79 ロザリー孤児院
楽しい物語になるよう心がけています。
誤字脱字等のご連絡は感謝いたします。
今日の午後、私達はソベルナ王国に戻る予定だ。
その為、ランディ・ボルドーの経営していた孤児院を午前中に訪ねることとなった。
レード様も案内役として私達と同行する。
トッシュ少年とジャンは別行動。
アレン陛下&リン王女と一緒に鍾乳洞の探検に行くらしい。
王都シドラは、カルスト台地という石灰岩などが雨や地下水で浸食されて出来た台地の上にあり、鍾乳洞が点在しているとのこと。
今回は、その中でも観光用に公開していない秘密の鍾乳洞へ入ると、アレン陛下から聞いたトッシュ少年は興奮していた。
帰りの馬車で話を聞くのが、楽しみだ。
ランディ・ボルドーの経営していたロザリー孤児院までは、王都シドラから馬車で三十分程だった。
美しい木立に囲まれた道を進むと、丸太の建物が見えてくる。
入口には高さ三メートルはありそうな鉄格子の門があり、同じ高さの鉄柵もグルリと敷地を取り囲んでいる。
これは防犯の為なのか、逃がさないようにする為なのかの判断が難しい。
余談だが、ノード王国で、ランディ・ボルドー準男爵が国家に対する不正行為により捕えられたと公表された。
詳細は捜査中で、非公開としている。
また、ソベルナ王国では、ランディ・ボルドー男爵を王家に対する反逆罪で逮捕、カシャロ公爵家及びハーデン子爵家は国家機密漏洩罪で一族を逮捕し、余罪を含め現在捜査中と公表した。
そして、ブカスト王国では、ランディ・ボルドー侯爵一族が、王家に対する反逆行為を策したとして逮捕、またその関係者も拘束したと公表された。
これらは三国で足並みを揃え、今朝方、発表したばかりだ。
私は何より、ランディ・ボルドーが、ブカスト王国の侯爵位を持っていたことに驚いた。
『砂漠の薔薇』は諜報機関というから、影に徹していて、表には出ないのかと思っていたけれど、少し違っていたみたい。
マクスが、「ソベルナ王国ではコルマン侯爵家やマーベル伯爵家が『砂漠の薔薇』と同じ立ち位置だ」と教えてくれた。
要するにこの二つの家門が、我が国の諜報機関と言う事だよね?
普通にタダの貴族にしか見えないし、、、。
まぁ、それで騙して入り込むのだろうけれど。
ーーー話を戻そう。
その為、ロザリー孤児院は、本日より王家の監視下となり、騎士団員が手伝いに入ることになった。
勿論、それは表向きであって、実際は孤児院スタッフが逃亡や隠蔽などをしないように見張るということである。
レード様の話によると、随分前から怪しんでいたアレン陛下の指示で、外部から監視だけはしていたらしい。
「マクス殿、今後の対応を一緒に考えてもらえないだろうか?子供とは言え、魔法使いが居るとなれば、私の手には負えない」
「ああ、勿論だ。一緒に考えよう。キャロルも気づいた事は遠慮なく言ってくれ」
「分かったわ。では、入りましょうか?」
私は、丸太で出来た頑丈そうな扉を指差した。
レード様が、コンコンとノックをする。
中から、カチャっとゆっくり扉が開いた。
「レナード殿下、そしてお客様方も、ようこそお越しくださいました」
恭しい態度で、私達を出迎えたのは丸いメガネを掛けて、薄茶色の髪を高い位置でおだんごにしている女性だった。
年齢は40代くらい?
お母様と同じくらいに見える。
「ああ、急に訪ねて済まないが、施設を見学させて欲しい」
「はい、殿下」
レード様は、女性の横に立ち、私達に紹介を始めた。
「マクス殿、こちらはこの孤児院の責任者のレイチェル・ハーデンです」
彼女は私達に向かって、会釈をする。
「レイチェル、こちらはソベルナ王国の王太子夫妻だ」
レード様の言葉を聞いて、レイチェルさんの顔色が倒れそうなくらい蒼白になっていく。
「レイチェル・ハーデンか。もう少し捻りを利かせないのか?」
急にマクスは、彼女に話し掛ける。
マクスに怯えているのか、彼女の手が震え出した。
「マクス殿、彼女を知っているのか?」
レード様は、マクスへ尋ねた。
「ああ、知っているとも。彼女の夫が、ランディ・ボルドーだからな。ハーデン子爵家は彼女の実家だ」
は!?
