74 地雷
楽しい物語になるよう心がけています。
誤字脱字等のご連絡は感謝いたします。
ーーー今から少し前の事。
浜辺で、釣り上げた魚を使ったバーベキューランチの準備をしていた。
そこへ、突然、ピピがジャンを連れて、宙から降って来た。
「キャロル!サンディーからの招集です。殿下もご一緒に!!急いで下さい!」
見るからにピピは物凄く焦っていて、連れて来られたジャンは微妙な表情をしていた。
突如、白うさぎが少年と現われ、周りに居たノード王国の人たちは何事かと手を止め、こちらに注目している。
「ピピ、落ち着け!簡単にで構わない。もう少し説明しろ!」
マクスが、動揺しているピピを諫めた。
バタバタしていたピピの動きが止まる。
三つ数えたくらいの間を置いて、ピピは口を開いた。
「ナスタ殿下の様子が怪しいので、至急帰還してください。今、牢にはサンディー、マーカス殿下、カルロ殿下とマックが居ます。ジャン殿は、トッシュ殿下の護衛の為に急遽、連れて参りました」
「あ、そう言う事だったんだ。急に現れて、何も言わずに連れて来られたから、、、。ということは、ここはノード王国ですね。殿下、姉様、トッシュ殿の事はお任せ下さい」
その言い振りからすると、ジャンは何も知らないまま連れて来られたということか。
ピピ、案外強者だわ。
そして、咄嗟の機転の良さよ。
流石だ!我が相棒!!
「ジャン、宜しく頼む。レード殿、申し訳ないが、一旦帰らせてもらう」
「ああ、ピピ殿が呼びに来たくらいだ!急いだ方がいい。くれぐれも気をつけて!」
レード様は、一連の出来事を知っているだけに、対応が早かった。
「ありがとう。よし、キャロル、ピピ、行こう!」
マクスは、私が返事もしないうちに転移魔法を展開した。
トッシュ少年に帰る事を伝える時間も無かった。
そして、目の前に広がっていたのは、、、。
床に伏せた三人に、大きな火の玉が迫っていた。
渦を巻く炎の迫力で、私は足が竦む。
だけど、前に立っているマクスからは、泉の時の様に身体から陽炎が一気に湧き上がる。
次の瞬間、火の玉は消え、岩壁にナスタ王子が貼り付けられていた。
え?何が起こった!?
瞬きで見逃した!!
「マクス、見えないうちに終わっちゃったけど、何をしたの?」
「炎を封じて、ナスタを拘束しただけだ」
マクスは私と話しながら、部屋の隅に逃げたマックを目で確認している。
私は伏せている三人に向かって言った。
「皆さん、お怪我は?」
「もう大丈夫だ」
マクスが声を掛けるとカルロ殿下が、顔を上げた。
ーーーそして、今。
本性を現したナスタ殿下の取り調べには、マクスが必要不可欠と判断された。
取り調べはマクスを加え、今からやり直す。
雰囲気的に、重要な場面だと感じる。
ナスタ殿下に自白魔法が効いていないという話は、最初にサンディーさんが言い出した。
他の二人と違い、問題をはぐらかしたり、軽口を叩いたりと、好き放題な発言を繰り返していたから、変だと、、、。
私は、ナスタ殿下は、元々そんな人だと勝手に思っていたので、サンディーさんの洞察力に驚いた。
思い込みって怖いなと、反省したところである。
さて、先程から悪態を突いているナスタ殿下は、言うまでもなく、身動きが取れない様、壁に貼り付けられいる。
「まーちゃん、やっぱり自白魔法聞いてないみたいなのよぉー」
「キャロルとサンディーが魔法を掛けても効かなかったんだよな。おれも試しに一度、やってみようか?」
「むむむ!まーちゃん、本気出しちゃうのねー!!」
サンディーさんが、何となくワクワクしているのは一体、、、。
マクスは、右耳からピアスを外した。
あ、結構、本気?
