75 怒気
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「粛正だと?お前、本当に、、、。何やってんだよ!」
マーカス殿下が怒気を放つ。
「ああ、本当さ、第四王子のリュウは落馬させたし、第五王子のラーシュは、医師を買収し、出産時にその母親と共に葬った。第六王子のベスランは流行病ということになっているが、実際は毒を盛った。そして、第七王子のキーファは足を滑らせて、バッシュ帝国との国境にあるソール川へ転落。上手いもんだろう?」
悍ましい告白を恍惚な表情で語るナスタ殿下。
その目つきにゾッとする。
マーカス殿下は第五王子の話の辺りから、表情が固まった。
聞き終わってからは、瞼を閉じて拳を握っている。
湧き出る怒りを抑えているようにも見える。
自分の兄弟が、他の兄弟を殺していたなんて、聞きたい筈がない。
そして、カルロ殿下は真っ直ぐと冷たい刃のような視線をナスタ殿下へ向けていた。
サンディーさんは、無言で双子兄弟を心配そうに見ている。
「上手いもんだろう、、、か。それで、次は何を企んだんだ?」
多分、この場の誰よりも怒りを抑えているマクスが、ナスタ殿下へ続きを話すように促す。
「そこに居る双子とトッシュの周りにいる人間は守りが堅かった。僕が刺客を送っても、上手く行かなかった。だから、色々と考えたんだよ。殺せなくても、スキャンダルで追放すれば良いかもってね。隣国の王太子の婚約者を誘拐して寝取るって計画は、上手く行けば最高だったんだけどね。キャロライン嬢が逃げちゃうとはねー」
クックックと、ナスタ殿下が笑う。
何が面白いのだろう?
私は全然面白くないのだけど。
「お前はキャロルを大分前から狙っていた様だな。どうやって目星を付けたんだ?おれはキャロルとの事を公表はしてなかったハズだが」
「マクス殿は脇が甘い。カシア王弟妃やロレンス元王女から、幾らでもソベルナ王国の情報は流れて来るし、マクス殿とキャロライン殿はいとこ同志で、幼少期から特に仲良くしているという情報なんて諜報員なら誰でも知っているよ。君が成人しても婚約者を発表しなかったことでこの情報は確信に変わった。三年前から準備万端だったよ」
マクスが怒りに耐えているのを、嘲笑うように、ナスタ殿下は語る。
私はマクスの袖を引っ張った。
「マクス、大丈夫?」
マクスは何も言わずに頷いた。
これは、、、危ないのでは?
私の本能がマクスを止めた方が良いと言っている。
どうすべきか、そこに居る皆に目配せをした。
サンディーは、頷いた。
カルロ殿下はナスタ殿下を真っ直ぐ見据えているので、視線が合わない。
マーカス殿下も目を閉じているので、視線を交わすことが出来なかった。
カルロ殿下とマーカス殿下も、マクスと同じくギリギリなところで、怒りに耐えているのかも知れない。
「三年前からの準備とは?具体的に話して貰おうか?」
マクスが問う。
感情の無い声だった。
「最初にスージー・ボンドを送ってから、少しずつ、リューデンハイム家の使用人は僕の配下に変えた。あの邸は当主が常に不在だからさ、簡単なものだったよ。一年前にジャスティン殿が王都へ行った頃には、殆ど砂漠の薔薇関係者に変わっていた。だけど、キャロライン嬢は全く気付いて無かったよね?あー、そうそう!僕が一度、出来心でさ、魔石をキャロライン嬢の部屋に埋め込んだんだけどさ、上手く行かなかったんだよ。それで、彼女は魔法が使えるんじゃないかって、気付いたんだけどさ」
完全に調子に乗ってペラペラ喋る、ナスタ殿下。
「はぁ!?私の部屋に魔石?」
思わず声が出た。
「ああ、操ってやろうと思ったんだけど、上手く行かなかったんだー」
ドン!と、大きな音がした。
ナスタ殿下の右の頬を擦り、岩にナイフが刺さっている。
誰が投げた???
何も見えなかったのだけど、、、。
「操って、どうするつもりだったって?」
地の底を這う様な声で、マクスが問う。
ナスタ殿下は、不敵な笑みを浮かべる。
これ、止めた方がいいんじゃ、、、。
私の不安が伝播したのか、マーカス殿下が閉じていた瞼を開いた。
「マクス殿、こんなクズを野放しにしてしまい、本当に申し訳ない」
室内の空気が、ピリピリしている中、マクスを宥めるように、マーカス殿下は彼と視線を合わせ、ゆっくりと話した。
「そして、キャロル殿。愚兄が、とんでもない計画を遂行したことをお詫び申し上げる」
マーカス殿下は私へも謝罪の言葉を口にした。
「いえ、マーカス殿下が謝る必要は無いと思います」
私はキッパリとその謝罪を、跳ね除けた。
「おれはコイツを赦さない。だが、マーカス殿が代わりに謝る必要はない」
続いてマクスもマーカス殿下へ、貴殿が謝る必要がないと告げた。
ドンっと、また大きな音がする。
今度は、ナスタ殿下の左頬を掠って、ナイフが岩壁に刺さっていた。
背中にヒヤリとした感覚が伝う。
これ、マクスの仕業よね?
あー、この場でマクスを止められるのは、私だけだよね。
マクスの前に行き、手を伸ばして、その頬を両手で覆った。
「マクス、落ち着いて!色々あったけど、私は無事よ」
私の言葉が届いていないのか、マクスと視線が合わない。
どうしよう、、、。
思い切って、ギュッと抱きついた。
「えっ?」
マクスが、私の方を見た。
「マクス、ナスタ殿下の話に挑発されないで!私は無事なんだから!!」
伝えたかった事を、大きな声で言う。
「挑発、、、。そうか!挑発」
マクスが呟く。
「コイツは人を操るのが得意だと思えばいいのか?」
「そうそう!乗せられたら負けだからね!マクス」
「それにしても、行いが悪すぎて胸糞悪いんだけど」
彼は渋い顔をする。
「みんな、ムカついてるけど、ギリギリで耐えてるんだから、ナイフとか投げちゃダメ!!」
「ナイフ?おれじゃ無いよ」
マクスは曇りなき眼で私に言う。
「いや、マクスしか無理でしょ?」
私は尚も疑う。
そこへ、サンディーさんが話し掛けて来た。
「キャロちゃん、違う、違うわよぉー!!」
「え?」
「ナイフを放ったのはー」
サンディーさんは、私に視線で教えてくれた。
視線の先に居たのは、ナスタ殿下を刺すような目で睨み付けている、カルロ殿下だった。
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