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ソベルナ王国の魔法使い(魔法使いの元男爵令嬢はハイスペ王太子を翻弄する)  作者: 風野うた
第一部 その願い100%叶います!(天使カードに軽い気持ちで魔法付与をしたら大変な事になりました)
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7 恋人の丘

楽しい物語になるよう心がけています。

誤字脱字等のご連絡は感謝いたします。


 汗ばむ額に少し強めの風が心地良い。


 すっかり日課となった花壇の手入れをしていると酒場の踊り子ケイトがこちらへ向かって歩いて来ているのが見えた。


「キャロルさま〜!お疲れさま〜」


 ケイトが笑顔で手を振っている。


「ケイト!どうしたの?久しぶりね」


 キャロルの目の前まで来て、ケイトはカゴを差し出した。


「コレ差し入れなの。キャロルさま、お昼にどうぞ!!」


 ケイトはカゴの上にかけてある布を少しずらして、中身をチラリと見せる。


「うわっ!!もしや、それは、・・・」


「そう。キャロルさまの大好物、鯖サンドよー。酒場の女将さんがね、最近、景気が良いのはキャロルさまのお陰だからお礼を言っておいてって」


(何よ、女将・・・。そんな事を言われたら泣きそうになるじゃない)


「ほらほら、キャロルさま。涙目になんてならないで、可愛い顔が台無しよ」


 ケイトはスコップと苗で両手が塞がっているキャロルの目元を可愛いハンカチで拭いてくれた。


(女将、なんて嬉しいことをしてくれるの・・・)


 気付けば、号泣していた。


 涙腺の崩壊は少し疲れていたからかも知れない。ケイトはキャロルが落ち着くまで側にいてくれた。


「キャロルさま。あたしね、ここに来るまでは踊り子ってだけで、下に見られて結構酷い目に遭ったりしたのよ。ここは皆、心が温かくて居心地のいい街だわ。私には言えない様な大変な事もキャロル様にはいっぱいあるんでしょう?聞くことは出来なくても、そばにいる事は出来るわ。いつでも遠慮なく呼んで頂戴」


 あまりにもケイトは素敵なことを言ってくれる。キャロルはまた涙が溢れて来てしまいそうだった。――――でも、必死に堪えた。


「ありがとうケイト。とても嬉しいわ。じっくり噛み締めて味わいますって、女将にお礼を伝えておいて!」


「ええ、伝えておくわ。それはそうとキャロルさま、皆が聞けなくて困っているみたいだから、領民を代表して聞くわね。その指輪は彼氏から貰ったの?」


「え、領民代表!?これ、そんなに目立っていた?」


「ええ、目立っているわよ。酒場のおしゃべりでは色んな人がキャロル様の恋人候補に上がっては消えて行っているわ」


(えええっ、いつの間にそんな事になっていたの!?屋敷の使用人たちは全く触れて来ないから、私の色恋になんか誰も興味がないと思っていたのに・・・)


「ケイト、私の恋人候補って、一体、誰よ?」


「そうね~、概ね騎士団員?あとは木こりのジョーも候補に上がっていたわ」


(木こりのジョー!?誰よ、それ!)


「ブヅッ、フフフ」


「キャロルさま、今日は泣いたり笑ったり忙しいわね。ウフフフッ」


 ケイトもキャロルに釣られて笑い出す。


「――――この指輪はね、彼氏ではないのだけど、とても信頼している人がお守りにくれたのよ。それが誰かなのかは事情があって言えないの・・・。ごめんね」


 キャロルは素直に伝えた。これ以上、おかしな噂が増えないようにと。


「そうなのね。キャロルさまにもそういう人が居たのね、良かったわ~」


 ケイトはニッコリと微笑む。


「そんなに私は心配されていたの?」


「ええ、王都の社交界にも殆ど顔を出さずに、こんな田舎に引きこもっているんですもの。心配されるわよ」


「それはご心配をおかけしました。ほら、この通り、美しい花壇を作ることに生きがいを見つけているから、心配しないでね!」


 キャロルは綺麗に植えられた花たちを自慢げに指差した。


「花壇に生き甲斐・・・。――――かなり心配だわ!たまには酒場で遊んで息抜きでもした方がいいわよ」


「ええ、そうね。ご心配ありがとう。酒場にも近々お邪魔するわね」


「いつでもどうぞ!じゃあ、そろそろあたしは店に戻るわ。キャロルさま、またね」


「気をつけて帰ってね!」


 キャロルはケイトが見えなくなるまで手を振った。


 ケイトも振り返るたびにキャロルへ手を振った。


♢♢♢♢♢♢♢


 翌々日の昼下がり、フードを目深に被っている男がケイトを訪ねて来た。


 彼はキャロルが行方不明になっていると彼女へ話す。そして、最後に会った時の話を聞かせて欲しいとケイトへ頼んだ。


――――ケイトは一昨日、キャロルへ差し入れを持って行った時のことを彼に伝えた。


「ケイト、君がキャロルに最後に会った時の話は分かった。他に何か心当たりは?」


 フードの男は何か一つでも手がかりが欲しいようで、ケイトへ圧を掛けて来る。


「特に思い当たる様なことは無いわ・・・。ねぇ、貴方って、もしかしてキャロルさまに指輪を贈った人?」


 ケイトの質問に彼は言葉ではなく、フードを少し後ろにズラして顔を見せた。そして、口の前にそっと人差し指を立てる。


 察しのいい彼女は無言でゆっくりと頷いた。


――――キャロルが行方不明になったと王都に連絡が入ったのは昨日の朝だった。


 マクスは直ぐにジャスティンを彼の父親である第二騎士団の副団長マーク・リューデンハイム男爵の元へ向かわせ、国境に駐在している彼の母親で第三騎士団の団長をしているジェシカ・リューデンハイム男爵夫人には伝令を送った。


