71 呪い的魔法
楽しい物語になるよう心がけています。
誤字脱字等のご連絡は感謝いたします。
極悪人の次は、その息子ジョージ・ボルドーの取り調べをするらしい。
マーカス曰く、“彼は己のことを『父親の道具』だと思っている“
そんな悲しい話があっていいのだろうか?
しかし、ランディ・ボルドーの狂気を狂気とも思わぬ言動からすれば、子供達にも碌なことをして無い可能性は充分にある。
「ジョージ・ボルドー、さぁ話をしようか?」
マーカスは、両手足を怪しく光る鎖で拘束されたジョージへ話し掛けた。
ジョージは俯いていた顔を上げると、此方を睨み付ける。
「そんなに睨みつけたところで、どの道お前は真実を話すしか無いんだ。楽にしたらどうだ?」
呆れた声で、マーカスが言う。
「カルロ、アイツはいつも睨んで来るんだ。余り気にするなよ」
私の方を向いて、マーカスが言う。
恐らく、私がキレない様にと、先に注意を促したのだろう。
「ああ、分かった」
「マーカスちゃん、大丈夫よ。アタシたち手を繋いでいるものぉー」
サンディーは、繋いだ手を高く上げて、アピールした。
マーカスが微笑を浮かべる。
「ああ、そうだな。じゃあ、質問を始めよう」
マーカスは、ジョージの正面に立った。
ちらりと見ると、ピピ殿とマック殿は部屋の隅から此方を窺っている。
その姿も愛らしい。
「ジョージ、お前の父親が、色んな女性と沢山の子供を作ることをどう思う?」
「何も思わない」
「良いとか、悪いとかも分からないのか?」
「そう言う事は考えた事がない」
スラスラと、本人の意思とは関係なく答えが紡がれていく。
「ねー、マーカスちゃん。この子、洗脳されてるかもぉ。ちょっと、手を出してもいい?」
「ああ、勿論」
マーカスの返事を聞いて、サンディーは私と手を繋いだまま、ジョージの前に進む。
そして、右手をスッと伸ばし、ジョージの頭に置いた。
「カルロ、、、。あのね、アタシと手を繋いでいるから、ちょっと変な感じがするかも。でも、大丈夫だからね」
サンディーは、私に向かって言う。
私は「それなら、手を離せば良いのでは?」と言い掛けた。
刹那、サンディーが詠唱を始める。
「サマサ、メンXXラフ、XXXX、、、」
耳慣れない言葉で、殆ど聞き取れない。
マクス殿ならば、分かるのだろうか?
そんな事を考えていると、サンディーの手から、ふんわりと白い霧のようなものが溢れ出した。
その霧の中には、黄金色にキラキラと輝く粒子も見えた。
ジョージは、輝く霧で全身を包まれる。
それと同時に、私は手から何かが流れ込んでくるような感覚がした。
この手は繋いでおいて、本当に大丈夫なのだろうか?
