67 建前と本音
楽しい物語になるよう心がけています。
誤字脱字等のご連絡は感謝いたします。
おれは、マルコに集めてもらった情報を元に考えていたことを話した。
ノード王国は建国五百年ほどの新興国だ。
ここは、元々ソベルナ王国の一部だった。
五百年ほど前、ソベルナ王国側と独立を目指すシドラ領の者たちで、闘争があったと歴史には記されている。
その後、問題が起きれば互いに納得するまで話し合うという姿勢を貫いた結果、今日ノード王国は一番信頼の置ける友好国となった。
また、ノード王国は『来るもの拒まず去るもの追わず』の気質がある。
それ故、出入国の敷居が諸外国に比べて低い。
他国より騎士道を重んじており、清廉潔白を良しとする。
悪く言えば、策略や陰謀の悪知恵は今ひとつ。
時々、対岸にあるパルカラス帝国が、海からちょっかいを掛けて来るが、しばらくすれば、互いに何事もなかったかの様にしている。
懐が深いのか、はたまた楽天的なだけなのか、ノード王国を理解するのは難しい。
一方、西の端にあるバッシュ帝国は、入国が困難な国として有名だ。
父上も一度親善訪問した事があるだけだと言う。
かの国は、ノード王国とは対極にある国と考えて良いだろう。
話を戻すと、ノード王国にランディ・ボルドーは傭兵を育成する孤児院を持っていた。
養成なのだから、当然、教える人員が必要になる。
"メルク領の転移ポイントを活用すれば、本拠地のブカスト王国まで行ける"
これは、また逆も然り。
ブカスト王国から、砂漠の薔薇の関係者を簡単に連れて来る事が出来るということだ。
そして、先日ランディ・ボルドーの話に出てきた魔石を持ち込めば、此処でも普通に魔法使いの修行は出来る。
今は一先ず、協力を取り付けた。
帰ったら、サンディーに頼もう。
素直に聞いてくれると良いが、、、。
昨夜の晩餐会は、とても美味しいご馳走様に、舌鼓を打った。
今日は、トッシュ少年の希望を叶えるという国王陛下の一声で、私たちは朝五時に起こされ、港街レグルスへ馬車で向かっている。
目的地までは、片道一時間半程だと聞いた。
車窓からの眺めは、王都シドラのある高台から海に向かって、ひたすら下っていくので、とても良い。
遠目に海がキラキラと輝いている。
「キャロル、寝ていてもいいぞ」
隣に座っているマクスが言う。
トッシュ少年は、レード様と国王陛下の馬車に元気良く乗り込んだので、この馬車の中は私とマクスだけだ。
「うーん、この車窓を見逃したくないから、起きていようかな」
「確かに綺麗な景色だ」
私の言葉を聞いて、マクスも車窓を眺める。
「ソベルナ王国は川と森に囲まれて静かな美しさがあるけれど、ノード王国の海や太古の森は迫力があって、また違った良さがあると思ったわ」
私は、しみじみと語る。
「海はローデン伯爵領にもあるだろう?」
「実は行った事が無いのよ」
ローデン領は、お母様の故郷だ。
「祖父母の住む領都メレルには行った事があるのだけど、東の海にはいったことが無くて」
「そうか、エルフの森は?」
「それも行った事が無いわ」
というか、エルフの森と言う話をマクスから聞くまでその存在も知らなかった。
単に、お母様がそういう話に疎くて、話題に出なかったという可能性も高い。
「本当はノード王国の後、続けてローデン領を訪ねるつもりだった。ところが、時間的に難しいから辞めてくれと事務官から横槍が入った。キャロル、王国民へのお披露目パレードが終わったら行こう」
「ええ、ついでに私の祖父母のところへも寄っていい?」
「ああ、勿論。おれも会いたい」
マクスが祖父母のところへ、一緒に行ってくれるとは思ってなかった。
一番の目的は『エルフの森』の転移ポイントを確認することなのだろうけど、嬉しい。
私はウキウキした気持ちで、再び車窓の外を眺めた。
「昨夜の食事は美味しかったな」
マクスが、話し掛けて来た。
「ええ、感動したわ」
互いに昨晩のメニューを思い出しながら、頷き合う。
ふと、聞こうと思っていた事を思い出した。
「一つ聞いても良い?」
「何だ?心配事か!?」
マクスが、私の顔を覗き込む。
「そうじゃなくて、この国の隠れ魔法使いを炙り出すという話。私が今すれば、わざわざサンディーを呼ばなくてもいいのになぁーと、思ったのよ」
「キャロル、ソベルナ王国は今後、王太子妃の仕事以外は君に依頼しない。サンディーは大魔法使いとして復活したのだから、しっかり働いて貰う」
「え、何で!私は魔法使いとしてはお役御免なの?」
「違う。今回の様な緊急時は頼む事もある。だけど、キャロルは王太子妃の仕事に先ず慣れて欲しい」
マクスは、丁寧に私へ説明するフリをしている。
それくらい私にも分かる。
「それで、本音は何なの?」
先日、一人でウジウジ悩むのは時間の無駄だと分かった。
ここはストレートに聞くのが一番だ。
「戒めだ。『何でも叶うのは宜しくない』と、サンディーから苦言を受けた。父上とも相談して、キャロルの魔法の力を借りるのは最小限にすると決めた」
「『何でも叶うのは宜しくない』か、、、。確かに真理を突いているかも」
「ああ、過去にサンディーとルーシィーは、それで失敗しただろう」
マクスの表情は真剣モードだ。
これは素直に聞いておいた方がいい。
「魔塔で聞いた話は、私も戒めとして受け取っておくわ」
「ああ、それだけの力を秘めているという自覚を持つことが大切だ。キャロル、悩んだ時は遠慮なく、おれに相談してくれ」
「うん、そうする」
「良い子だ!」
マクスはそう言うと私の頭をグルグル撫でた。
「私は犬じゃないー!もぉ!髪がぐちゃぐちゃになるぅー!!」
私が両手で、マクスの腕を叩いて抵抗すると、両手首を掴まれた。
「捕獲」
私の両手を、私の頭の上まで引っ張り壁に押し付ける。
「もう!マクスさいあ、、、」
獲物を狙う様な目で私を見たかと思えば、勢い良く、私の唇にキスをする。
ただ、思ったよりも、優しく唇を重ね合わせるだけのキスで、逆にドキッとした。
唇が離れて、瞼を開けると、まつ毛が触れそうな距離にマクスが居る。
「何だか、このシチュエーションは危険だな、、、」
マクスはボソボソと何かを言った。
「え?何」
「いや、何でも無い。髪は直してやるから心配しなくていい」
私は、ジト目で、ジィーっとマクスを見る。
「な、何だ?」
「マクス、髪が直せるのって、ある意味、危険だわ」
「ある意味、、、」
フッと、マクスが笑う。
「じゃあ、遠慮なく」
美しい車窓を眺めるハズが、互いを見つめ合う時間になったとか、ならなかったとか、、、。
それは、二人しか知らない。
最後まで読んで下さりありがとうございます。
面白いと思ったら評価、感想のほど、どうぞよろしくお願いいたします。