66 大魔女を派遣
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「では、次は皆に王妃を紹介しよう。私の妻でレナードの母でもある王妃メグだ」
「初めまして、王妃のメグです。皆さま、ようこそノード王国へ、小さな国ですが、お料理には自信があります。晩餐をどうぞ楽しんで下さい」
アレン陛下の横で、静かに佇んでいる王妃さまは、レード様と顔が似ていて、知的そうな方だった。
背筋の伸びた姿勢一つを見ても、思慮深い雰囲気を醸し出している。
乾杯の音頭をアレン陛下が取り、晩餐のメニューが運ばれてくる。
ノード王国らしく、お魚満載のコースだった。
前菜は、白身魚のムースに木の芽のソース掛けと、いかの塩漬け、魚の卵を煮たもの。
スープはキノコのクリームスープ。
一つ目のお皿は、サトイモという珍しいお芋とタコのピリ辛ガーリック風味の煮物。
二つ目のお皿は、大きなエビのフライと根菜のフライに、具がゴロゴロと入ったタルタルソースが添えてあった。
主食はパエリアという魚介と、そのスープ出汁で炊いた香ばしいお米。
デザートは栗のモンブランとグリーンティーだった。
終始、軽やかな雑談か交わされ、私たちの緊張感も食事が終わる頃には、すっかり和らいだ。
「デザートを食べながらで構わない。そろそろ、今回の事件に関する話を始めよう」
アレン陛下が、皆に語り掛ける。
「わたくしは退席いたしましょうか?」
王妃のメグ様が、アレン陛下に聞く。
「いや、君も共有した方が良いだろう。ここに居てくれ」
アレン陛下の言葉に、メグ様が頷いた頃合いで、マクスは口を開いた。
「レード殿、国王陛下にはどこまでお話を?」
「私がソベルナ王国で首謀者と見られる男の取り調べに参加しますという話までしました。ランディ・ボルド―の証言については、まだ話していません」
「分かった。では、主犯ランディ・ボルド―の証言をお伝えする」
マクスは、取り調べでランディ・ボルド―が話したことを、分かり易く解説も添えて、国王夫妻へ伝えた。
内容が余りにひどいので、私はトッシュ少年に聞かせて良いものかと不安になった。
途中、横に座るトッシュ少年に「聞きたくなければ聞かなくても、マーカス殿下が知っているので大丈夫ですよ」と話し掛け、数回ほど確認したのだけど、「僕は知りたいので聞きます」と彼は言った。
マクスが全て話し終えた時、王妃様は涙を流されていた。
彼女曰く、「子供たちが可哀そうだ」と。
ソベルナ王国から嫁いできたロレンスは、ランディ・ボルド―にとって都合の良い愛人だった。
勿論、子供たちは兄弟の一人がランディー・ボルドーの子であるという事実を知らない。
普通に考えても、自分たちは全員、父である王弟ロビン様の子供であると信じて疑わないだろう。
その子たちに真実をどう伝えるべきなのか、そこは辛くとも、ノード王国で話し合ってもらうしかない。
「国王陛下、父は王弟妃ロレンスの処分をノード王国の好きにしてもらって構わないと言っています。この件で、ソベルナ王国がノード王国の決定に横やりを入れることはありません」
「カエサル国王陛下は、実妹でも助けないということですね」
レード様がマクスへ確認する。
「はい、その通りです」
「マクス殿、王弟妃ロレンスの件は承知した。どの様な処罰を与えるのかは、我が国でしっかり検討する。それから、ソベルナ王国とブカスト王国が友好関係を結ぶという話は大変喜ばしい。隣人同士のむやみな戦争など最も要らないものだ」
アレン陛下が語尾を強めた。
「ええ、おれもそう思います。それと今後、ご協力をお願いしたい件があるのですが」
「何だね?」
「ここノード王国の大地に、マナが皆無だとは言うまでもなくご存じだと思いますが、この地に魔法使いが居ないと考えるのは、楽観的過ぎです。おれは、結構な数の魔法使いが、ノード王国に隠れていると睨んでいます」
「な、なんと?しかし、ここへ住んでも不便極まりないと思うが、本当に住んでいるのだろうか?」
「はい、それも結構悪いことをしそうな魔法使いが、住んでいるのではないかと、、、。隠れ蓑に最適なんですよ、ここの環境」
「隠れ蓑!?」
アレン陛下の表情が、徐々に悪くなっていく。
「ここはソベルナ王国のメルク領まで非常に近いです。両国は友好国ですので、関所もありません。メルク領には、かなり昔から使われている転移ポイントがあり、ひとっ飛びで、ブカスト王国の王都付近へ行けます。またノード王国内にマナがなくとも、魔法使いは体内に蓄えた魔力で魔法を発動できます。単に回復が遅いと言うだけです」
「あ、あなた、これは不味いのではないかしら」
さっきまで泣いていた王妃様が、アレン陛下の腕を引っ張る。
アレン陛下は、王妃様から強めの危機感を投げ掛けられ、考え込む。
「マクス殿、私たちはマナがないということに、安心し過ぎていたということですね。協力をという事でしたが、具体的には?」
代わりにレード様が、マクスへ質問した。
「おれも魔法使いを各所へ騎士団の様に配備したいのは山々なのですが、現在のソベルナ王国には、王族の一部と妻のキャロル、そして大魔法使いのサンディーしか魔法が使える者がいませんので難しいです。そこで、我が国の大魔法使いサンディーを、こちらへ派遣して、隠れ魔法使いのあぶり出しをしても良いでしょうか?そして、これを機にノード王国で、今後は魔法使いの管理・登録をするようにして欲しいのです」
「魔法使いの登録か、それはいい考えだ。勿論、全面的に協力しよう。定期的に確認に来て貰えると助かる」
アレン陛下は、快諾した。
何故マクスはその仕事を私に投げかけないのだろうか?と、少し気になったけれど、その場では黙っておいた。
「この取り組みは、ブカスト王国にも提案するつもりです。それと、おれは魔法使いと一般国民が共存していける方法も探っています。現在、ブカスト王国に多くの魔法使いが住んでいますが、この殆どはソベルナ王国からの移民です。過去にソベルナ王国の王が魔法使いを国から排除する様な政策をしたからです。その結果、長い月日が経ち、ブカスト王国では、自分が魔法使いと知らずに生活している者が多いとの事。そういう人々に魔法の正しい使い方とモラルを教えるような仕組みを作りたい。同時に魔法使いではない人々には、魔法使いを恐れる必要は無いと教えます。また、ソベルナ王国に帰りたいと望むなら、それも受け入れたい。過去の失敗を今反省し、未来に繋げたいと考えています」
アレン陛下は顎鬚を撫でながら、マクスの話を聞いている。
マクスの思考はもう未来に向いているようだ。
「それはいい取り組みですね。私も協力させてください」
レード様が、マクスへ協力を約束してくれた。
「わたしも、マクス殿の提案は新しい考え方でいいと思う。だが、まずは我が国に潜んでいる者たちの取り扱いからだな。レナード」
アレン陛下は苦笑いをしながら、レード様へ苦言を呈す。
「ようやく、三国が話を出来るようになりました。おれはこの機会を未来へ活かしたい。今後とも、どうぞよろしく!」
マクスの決意を私も応援したい。
そして、一番近くで一緒に実現していきたいと胸に誓った。
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