「では、ナスタ・アラン・ブカストへ命じる。真実のみを語れ」
マクスの言霊は、白い霧状の玉となり、ナスタ殿下の胸に吸い込まれた。
「さあ、話して貰おうじゃないか?」
マクスは挑戦的な目で、ナスタ殿下を見据える。
「まず、お前とランディ・ボルドーの関係を詳しく話せ」
マクスが質問をすると、その場の皆がナスタ殿下の回答に注目した。
「僕は第一王子、彼は臣下である。彼は魔法の国構想を僕に提案した。僕は賛同したフリをした」
「フリをしたと言うのはどう言う事だ?」
「彼はソベルナ王国のジョージ王子を魔法の国のトップにすると話していたが、どう考えても僕がトップに成るべきだろう。ブカスト王国は大陸を創造した龍神の末裔である。我が国よりも歴史も新しいソベルナ王国が、この大陸を統べるならば、間違いなくこの大陸の龍神が怒り狂うだろう。だから賛同したフリをして、最後にジョージ王子を処分するつもりだった」
「おい、お前大丈夫か!?王子を処分とか、龍神が暴れるだと?」
マーカス殿下は、質問しつつ、既に呆れ声だ。
「仮に龍神が居るとして、何故お前なんだ?」
マクスが投げかけた。
「僕は両国の血を引く。そして、ブカスト王国の第一王子だ。これ以上高貴な血筋などないだろう」
「あのさー、水を差す様だけどさぁ、アタシの子供達もブカスト王国の血が入ってるんだわー。夫がそっちの王子だったからねー!そんなのにこだわっても意味なんかないからー!」
サンディーさんが、ツッコミを入れた。
「ナスタ、サンの子供はソベルナ王国第三代国王ヘリオスだ。言うまでもなく、ソベルナ王国の王族にはブカスト王国の王家の血も入っている。龍神の血というヤツがな!」
マーカス殿下のフォローで、ナスタ殿下は漸く話が分かって来たのか、表情が歪んで行く。
「ナリスの双子王子以前に婚姻した者がいたのか?」
「ああ、そうだと言っただろう。お前は勉強不足だな」
マーカス殿下が、言葉で刺す。
「だけど、ブカスト王国からこの大陸は始まったんだ。他の国に旗頭なんか、させられるもんか!」
「いや、魔法の国って話を潰せばいいだろ」
マーカス殿下は、正論で答える。
「ああ、マーカス達は魔法を使わないから分からないんだ。魔法は万能だ。民を支配する事など容易い。今のブカスト王国を見てみろ、災害がある度に揉めているだろう?魔法が有れば、そういう心配もしなくて良いんだ!」
自己陶酔しているのか、ナスタ殿下は饒舌だ。
そっと、マクスが耳打ちしてきた。
「キャロル、これって、自白魔法が効いているのか?」
「多分、効いていると思うけど?何で?」
「だって、おれ、実は自白魔法とか掛けてないんだよ」
「は?」
「おれは演じただけ。自白魔法とか構築の仕方も知らない」
「あー、そうなんだ。だけど、今言わないで欲しかったよ。黙って、このまま様子を見よう」
ボソボソと話し合う私たちを他所に、『ブカスト王国は最強だ』という話が、まだ続いていた。
「ナスタ、龍神は信仰だ。目の前をちゃんと見ろよ」
「私は龍神など信じておらぬ。本当にいるのなら、不幸な者も不幸な出来事も無いだろう。また、ブカスト王国の災害の多さはどの国よりも多い。龍神は人々の苦しみを和らげる為の信仰だと私は捉えている」
「いや、お前たちは龍神の尊さを知らな過ぎるんだ。マーカス、お前なんかに国は任せられない」
「どの口が言ってるんだよ。極悪人!」
これ以上傍観していると喧嘩になりそうな気配。
「ちょっと待て、話がズレている。ナスタ、お前とランディ・ボルドーの関係の話に戻す。最初はどうやって知り合った?」
「物心が付いた頃には、身近に居た。父上より彼と過ごした時間の方が長いだろう」
「お前にとって、どんな存在だ?」
「彼は魔法を教えてくれた。だが、あくまで、臣下だ。母上が諜報活動を依頼する事が多かった」
「具体的にはどんな依頼をした?」
「殆ど、目障りなヤツの粛正だ。母上は敵が多い。僕は第一王子だから敵などいない」
「誰を粛正した?」
マーカス殿下が割り込んだ。
「お前たち三兄弟以外の王子は粛正した。お前たちを貶める予定にキャロライン嬢を使おうとしたのは失敗だった」
ナスタ殿下が、キャロラインと言う名を出した途端、部屋の空気がピリっっとした。
彼はマクスの地雷を踏んだかも知れない。
最後まで読んで下さりありがとうございます。
面白いと思ったら評価、感想のほど、どうぞよろしくお願いいたします。