが本当ならあなた達は完全に狂っているから!!
想像しただけで、血の気が引くわ。
「キャロル、その可能性は充分にあるぞ。カシャロ公爵領は、私刑をする家門だからな」
「私刑って、勝手に死刑とかをするってこと?」
「ああ、しているだろうな」
マクスは嫌そうに言い捨てた。
「待って、待って、ソベルナ王国って、そんな感じなの?」
レード様は大きな声を上げて、動揺を見せる。
正直なところ、私もマクスの私刑を肯定する言葉にドン引きしていた。
カシャロ公爵家は法律を遵守して無かったってことよね?
何故、そんなに危険な集団を今まで野放しにしちゃったのよ。
イライラが脳内で渦を巻く。
「レード殿、カシャロ公爵領は国から是正を求められても唯一私刑を辞めなかった問題児だ。他の領地は法に則って治めている。今回の事件を機にカシャロ公爵一派は一掃する」
是正を求めていたってことは、野放しだったわけではないのね。
ちょっと私、落ち着こう。
「ああ、そうした方がいいよ。領主の一声で人が殺されるようなのはダメだ」
レード様の言葉を聞き、レイチェルさんは俯く。
「レイチェルさんは、今回ご主人の悪事が暴かれた件をどうお考えになられていますか?」
私は俯いた彼女がどう思っているのかを知りたかった。
「特には何も。私はここで、子供達の成長を見守るだけです」
下を向いたまま、何の感情も無い声で彼女は答えた。
私の期待も虚しく、彼女が反省しているということはないらしい。
「レイチェル、それは叶わない」
マクスは直ぐに否定した。
「ここで育てた子供が諜報活動に使われている事は既に分かっている。魔法使いを育てていた事も。レイチェル、お前が教えていたのか?」
マクスが強い口調で言った途端、室内の空気がゾワっとした。
この感じは魔法!?
私の視線はマクスから、レイチェルさんへと動く。
レイチェルさんには、白い輝きを放つ鎖が巻かれていた。
またしても、瞬きをする間くらいの出来事だった。
「コレって、マクスがしたの?」
私は、鎖を指差す。
「ああ、魔法を発動しようとしたからな」
「何だって!?」
レード様は、苦虫を噛み潰した様な表情になっている。
「この建物内に魔石があるかも知れない。レード殿、騎士団に捜索を頼みたい」
「分かった。その魔石というのは普通に触れても大丈夫なのだろうか?」
「ああ、大丈夫だ。心配は要らない。おれたちは、その間に子供達とも話してみよう」
「先に騎士団へ指示を出してくるから、少し席を外す」
そう言うと、レード様は部屋から出て行った。
この部屋には、鎖をグルグルに巻かれたレイチェルさんとマクスと私だけになった。
「マクス、レイチェルさんは、この後どうするの?」
「レード殿に許可をもらって、ソベルナ王国の牢に送る。この国には魔法に耐えられる牢は無いだろうからな」
「なるほど。レイチェルさん、あなたは自分が悪い事をしたって、分かっていますか?」
鎖でグルグル巻きのレイチェルさんに敢えて聞いてみた。
「私は、使命を全うしているだけです」
恍惚とした表情で、私達とは目を合わせず、宙を見て答える。
その目が何を見ているのかは分からない。
ランディ・ボルドーの関係者はどうしてこうも気持ち悪いのだろうか。
「マクス、私が彼女を気持ち悪いって感じるのはおかしいのかな?」
「いや、気持ち悪いで間違いないだろ」
マクスは私に同意した。
「なーんか、違う世界を見ている感じがするのよね」
「ああ、おれもそれは感じる。変な使命感を植え付けられているよな。まぁ洗脳とも言えるだろうな」
「ランディ・ボルドーを崇める的な?」
「ああ、それはぴったりな表現だな」
「レイチェルさん、ご主人が色々な女性と関係を持つ事に怒りとか湧かないのですか?」
歯に衣を着せることもなく、聞いた。
レイチェルさんはあっけらかんと答える。
「特に何も思いません」
「あなたにとって、ランディ・ボルドーって、どういう存在なのですか?」
「それは言いたくありません」
「ご主人のことを愛していますか?」
「それも言いたくありません」
「ご主人の何処がいいのですか?」
「それは答えられません」
レイチェルさんはプイッと顔を背けた。
「えー、一番聞きたいことだったのに!!」
私の横で、マクスが吹いた。
「キャロル、本音が出過ぎ、、、」
そこへ、レード様が戻って来た。
「お待たせ、指示を出して来た。次はどうする?」
「レード殿、レイチェルをソベルナ王国の牢に送っても良いだろうか。この国では魔法に耐えられる牢が無いのでは?」
「ああ、確かに無いね。分かった。許可しよう。私から父に詳細は伝えておくよ」
「では、念の為におれが付き添って送ってくる」
マクスは立ち上がり、レイチェルさんと一緒に消えた。
部屋には私とレード様だけになった。
「いや、何度見ても、魔法って凄いですね」
レード様が呟いた。
「実は私も最近まで魔法を使ったことがなかったので、マクスの魔法を見るといつも凄いなぁって思っています」
「え、最近まで使ってなかったって、どう言うことですか」
「ソベルナ王国では、王族以外は魔法を使えないって決まりがあるのです」
「あー、確かにその話は聞いたことがあります。それで、王太子妃になられたから使える様になったと言う事ですか?」
「レード様、お察しが良いですね。その通りです」
私がレード様にニッコリとしたら、横にマクスが現れた。
「うわっ!?」
早すぎない?マクス。
「ただいま、レイチェルは、しっかり牢に入れて来た。今、サンディーとピピとマックが見張っている。父上にも至急、鎖の交換に向かってもらうように念話で伝えた」
「陛下が行って下さるなら、安心ね」
「ああ、そうだな」
マクスが頷く。
「では、子供達の話を聞きに行こうか?」
レード様が私達を誘った。
私達は部屋を出て廊下の奥へと進む、廊下も何の飾り気もない。
キョロキョロ見回しても、お花の一つも飾っていなかった。
情操教育とか、この施設に期待したらダメなのかも知れない。
だけど、親を亡くして連れて来られた子供達の心を更に傷つけていたのだとしたら、それは許せない。
せめて、これからでも救いとなるような日々を送らせてあげたい。
先ずは子供達の希望を聞こう。
色々と思考を巡らせていると、廊下の左右にある部屋へ、後ろから来た騎士の方々がゾロゾロと入っていく。
「騎士団の方、一体何人居るのかな」
私の独り言に答えたのはレード様だった。
「今回の事件は捜査に力を入れているので、今日も五十名ほど連れて来ていますよ」
「なるほど、それでこんなに多くの方が、、、」
納得しつつ、廊下を進む。
「ここの先が中庭になっていて、子供達の遊び場らしいです」
レード様は話しながら、突き当たりの扉を開けた。
そこで見た風景に私達三人は絶望した。
最後まで読んで下さりありがとうございます。
面白いと思ったら評価、感想のほど、どうぞよろしくお願いいたします。