62 太古の森
楽しい物語になるよう心がけています。
誤字脱字等のご連絡は感謝いたします。
古くからの友好国であるノード王国とソベルナ王国の間に関所は無い。
馬車で街道を走り、太古の森と言われる大きなラダ植物に囲まれたエリアを通り抜ければ、丘の上に聳える王都シドラの姿が見えて来る。
王都リールから王都シドラへ馬車で行くと三日は掛かる。
私達は、移動時間の短縮をするため、ノード王国と接しているメルク領へと転移してから、馬車に乗り換えた。
そうすれば、王都シドラへは、半日で到着出来る。
なぜ、今回は馬車を使うのかと言うと、ノード王国はブカスト王国よりも、もっとマナが少ないからだとか、、、。
レード様とマクスが言うには、皆無と言ってもいいとのこと。
それにより、転移で行くと、何か問題が起きた時に、対処が出来なくなるから、困ると言う話だった。
だが、これは表向きの理由で、馬車の方が、影を秘密裏に連れて行きやすいと言うのが本音らしい。
今回の旅は、レード様が国王陛下にご報告に戻るところへ私達も付いて来た。
そして、遊学中のブカスト王国第八王子トッシュ殿下も同行している。
彼は、ブカスト王国第二王子、もとい次期国王マーカス殿下の代理人と言う事で付いて来た。
「レード殿、こんなに大きな葉が!!」
「これはラダの葉なのですよ。ここ太古の森に生えているラダは大陸内で最も大きいのです」
トッシュ少年の質問に丁寧な解説を付けて答える、レード様。
私達は、休憩のために十五分程停車し、馬車から降りたところだ。
それにしても、この太古の森は凄い。
何が凄いのかというと、ラダやシギ、そしてカーリというお薬にもなる木が生い茂っているのだが、とにかく一つ一つの大きさがスゴイ!!
トッシュ少年が感嘆していたラダの葉は、私の身長と同じくらいの大きさがある。
シギの木は幹が太く、とてつもなく高い。
見上げると首が痛いし、先端は上過ぎて見えない。
その枝は大きな傘のように広がっていて、その姿は下に生えているラダを守っているようだ。
また、この森は遠くから眺めると、神秘的なブルーのベールを纏っているように見えることで有名だ。
なぜ、その様な事になるかと言うと、まず、カーリの木には大量の油分を霧の状態で、大気中へ放出するという特性がある。
そのカーリの霧は太陽の光を浴びると、神秘的なブルーの輝きを放つ。
結果、森全体がブルーのベールを纏って見えるというわけだ。
「美しいところね、マクス」
「ああ、今日は天気も良いから、木々の美しさが際立って見える」
マクスは横で気持ちよさそうに深呼吸を数回した。
私も真似してみる。
ふーぅ。
空気が美味しい気がする。
私達の様子を見ていたトッシュ少年も真似をして深呼吸を始めた。
良い空気をしっかり吸って、リラックスした頃、休憩時間は終わった。
太古の森を抜け一時間半ほど坂を上った。
急に視界が開け、森は終わり王都シドラが目に入る。
「森と近い場所に王都があるのですね。しかも、メルク領からとても近くて驚きました」
「キャロル殿は、初めて我がノード王国に来られたのですよね。我が国は、自然豊かな国です。南部には美しい海岸線が広がっていますし、大きな貿易港もあります。機会があれば、是非そちらもご案内しますよ」
「ありがとうございます。是非機会があれば訪れたいです」
私はマクスに目配せしながら、レード様に返事をした。
マクスもにこやかに頷いてくれた。
「レード殿、いつか釣りを教えて欲しいです」
レード様の横に座っているトッシュ少年が話す。
「トッシュ殿、いいですね。私は釣りが得意なので大歓迎ですよ。是非、ご一緒いたしましょう」
「はい!是非!!」
とても嬉しそうな笑顔で、トッシュ少年が喜ぶ。
何だか、レード様とトッシュ少年の遣り取りを聞いていると癒される。
それもこれも先日の取り調べで、私は心が疲れ果てていた。
極悪人だと思って気合を入れて臨んだ取り調べだったけど、出てきた話は想像を遥かに超えたトンデモナイ内容ばかりで、あの男はどこか頭がオカシイのではないかと本気で考えた。
女性や我が子ひいては自分以外の人間を道具としか思わないあの思想はどうすれば出来上がるのだろう。
だめだ、また悶々と考えてしまう。
癒しのトッシュ少年を眺めて過ごそう。
「キャロル、大丈夫か?顔色が悪いぞ」
隣に座ったマクスが、優しく語り掛けて来る。
「うん、少し疲れているかも」
私が、弱弱しい返事をうっかりしてしまったので、馬車の中が騒然とし出す。
「キャロル殿、あと十五分ほどで到着する。到着次第、休める部屋を用意する」と、レード様。
「キャロル殿、どこか痛いところとかはないですか?」と、私を心配そうな顔で覗き込むトッシュ少年。
「キャロル、少しでも眠った方が良い。ここに頭を置いて横に、、、」
マクスは、私に膝枕をする気だ。
そんなに具合が悪いわけでもない私は慌てて否定する。
「大丈夫、そこまで重病じゃないです!ご心配を掛けてすみません!」
「いや、疲れを感じた時は休んだ方がいい。到着したら、先に休養を取ってから、その後のスケジュールは決めよう。トッシュ殿は私と一緒にいくかい?」
レード様は、本日も紳士だった。
「はい、僕は一緒に行きます。師匠はキャロル嬢と一緒に休養してください」
「ありがとう。そうさせてもらう。レード殿、トッシュをよろしく」
「ああ、礼には及ばない」
レード様は爽やかに言った。
丘の上に聳えたつ王都シドラは高い壁に囲まれた要塞都市。
住民は、およそ五万人。
ノード王国の人口は五十万人ほどなので、十分の一がこの要塞都市で暮らしている。
マナの無いこの国には、当然魔法使いがいない。
王族の騎士団、貴族の私兵団、町村の自警団などが治安を守っている。
この大陸のなかでも、ある意味特殊な国だ。
ただ、古くからソベルナ王国と友好な国として、他国と大きな戦争をすることもなく、上手く過ごして来た国でもある。
馬車から、マクスにエスコートされて王宮のロータリーに降り立つと出迎えにきりっとした女性が立っていた。
「こんにちは!リン王女。約束通り連れて来ましたよ」
驚くほど気軽なノリで、マクスはリン王女殿下へ話しかけた。
「あら、マクス。玉砕しなくてよかったわね、ふふふ」
リン王女殿下は、キリッとした顔から急にフワフワと柔らかな笑顔になって笑う。
「失礼だな。おれは玉砕なんてしませんよ。キャロル、こちらがノード王国王女のリンおばさんだ」
「な!おばさんはヤメテ頂戴!!」
むっとした声で、リン王女殿下が言い返して来た。
「だって、母上の友達なんだから、おばさんで間違ってないだろ」
マクスが、軽口を叩く。
うーん、拗れる前に私が挨拶をしよう。
「初めまして、マクシミリアン王太子の妻、キャロラインです。よろしくお願いいたします」
「あなたが噂の想い人さんね。キャロラインさん、どうぞよろしく」
そう言うと、リン王女殿下は右手を差し出して来た。
マクスが耳元で囁く。
「握手」
ああ、そうか!!父上たちが良くしているアレね。
わたしもスッと右手を出した。
リン王女殿下は私の手をギュッと握って微笑む。
私も同じように微笑み返した。
「キャロラインさん、あの子の一体、何処がいいの?」
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