疑問に思いながらも、振り払う事も出来ず、サンディーの様子を窺う事しか出来ない。
彼女は目を閉じて、集中していた。
視線をマーカスに送るも、首を横に振られる。
邪魔をしない方が良いと言う事だろう。
ーーー数分後。
「もう最悪!!最悪なのよぉ!!」
彼女は開口一番、怒りをぶち撒けた。
「サン、どうした?」
マーカスが問う。
「あのねー、この子、洗脳が解けたら、死んじゃうんだよぉ!!呪い的な魔法を掛けてるのよ!アイツ!!」
サンディーは、ランディ・ボルドーの方を指差した。
「呪い的魔法!?」
マーカスは怪訝な表情で、首を傾げる。
「ええっとぉ、禁忌の魔法だよー。だって言うこと聞かなかったら死んじゃうんだヨォ!!」
「そうか、それはダメなやつだな。すまない、魔法には疎くて」
マーカスはバツが悪そうにしている。
ブカスト王国では魔法使いが殆ど活動していないのだから、当然だと言えば当然なのだが、、、。
「私も魔法の事は殆ど知らぬ。サンディー、それで、こやつの呪いはどうなる?」
私も知識がない事を伝え、死ぬかも知れないジョージのことを聞いた。
サンディーは、ジョージの頭から手を離す。
すると、白い霧は瞬く間に消え去る。
何とも魔法とは不思議なものだ。
「勿論、アタシが解除したから大丈夫だよぉ!真実を話しても死にませーん」
その宣言に一番早く反応したのは、ジョージだった。
私達と対峙する姿勢から、一転、落ち着いた表情に変化した。
「ジョージ、気分はどうだ?」
マーカスが質問を始めた。
「悪く無いです」
「何故ここに居るのかは分かっているか?」
「はい、分かっています」
「父親から変な魔法を掛けられた記憶はあるのか?」
「いえ、覚えていません」
「マーカスちゃん、それって、赤ちゃんの時かも知れないわぁ」
「はぁ?赤子に呪いを掛けたのか!?アイツは」
「うん」
サンディーの回答で、マーカスの表情が歪む。
「オレも、アイツを殴りたくなって来た」
マーカスは拳を握り込む。
「マーカスちゃん!我慢我慢!!」
「サン言われたら、我慢しないといけないな」
マーカスは拳を緩めた。
「それで、ジョージ。改めて聞く。父親が自分の目的のために女に子供を産ませたり、孤児を訓練して手駒にする事をどう思う?」
「悪い事だと思います」
口が勝手に真実を答える。
ジョージは狼狽えた。
「大丈夫よ。もう死んだりしないからねー」
サンディーが、ジョージに語りかけ、頭を優しく撫でた。
「よしよし、悪い事をしたから、反省しようねー」
畳み掛ける、サンディー。
ジョージの顔が歪む。
程なく涙も溢れて来た。
「すみませんでした。取り返しが付かない罪が沢山あります」
涙声で、ジョージは語り出す。
「父は、王弟妃カシア様と幼馴染でした。婚約の申込をカシャロ公爵に断られ、逆恨みをしていました。母と私達はその恨みを晴らすために利用されました」
私は、ジョージの話をじっくりと噛み締める。
魔法の国を作るというのは、カシャロ公爵家と言う家門への怨念が絡んでいる可能性もあるという事か。
だが、残念ながら、私はソベルナ王国の貴族の事はよく分からない。
この話はマクス殿にしっかり伝えた方が良いだろう。
「分かった。お前はもう自由に話せる様になった。それは良かったと思う。だか、オレは立場上、ブカスト王国の事にしか口は出せない。ソベルナ王国の事は、マクス殿が戻ってから、また詳しく聞かせてくれ」
マーカスの言葉を聞いて、ジョージは頷いた。
「サン、ありがとう」
マーカスは、サンディーにお礼を告げた。
「どういたしましてぇー!」
サンディーが笑う。
やっぱり、美しい。
私は無意識のうちに彼女を眺めていた。
「カルロ、、、。そんなに見ないでぇー!!」
サンディーは、右手で顔を隠す。
私はハッとした。
「すまぬ。余りに美しい故、つい眺めてしまったのだ」
素直に詫びる。
「むむむっ!カルロは、、、。やだ!恥ずかしいから、そんな事言わないでー!!」
彼女は私と繋いでいた手を離し、とうとう両手で顔を覆ってしまった。
「サンディー、私は事実を言ったまで、何も恥ずかしいことなど言っておらぬ」
「アタシ、美しくなんかないわぁー」
「いや、其方は女神レベルだぞ!」
「ギャー!!何言ってんのヨォー!!」
サンディーは、そう言うとピピ殿の方へ走って行ってしまった。
「オレは、一体何を見せられているんだよ」
マーカスが呟く。
「やはり、私は女心が分からないのか?」
私は、マーカスに聞いた。
「いや、女殺しだろう」
マーカスの返答は、更に理解出来ないものだった。
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