じゃあ、この人は奥さんって事よね?
え、何で普通にここに居るのよ。
夫は大罪を犯して捕まっているのに。
レード様も口を半開きで固まっている。
「なぁ、レイチェル。何故ここにいる?」
マクスは怯えている彼女に容赦なく質問を投げ掛ける。
彼女は唇を振るわせながらも答えた。
「私の使命、、、だからです」
使命、、、。
まさか、ジョージみたいに洗脳されている?
「使命ねぇ。諜報員や魔法使いでも育てているのか?」
ストレートに詰めるマクス。
「孤児を育てるのが、孤児院の使命です」
ボソボソと小声で、レイチェルさんは答えた。
彼女、弱気な感じかと思ったけれど、存外、芯がありそうだ。
「その“育てる”に問題があるから、おれたちが来たんだけどね」
マクスの穏やかな口ぶりに棘を感じる。
呆けていたレード様は、突然、我に返ったのか、「続きは、中で話しましょう」と全員に向かって言った。
孤児院の応接室へ通される。
応接室と言っても、王宮にあるような華美な空間ではない。
木で出来たテーブル一台と、チェアーが八脚ほど並んでいるだけ。
私とマクスは横に並んで座った。
向かい側にはレイチェルさんとレード様が座る。
入口ドアの前に、マクスの護衛が一人立つ、廊下では、ノード王国の騎士二人が警戒中。
窓の外にも恐らく、ノード王国の騎士と、ソベルナ王国の影が潜んでいる。
「では、レイチェル、この孤児院の事について説明を」
レード様が、ホスト役となり話を始める。
「はい、ここはランディ・ボルドー準男爵が経営している孤児院です。0歳から十五歳までの三十人が生活しています」
「その孤児は、どう言う経緯で此処に?」
レード様が、質問する。
「皆、親を亡くした子供達です」
「親を亡くした子供達の出身国は?」
マクスが問う。
「それは、、、。皆、ノード王国の子供達です」
「では名簿を見せて欲しい」
「・・・・・・」
レイチェルさんは、俯いた。
嘘をついたと言う事は、もしや洗脳を掛けられていない?
ジョージは堂々とおかしな言動だったもの。
「今更、嘘をついてどうする?お前の夫はもう戻らない。正直に話してくれないか?」
マクスは諭すように問い掛ける。
「レイチェル、子供達の名簿を」
レード様が、レイチェルさんに促す。
「はい、取って参ります」
彼女はか細い声で答えると、部屋から出て行った。
マクスの指示で、ソベルナ王国から連れて来た護衛は、彼女の後ろから付いていく。
「マクス殿、彼女がランディ・ボルドーの妻ということは、ジョージやマイルスの母だよな?」
「ああ、その通りだ。やはり、ランディ・ボルドーはノード王国に拠点を築いている可能性が高いな。まさか彼女が此処にいるとは、おれも想像して無かった」
マクスの話を聞いて、レード様が顔を歪める。
「まさか、魔法使いの拠点が、我が国だとはマクス殿に先日指摘されるまでは予想もして無かった。それなら尚更、ここの調査は慎重にしないといけないね」
「おれも、そう思う。国に帰ったら、サンディーをレード殿のところへ直ぐに向かわせてもいいか?」
「ああ、それは是非。ソベルナ王国と連携しなければ、私達では何も暴けない。むしろ、こちらからお願いしたい」
レード様は両手でお手上げのポーズをした。
「あのー、サンディーさんは一人で大丈夫ですかね?ピピも一緒に行って貰う方が良いのでは?」
私が遠慮がちに付け加えると、レード様の表情が急に明るくなった。
「ピピ殿!?いつでも大歓迎です。正直なところ、彼が欲しいくらいです」
「ピピが、人気者過ぎて、私は嫉妬の嵐ですよ」
口を尖らせて不満を言うと、レード様とマクスが笑った。
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