64 複雑な心中
楽しい物語になるよう心がけています。
誤字脱字等のご連絡は感謝いたします。
何が起きたのか!?
一瞬、おれは何もかもが分からなくなった。
「マクスが、私を抱かなくなった」
泣きながら、そう言ったキャロル。
これは、おれが彼女を不安にさせていたと言う事か。
まさか、キャロルが、そんな風に思っているなんて考えてもなかった。
胸が痛い。
「キャロル、泣かないでくれ」
手を伸ばし、彼女の涙を拭う。
おれも泣きたい。
情け無いけど、、、。
上手く言葉が出てこない。
両腕で包み込み、キャロルをギュッと抱き締める。
「心配させてごめん」
おれが謝ると、キャロルは激しく泣き出した。
あー、どうしよう。
本当に、おれも泣きたい。
無理に泣くのを辞めさせるのは、何か違う気がして、ずっと背中を撫でながら、落ち着くのを待った。
ひとしきり泣いて、漸く落ち着いて来たキャロルが、おれに聞く。
「マクス、何か理由があるの?」
真っ赤になった目で、おれを見つめている。
理由と聞かれて、おれは本当の理由を言うべきか悩む。
ただ単に疲れていそうだったからと、その場しのぎをしても、勘のいいキャロルは、さらに不信感を抱くかもしれない。
おれが思考を巡らしていると、キャロルはおれの袖を引っ張る。
「何でも聞くから、理由があるなら話して」
あまりに、か細い声で言うから、もう何とも言えない気持ちになった。
おれは、キャロルの前に立ち、彼女の両頬を両手で包み込む。
「キャロル、不安にさせてしまってごめん。だけど、結婚を取り辞めるとか、そういうことは絶対ない。おれは、キャロルを心から愛している」
目を合わせて、丁寧に言葉を紡ぐ。
「愛しているなら、触れて欲しい」
その言葉は、おれの心臓をギュッと鷲掴みにする。
おれは、やはり理由を言って、キャロルにも協力してもらった方が良いかもしれないという気持ちになった。
「キャロル、おれは常々予想していることを確実と分かるまでは口にしないと決めている。今から話すことは不確かな内容だ。それでも聞いてくれるか?」
「それは、今の私の疑問と関係があるの?」
「ああ、そうだ」
「聞きたい。少し怖いけれど」
キャロルの表情が翳る。
おれは彼女の手を引いて、ベッドの縁に二人で腰掛けた。
「キャロル、旧エルダー王国についての知識はあるか?」
「旧エルダー王国って、サンディーさんの話で、少し聞いたくらいしか知らない」
キャロルは首を傾げた。
「それなら、ソベルナ王国は、青年だった初代皇帝アレックスが、亡びたエルダー王国と、ブカスト王国から奪ったメズール川以東の土地を領土として建国したという話は覚えているか?」
「うん、そこまでは分かる」
「サンディーは、皇帝アレックスと旧エルダー王国の王女の子なんだ」
「え、そうなの?」
「旧エルダー王国最後の王族、王女マリーがサンディーの母親だ。彼女は、サンディーが産まれた際に命を落とした」
「皇帝アレックスは、確かサンディーしか、子供は居なかったって、、、」
「ああ、彼はマリー以外の妻を娶らなかった」
「そうなのね。それで?」
「おれはランディ・ボルドーの魔法の国を作りたいという話に、違和感を持っている」
「それは私も感じていたわ。あまりに中身がない話だもの」
「だから、キャロルを誘拐したことが、とても引っ掛かっていた。おれの王位継承権を狙ったものなのか、それとも別の理由があるのかと」
「私が選ばれたのは、カシャロ家が目障りな私を排除しようとしたということではないの?」
「いや、おれはランディ―・ボルドーは、キャロルを手に入れたかった可能性があるのではないかと考えた」
「え、気持ち悪っ」
キャロルは、身震いをした。
「ねぇ、どうしてそんな可能性に思い至ったの?」
「それは、旧エルダー王国が絡んで来る。マルコに調べてもらったところ、旧エルダー王国は、現在のローデン領、ハーデン領、リューデンハイム領と、カシャロ領の一部を領土としていた。王都はローデン領のメレルで、現在のローデン伯爵領の領都と同じだ」
「それと私達が触れ合えない事に、どこで話が繋がるの?」
キャロルの眉間に皺が寄る。
「おれはローデン伯爵家、ハーデン子爵家、リューデンハイム男爵家、そしてカシャロ家は旧エルダー王国の王族一派ではないかと疑っている」
「それは何故?」
「リューデンハイム家は、魔法使いではないものの代々ソードマスターとして、神力を必要とする神剣を使えるから少し特殊だとは思う。だが後の家門は、単純に魔法使いが多い。今回の事件も、ハーデン子爵家とカシャロ公爵家、及びその一部の領地を保有しているボルドー男爵家が、関与している。ソベルナ王国の魔法使いは、旧エルダー王国が起源と考えて、ほぼ間違いないだろう」
「うーん、そう言われるとエルダー王国復興!とか思っていそうな気もしてくるわね」
「まあ、それは間違いなく上手くいかないから、心配ない」
「じゃあ、何が問題?」
「キャロルには、濃いエルダーの血が流れている可能性が高い。とすれば、おれとキャロルの子はサンディーみたいに強い魔力を持つ子が産まれるだろう。その結果、キャロルがサンディーの母親の様に子を産んで死んだら嫌だと思った」
おれは言いたくない本心を告げた。
キャロルは何と言うのだろう。
「それは、杞憂だわ」
「杞憂?」
「子供を産んで死ぬことって、普通にあるわよ」
「いや、それにしてもリスクが高くなるなら、おれは避けたい」
「でも、私はマクスとの子が、沢山欲しいわ」
「・・・・・」
「心配なら、ハッキリするまでは、避妊すればいいじゃない」
あ、そんなことは考えもしなかった。
「そうか、、、」
「そうよ。私は話を聞いて、マクスが心配性だと言う事が、よーく分かったわ」
キャロルが、オレの腕をバンバン叩いてくる。
「最初から話せば良かったのか」
「そうよ。てっきり捨てられるかと思って、心細かったのに!!」
「聞いてくれてありがとう、キャロル」
「話してくれてありがとう!マクス」
おれはキャロルの頬に手を添えて、やさしいキスをした。
少し顔を離すと、キャロルが微笑んでいた。
でも、まだ目元は泣いていた名残で腫れている。
「キャロル、目を瞑って」
おれは、彼女の瞼の上に手を付けて、回復魔法を掛けた。
ノード王国にマナが皆無だとは言っても、おれの体内にある魔力で通常の魔法は問題なく使える。
ただ使った後の回復が悪いと言うだけだ。
これはレード殿には教えていない。
「マクス、ほんのり温かくて気持ちいいわ」
キャロルの口元が弧を描く。
愛しくて堪らない。
捨てたりするわけがない!!
疑われただけでも、ショックだ!!
おれは、手でキャロルの目を押さえたまま、彼女の唇にキスをした。
彼女が、ビクッとしたしぐさで、ドキッとした。
そして、彼女の耳元へ、彼女にしか聞こえない小さな声で囁く。
キャロルは、ゆっくりと頷いた。
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