72 思い込み
楽しい物語になるよう心がけています。
誤字脱字等のご連絡は感謝いたします。
「ねぇ!流石に次は僕だよねー!!」
無神経な声が聞こえる。
「ナスタ、、、。お前は本当に、、、」
マーカスが溜息を吐いた。
「サン!戻って来てくれ」
「あー、次ね。分かったわー」
サンディーは、ピピ殿とマック殿に何かを言ってから戻って来た。
そして、私の右手を当然のように握った。
あれだけ騒いで居た癖に、、、。
「カルロ、最後はナスタだ。くれぐれも制裁を加えぬ様に!」
マーカスは、私に釘を刺す。
「制裁をする程の価値が有るとも思えぬがな」
私はナスタを一瞥した。
「そんなぁー!それ僕の事だよねー?」
ナスタは、怪しげな光を放つ鎖で拘束されているのに他のふたりとは違い、全く堪えていない。
彼の残念さを物語っている様だ。
「ナスタよ。お前は何故ここに入る事になったんだ?」
私は全く現実を見つめようとしていない長兄に問う。
「カルロー。何だか分からないんだけど、気付いたら、僕はトンデモナイことをしていたみたい」
「そのトンデモナイコトとは?」
「んー、少し前だけど、『殿下は魔法を練習すれば使えるはずです』って、ランディが教えてくれたんだ。それで、最近ジョージに魔法を習っていて、あの日は一緒に攻撃魔法の練習をしに行ったんだよ。たまたまジョージ達が行くって言う泉の近くにトッシュが来ているって聞いたから、どうせならアイツも狙おうかって話になって、、、。ソベルナ王国だって知ってはいたんだけどね。深く考えてなかったんだ」
あー、コレは流石に、、、。
マーカスの表情が、どう見ても激怒している様にしか見えない。
「サンディー、マーカスの手も、、、」
私は、サンディーの耳元にそっと呟く。
サンディーは、ナスタの方を向いたまま、マーカスに右手を差し出した。
マーカスは何か言いたそうにしたものの、サンディーの手を取った。
目下、三人で平静を保つために手を繋いでいる。
何とも可笑しな光景だ。
「良いなぁー!三人とも仲良しなんだね」
あー、こめかみがピリピリする。
何なんだ?この度を越えた無神経は!?
「あのさぁ、なっちゃんはさぁ、悪い事をしたら誰か怒ってくれる人って居なかったのぉ?」
サンディーが、ナスタに直球を投げた。
「え?」
「いや、此処に居るっていうのは、かなり悪い事をしたからだよぉ?理解してないのかなぁ?それとも理解したくなくてトボけているのかなぁ?」
「うーん、僕は悪いことをしてないよね?」
「あー、そうかぁー!そうくるかぁー!!なーちゃんは、自分が何かしたら次は何が起こるとか、考えないのかなぁ?魔法で泉を壊した時、周りに人が沢山いたでしょー」
サンディーは、ナスタに考えさせようとしている。
「あー、沢山居た!空から見えたよ」
「じゃあ、破壊した時に巻き込まれたらどうなると思うー?」
「んー、分からない」
「何故、分からないのぉー?」
「だって、人が消えたんだ」
「消えてなかったら、どうなったと思うー?」
「怪我とかするってこと?」
ナスタは首を傾げた。
私とマーカスは、二人の遣り取りを黙って聞いている。
サンディーが居なければ、間違いなく激しい兄弟喧嘩になっただろう。
「そうだね。じゃあ何故、何もないところで練習するのでは無くて、泉を壊そうと思ったのぉ?」
「それはランディが決めたんだよ」
「なーちゃん、ランディが決めたから従うって話は変じゃない?王子って『砂漠の薔薇』を使う側でしょう?」
「うーん、王子って言っても僕は落ちこぼれだから、ランディの言う事を聞いた方が良いって、母上からいつも言われていたんだ」
「母上が言わなかったら、ランディの言う事は聞かないのぉ?」
サンディーは、追求をやめない。
「あっ、僕もジョージみたいに洗脳とかされていたのかも!」
「いや、なーちゃんには何も掛かってないよー」
「そっか、じゃあ可哀想でもないね」
ナスタは、残念そうな声を出す。
「なーちゃん、アタシは手荒な真似をしたくないんだよ。本当の話をしてくれない?」