----マクスは部下に指示を出し終えると、そのまま早馬でリューデンハイム領へ向かったのである。


(こんな事になるなら、キャロルを領地へ帰さなければ良かった。ただ、精霊との契約は上手くいったようだ。あとは精霊が彼女の居場所をこちらへ伝達してくれるといいのだが・・・)


「ケイト、色々教えてくれてありがとう。おれはリューデンハイム男爵家の屋敷に向かう」


「分かったわ。旅の方、くれぐれもお気をつけて」


 マクスはケイトにお礼を告げて、酒場を出る。


――――まだキャロルの足取りは掴めていない。


「さて、どうするか・・・」


 マクスは再び、馬に跨って彼女の屋敷へと急いだ。


♢♢♢♢♢♢♢


 マクスがリューデンハイム男爵家の屋敷に到着すると、スージー女史と思われる人物が彼の方へ駆け寄って来た。


「キャロルお嬢様を捜索して下さる騎士様ですか?」


 マクスの旅装を見て彼女はそう判断したらしい。


(今はまだ王太子が動いたと公表していない。都合よく勘違いしてくれているようだから、おれの身分は隠しておこう)


「王都で陛下の命を受けて参りました。おれは第一騎士団の騎士アークです。キャロル嬢が居なくなった経緯を聞かせて下さい」


「はい、わたくしはスージーと申します。リューデンハイム領の経理担当をしております。では、アーク様、こちらへどうぞ」


 そのまま、マクスは執務室へ案内された。部屋に一歩入り、中を見回す。


(ここでキャロルはいつも領地の事を考えて仕事をしているのか・・・)


 レモンイエローのカーテンに白い机、明るい雰囲気の室内は彼女らしい空間だった。


(もっとしっかり相談に乗ってやれば良かった)


――――もはや後悔しかない。


「キャロル様は書類整理をされていたのですが・・・。突然、用事を思い出したといって部屋から出て行かれた後、行方が分からなくなりました。ですので、ここに何か手掛かりが残されているかも知れません」


「彼女が屋敷の外に出た形跡は?」


「それが・・・、誰もキャロル様が出て行くところを見ていないのです。そもそも、使用人が少ないため警備も手薄で・・・」


(国内屈指の武闘派貴族リューデンハイム男爵家に押し入ろうとするバカなんていないという油断があったのかも知れないな・・・。今更だが、武術も身に付けていない長女がひとりで領地の屋敷を守っているという状況をもっとしっかり考えるべきだった。リューデンハイム男爵も、おれも・・・)


 マクスは悔しいという気持ちを表に出さないよう、感情に蓋をする。目の前の女は彼にとって敵なのか味方なのか、まだ分からないからだ。


「書類を見せて貰ってもいいですか?」


「はい、構いません」


 あっさりと許可を出したスージー女史は、飲み物を持って参りますといって部屋から出て行った。


 マクスはキャロルの椅子に座り、机に散らばった書類に目を通し始める。領地の業績、医療体制の確認、『恋人の丘』売上リスト・・・。 ふと、目に留まったのは『天使のカード』購入者リストだった。


(――――ここ二週間の購入者か・・・)


 彼は上から順にページを捲って購入者の名前を確認していく。


「なっ!カレン・コルマンだと!?」


 そこにはカレンの名前が記されていた。


――――突如、マクスの脳裏へ嫌な記憶が浮んだ。


「やはり、あの時・・・。おれは飛んでもない失敗をしてしまったのか・・・」


 彼は心臓を槍で貫かれたような強い痛みを感じ、両手で胸を押さえた。


♢♢♢♢♢♢♢


 先日の王妃主催の茶会で、マクスが途中退席した時のこと。


 足早に庭園から執務室のある王宮の中央棟へ向かう渡り廊下を彼が歩いていると、反対側からカレンが歩いてきたのだが・・・。


 彼女はすれ違いざまにボソッと何かを呟いた。


 それと同時にマクスの口から『キャロル』という言葉がすべり出る。


――――この時、マクスは自分が何故このタイミングで、キャロルの名を口走ったのかが分からず、首を傾げた。


(そうか、あれが『天使カード』の効果だったのか。キャロルから事前に話を聞いていたのに全く対処出来なかった)


 というわけで、マクスは好きな女の名を正直に答えてしまったのである。


「あの女は聞いていたのだろうな。そして、キャロルを・・・」


 カレンならキャロルの誘拐くらい朝飯前だろう。彼女はカシャロ公爵家の御令嬢セノーラの手先で、マクスの婚約者の座を狙っているご令嬢を粛々と社交界から消しているといわれている。


(――――だとしたら、呑気に捜査をしている場合ではないのでは・・・)


「ん!?」


 ここでマクスは机の上へ置いてあったタブロイド紙の一面に自分の名を見つける。


『マクシミリアン王太子殿下の婚約者はすでに内定か?』


 記事の内容は王妃のお茶会の騒ぎをネタにして、憶測で書かれたものだった。


「キャロルはこんなガセネタまみれのタブロイド紙を読んだのか?」


(だとしたら最悪だ!!おれはまだキャロルに何一つ伝えていないのに・・・)


「――――おれ、キャロルから『マクス、婚約者が決まって良かったわね!』とか言われたら立ち直れない・・・」


 彼は頭を抱えて、机の上に突っ伏した。


最後まで読んで下さりありがとうございます。

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