76 重鎮召喚
楽しい物語になるよう心がけています。
誤字脱字等のご連絡は感謝いたします。
カルロ殿下は、ナスタ殿下を見据えて立っていた。
何処からナイフ?
普通に投げて、岩壁に刺さったりする?
私の頭は、疑問でいっぱいになった。
何か聞きたいけれど、纏まらない。
「マーカス、頼みがある」
私の混乱を他所に、カルロ殿下は自ら話し始めた。
「このような兄弟同士の殺戮合戦は、ブカスト王国にとって、何一つ良いことはない。お前の代で、『沢山の妻を娶り、多くの子供を作った挙句、兄弟で玉座を狙う』などと言う馬鹿げた伝統は終わりにして欲しい」
マーカス殿下をじっと見つめ、カルロ殿下はゆっくりと丁寧に語るが、その言葉には無念さが滲み出ていた。
不意に彼の長いまつ毛が輝いたかと思えば、真珠のようなものがポロリと落ちる。
それは涙だった。
カルロ殿下の美しい顔が、より一層、神々しい雰囲気を放つ。
「ああ、必ず見直すと約束する。こんな愚かな伝統は終わりにしよう」
マーカス殿下は、カルロ殿下に近寄り、肩を抱き寄せた。
双子王子は静かに抱き合い、悲しみを共有する。
ブカスト王国の玉座争いは、過去もこの様な悲劇を繰り返して来たのだろうか?
“願わくば、この二人の御代で、良き方向へ転換して欲しい”
私も静かに心の中で願う。
「キャロル、父上が来る」
唐突にマクスが呟いた。
「陛下が?」
私がマクスへと振り返る途中で、音も無く陛下が牢の中へ姿を現した。
全員の視線が、一瞬で陛下に集まる。
誰も叫び声を上げなかったことを褒めて欲しい。
「驚かせてしまい、すまない」
空気を読んだのだろうか?
陛下は開口一番、お詫びの言葉を言った。
「父上、どうして此処へ?」
マクスが尋ねる。
「ピピ殿が緊急事態だから助っ人に!と言いに来た。そして、、、」
陛下が説明している途中で、今度は宙からピピと見知らぬ男性が降って来る。
片膝を付いて鮮やかに着地した男性は、褐色の肌に金髪、グリーンの瞳で、顔立ちは双子王子と似ている、とてもダンディな御仁だった。
金色のローブに、赤い刺繍が入った黒い紗を袈裟懸けしている。
「父上!」
マーカス殿下が叫ぶ。
その声に釣られて、カルロ殿下も御仁の方へと視線を向けた。
「ああ、マーカスか。白うさぎのピピ殿が緊急事態だと、私を迎えに来たのだ」
御仁は立ち上がると、私達の方を向いた。
「お初にお目に掛かる。私はブカスト王国の国王アラン・ディル・ブカストと申す。我が子及び、我が国の者がソベルナ王国へ多大なるご迷惑をお掛けしていると報告を受けている。心よりお詫び申し上げる」
言い終えると同時に、アラン国王陛下は頭を垂れた。
一国の王が、謝辞を述べ、頭を下げるというのは、非常事態だと言える。
「初めまして、私はソベルナ王国の国王カエサル・J・ソベルナです。今回は互いの国が漸く歩み寄る機会を得た途端に起きた事件でした。今後のためにも、両国で力を合わせ解決することこそが大切です。頭を上げて下さい」
陛下は、アラン国王陛下の前へ、手を差し出す。
アラン国王陛下は顔を上げ、その手を握った。
そこへ、サンディーさんが駆け寄る。
「カエちゃん、ランちゃん!!此処までの情報をあげるからぁ、手を貸してー!!」
安定の大物を大物とも思わない振る舞いである。
いや、ちょっと待って!?
そう言えば、サンディーさんは、元女王だったから、身分的にはこの二人と同じってこと?
「この方は?」
アラン国王陛下が、片眉をピクリとさせながら、陛下に尋ねた。
見ず知らずの女性から、『ランちゃん』って呼ばれたら、さすがに警戒するよね、、、。
「彼女は、我が国の大魔法使いのサンディーです。少し個性的ですが、頼れる存在です」
陛下は、サンディーさんの奇行を個性的と言う言葉を使って誤魔化した。
「ふむ、なるほど」
アラン国王陛下が納得したのか、はたまた諦めたのか、本音は分からないけれど、彼は右手を差し出した。
それに合わせて、陛下も右手を差し出す。
二人の手をサンディーさんは勢い良く握る。
パチン!と、空気が揺れた。
今、記憶を流し込んだのだろう。
「な、何と言うことだ!!」
大きな声で叫んだのは、アラン国王陛下だった。
反して、目を閉じ、首を左右に振っているのは我が国の陛下。
「父上、ナスタはとんでもない話を次々としました。そして、今は静かにしていますが、魔法もオレたちの想像以上に使えます」
マーカス殿下が補足を加える。
アラン国王陛下は壁に貼り付けられているナスタ殿下を見る。
そして、顔を歪ませながら、絞り出す様な声で言った。
「ナスタ、悪事の限りを尽くして、一体、何を手に入れようと言うのか!」
低く少し震えているものの迫力のある低音に、強い怒気を感じる。
皆で、アラン国王陛下のピリピリした様子に息を呑む。
先程まで、自己陶酔の極みのような話を流暢に話し、急に黙り込んでいたナスタ殿下は、懲りもせず、人を嘲笑うような軽い口調で語り出した。
「んー、強い魔法を使える者が支配する国だよ。素敵だろう?そこには揉め事もないんだ。強い者こそ正しい。弱者は屈服するんだよ」
生き生きと狂った理論を振り翳す。
この世の全ては自分のものであり、自分が一番であるという考えは自己中の極みだ。
彼は己以外の万物を知ろうともしないから、学ぶこともないし、顧みるということもないだろう。
到底、私たちの言葉を理解出来る筈もないのだ。
逆も然り、私達も彼の言葉を理解することが出来ない。
「お前は魔王にでもなるつもりか!?何をどうすれば、そう言う思想になるんだ」
アラン国王陛下は眉間を指で揉む。
「別に普通に生活していただけだよ」
ナスタ殿下は、ニヤリと笑みを浮かべ、アラン国王陛下を挑発する。
「アラン国王陛下、おれはソベルナ王国の王太子マクシミリアンです。ナスタは人を挑発する様な話し方をワザとします。引っかからない様に気をつけて下さい」
「ああ、君がマクス殿か?マーカスから話は聞いている。我が国に歩み寄ってくれてありがとう」
アラン国王陛下は、マクスへ向かって笑顔を見せる。
気持ちが切り替わったのか、部屋に漂っていたアラン国王陛下の怒気が消えた。
「彼女が私の妻のキャロラインです」
マクスは、そのまま私を紹介した。
「初めまして、アラン国王陛下。ご紹介に預かりました、私が王太子妃のキャロラインです。牢の中でご挨拶をするというのは、少し不思議な気分ですね」
「ああ、本当に。キャロライン殿、我が子達がご迷惑をお掛けして申し訳ない。寛大な心で対応してくれたことに感謝の言葉もない。ありがとう」
あ、誘拐事件のことかしら?
「いえ。自力で帰れましたから、気にしないで下さい」
私が、そう言うとアラン国王陛下は苦笑いを浮かべた。
「さて、ナスタは、どうしましょうか?」
絶妙なタイミングで、マクスは全員に向かって尋ねた。
最後まで読んで下さりありがとうございます。
面白いと思ったら評価、感想のほど、どうぞよろしくお願いいたします。