サンディーの話し声が、急に低く圧のあるものに変わる。
ナスタにこれ以上聞いても無駄なのでは?と、私は思うのだが、、、。
ふと、その横顔を見れば、サンディーはいつの間にか、ナスタを厳しい目で見ていた。
彼女のフワフワとした雰囲気は、すっかり消えている。
「何なんだよ、大魔法使いって!そんなのが居るとか聞いてないんだよ。計画が、もうボロボロじゃん」
ナスタは不機嫌そうに言い捨てた。
こいつの雰囲気も一変したような気がする。
「その計画って何なのぉ?なーちゃんは最初から、自白魔法が全く効いてないよねー。魔法をそれだけ使えるなら、ジョーに習ったって嘘でしょ?」
「なっ、サン!それは本当か!?」
マーカスが割って入った。
「そーよ、マーカスちゃん。だって、いつもなーちゃんは、のらりくらりと質問をはぐらかしていたでしょ?」
「言われてみれば、確かにそう、、、だな。オレは、ナスタを最初から怠惰な奴だと思い込んでいて、全く疑わなかった。あー、失敗したな、、、」
「そうそう、なーちゃんは極悪人だからねー!マーカスちゃん、騙されたらダメだよ!!」
サンディーは、視線を再びナスタへ向けた。
「ねー、アタシ結構分かっているのよぉー。だけど、自分の口で答えて欲しいのよぉ」
ナスタの顔は、いつものとぼけた表情から、空気が張り詰めるような冷たい無表情へと変化した。
「ふん、気付いたなら、茶番だったな」
ナスタは呟いた。
「マーカスちゃん、カルロ。あのね、ちょっと警戒するから、絶対手を離さないでね」
サンディーは私達にそう言うと、何かの詠唱を始めた。
「エXモス、XXナXラ、メサXXア、XX、、、」
聞きなれないその呪文の意味はサッパリ分からぬが、サンディーの様子からすれば、ナスタは侮れないと言う事なのだろう。
詠唱が終わるとナスタを拘束していた鎖が増え、私達とナスタの間に青白く透明感のある壁が出現した。
その瞬間、ナスタの身体から蒼い閃光が放たれた。
手足を拘束している鎖がゴリッと音を立て、2本キレた。
「な!?ナスタ、お前一体何をしている」
マーカスが、ナスタに言った。
「五月蝿いな、僕に指図なんかするな」
ナスタはマーカスに強い口調で言い返す。
「コーXX、ナフXカ、XXXX」
サンディーの呪文で、先程とは違う金色に煌めく鎖でナスタは再び拘束された。
「なーちゃん、しっかり話をしてもらうからねー!」
「黙れ!指図するな!!」
ナスタが叫び、また眩い閃光を放つ。
幸い、シールドに守られ、私たちには何の問題もないが、ナスタを拘束していた鎖は全て砕け散った。
「サン、アイツ大丈夫か!?」
マーカスが心配そうにサンディーへ聞いた。
「なーちゃんは紫の瞳持ちだから、魔力が強いのよぉー」
サンディーの言葉に私とマーカスの考えが甘かったと言うしかない。
ナスタを馬鹿にしていたのだ。
アイツはそれを逆手に取って、悪巧みをしていたのか、、、。
「お前たち全員屠ってやる!!」
シールドの向こうから、あり得ない言葉が聞こえた。
まだ罪を重ねようと言うのか?
ナスタは自由になった両手を上に挙げ、炎を作り出す。
それは、あっという間に大きな火の玉となり、ナスタはこちらを見据えている。
「全員焼き尽くしてやる!!!」
大きな声で叫びながら、ナスタは、大きな炎の渦をこちらへ投げた。
それは、スローモーションで、私に迫って来る。
サンディーのシールドも押し破り、熱気が近づいて来る。
咄嗟にサンディーの手を離し、彼女を抱き込んで床に伏せた。
マーカスも引っ張られて、同じく床に伏せる。
熱い風が私達を襲ってくる。
最早ここまでか!?と思ったその時、熱が消えた。
私達は耐えきったのか?
それとも、、、。
「みなさん、お怪我は?」
「もう大丈夫だ!」
聞き覚えのある二人の声が頭上から聞こえる。
私は伏せていた顔を上げた。
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