69 蚊帳の外
楽しい物語になるよう心がけています。
誤字脱字等のご連絡は感謝いたします。
長兄ナスタの不祥事で、双子の兄マーカスが即位するという話が出てから、数日が過ぎた。
黄龍の宮殿で連絡を待つばかりの私は、少しシビレを切らしていた。
ピピ殿が来ない。
ランディー・ボルドーの話から、マーカスが即位すると言う話になるくらいだ。
何か進展があったのだろう。
それにしても、どう言う経緯で長兄ナスタが出て来た?
連絡の一つくらい、そろそろ寄越しても良いのではないか?
蚊帳の外にされている様で、不愉快だ。
「サマンサ!」
私は隣の部屋に控えている秘書官のサマンサを呼んだ。
「はい、殿下。何用でしょう?」
度の強い黒縁眼鏡を掛けたサマンサは常日頃から表情が分からない。
不精者なのか、呼ばれても扉から首だけを出す。
「その後、王宮又は赤龍の宮殿から連絡は無いのか?」
「はい、本日はまだ何も入ってませーん」
上司に向かって、平然と面倒そうに答える。
「もう少しシャキッとしろ」
一言苦言を呈す。
「はーい、スミマセーン」
全く効果が無かった。
来ない連絡を待ち続けるのは不毛である。
私は、職務に戻り、黙々と書類に目を通していく。
先日、マーカスから、ハレムをシェルター化するのは辞めろと指摘された。
私なりに隣国の王太子妃キャロル殿を巻き込んだ誘拐劇の反省も込めて、この件は見直す事にした。
ハレムは辞める。
そもそも、双子の弟である私は、妻を必要としていない。
こっそり殺されなかっただけでも、充分幸運だったと思っている。
各所から逃れて来た女性には今後どうしたいのかを聞いて、就学支援や職業の斡旋をし、居住に関しては本来の保護施設、修道院、寺院等を紹介する。
マーカスは、私に逐一報告せよ!と強く言った癖に、肝心のあいつが捕まらない。
ここ数日、日中は宮殿を留守にしているという。
一体、何をしているのだか、、、。
バタバタバタと足音が近づいてくる。
何事かと思えば、側近のサキが、私の執務室へ飛び込んで来た。
「殿下ー!!」
「どうした!急を要す話か?」
書類を作成していた手を止め、筆を置く。
机から立ち上がり、扉の前に立つサキの方へ歩み寄る。
「マーカス殿下が、、、」
サキは下を向いて、泣き出した。
「マーカスがどうしたのだ!」
あいつに何かあったのか!?
私は心臓がキュッとした。
次期国王を誰かが狙ったのか?
「グスッ、え、えっと、結婚しちゃうらしいです」
サキは、ボソボソと言った後、大泣きになった。
いや、何だそれ?
正妃のことか?
「サキ、なぜ泣く?喜ばしい事ではないか!」
「全然良くないです!!マーカス殿下は、みんなのモノです」
悪いが、全く言っている意味が分からない。
だが、大泣きしているのを無視するワケにも行かず、、、。
不本意でも彼女を慰めなければ、この場が収まらない。
「泣いても、マーカスはベル殿のモノだ。諦めろ!」
私はサキの肩に手を置こうとした。
すると即座に私の手は叩き払われた。
「殿下、下手っすね」
いつの間にか、扉からサマンサが首を出して、此方を窺っている。
「ああ、私には無理だ。サマンサ、どうにかしろ」
サマンサは私の声を聞くなり、苦虫を噛み潰した様な顔をして、スッと首を引いた。
いい度胸だ、私の指示を堂々と無視したな!
覚えておけよ!サマンサ!!
その間も、サキは泣いている。
「お前は一体、どうしたいのだ?」
「マーカス殿下に会いたい」
「いや、この前、初めて会ったばかりだろう?」
やっぱり、マーカスはサキに手を出していたのか?
「ずっと絵姿を眺めてました!!!」
は?絵姿!?何だそれ?
「ずっと、ずーっとファンだったんですぅ!」
「ファン?」
「マーカス殿下は、みんなのイチオシなんですぅ!!」
よく分からないが、あいつが人気者だと言うことか?
「あいつの何処がそんなにいいんだ?」
「顔です!」
サキは即答した。
「いや、顔なら私と、、、」
「全然違います!」
な、何だ?胸がチクっとした。
サキは泣き止まないし、瓜二つの私の顔は違うと言うし、どうしろと言うのだ!
途方に暮れて、窓の外へ視線を向けたその瞬間、宙から白い毛玉が降って来た。
「ピピ殿!!」
そして、私の背後からも声がした。
「よう!聖人カルロ」
マーカスは不敵な笑みを浮かべて、そこへ立っていた。
「ぎゃあーー!!マーカス殿下!!」
一瞬前まで泣いていたサキが、黄色い声を上げた。
「ご結婚、おめでとうございます!!」
唐突に祝いの言葉を受けて、流石のマーカスも驚いている。
「ああ、ありがとう」
マーカスが笑顔でお礼を言うと、サキはキャーキャー騒ぎながら、手を振って部屋を出て行った。
一体、何だったのだ。
最後はお祝いまで言って。
ああ、疲れる。
「カルロ、あの子がサキちゃん?」
「ああ、そうだ。丁度、お前がベル殿と結婚するのが悲しいと泣いてたのだ。だが、お前に会うなり、祝いの言葉を言うとは、一体どう言う事なのだろうか?女心、私には難問過ぎる」
私の嘆きにマーカスが、何とも言えない表情をする。
「それで、ピピ殿と一緒に現れるとは一体どう言うことだ?」
私の疑問にマーカスは、ここ数日の出来事を話してくれた。
「と言うわけで、マクス殿とキャロル殿は、昨日からノード王国へ行っている。その間は、オレとソベルナ王国の大魔法使いで取り調べをして良いと許可は貰っている。お前も来るか?ナスタも居るぞ。牢の中だけどな、ハハハ」
「あーぁ、ナスタは何と愚かな、、、。まぁ、私も似た様なモノだがな。ランディ・ボルドーが居るのなら、是非参加したいが、ピピ殿は大丈夫なのか?」
「ええっと、ミーは一人ずつ送り迎えします」
愛らしい巻き毛の白うさぎは首を傾げる。
「お手数を掛けるが、よろしく頼む」
「ピピ殿、どっちから運ぶか決めてくれ」
マーカスは、ピピ殿に尋ねた。
私はその隙に、扉の外にいるサマンサへ、しばらく留守する旨を伝えた。
「カルロ殿下からの方が、面白いかも知れません」
フフフと、ピピ殿は可愛く笑った。
「そりゃいい。オレは後でいいから、ピピ宜しくな!」
「はい!では、カルロ殿下からお送りします」
「準備は出来ている。いつでも良いぞ」
私はピピ殿の前に立った。
ふわっと浮遊感を感じたと思えば、目の前に鉄格子があった。
「あーん、マーカスちゃ、、、?あれ!?」
私は声のする方へ振り返った。
そこには、女神が居た。
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