60 反省なし
楽しい物語になるよう心がけています。
誤字脱字等のご連絡は感謝いたします。
"ランディ・ボルド―は何と答えるのか?"
皆の緊張感が漂う。
おれたちの緊張感とは反して、サンディーから、真実のみを答えよと言われたこの男は、躊躇なく口を開く。
勿論、本人の意思ではない。
「私には七人の子が居る。妻のレイチェルとの間に二女二男。幼馴染のカシア王弟妃との間に一男。愛人のロレンス王弟妃との間に一男。それから、肉体関係だけしかないブカスト王国王妃ナターシャとの間に一男だ」
この男の独白により、場の空気が不穏なものとなる。
おれが想定していた遥か彼方に真実があった。
三国の王族を跨いで、愛人やら、都合の良い女やら、、、。
「おい、第一王子のナスタは、お前の子だというのか?」
最高に不機嫌な声で、マーカス殿がランディ・ボルド―へ、問い掛ける。
「そうだ」
キッパリ、ハッキリとランディ・ボルド―は断言した。
マーカス殿は、深いため息を吐く。
「周りに気付かれずに、そんなことが可能なのか?」
「私は魔法使いだ。記憶を操ることなど、容易い」
「父上を謀ったということか?」
「そうだ」
「王妃はそれが罪だと分かっていて、お前と関係を持ったというのか?」
「そうだ。最も、ナターシャは国王が自分には義務以上の接触をして来ないと不満を持っていた。私は望みを叶えてやっただけだ」
「ヤダー!!最低だわぁ!」
サンディーは大声で叫ぶと今度は持っていた紗ではなく、どこからか取り出した扇子でランディ・ボルド―の頬を殴った。
バシッ!と良い音が、牢の中に響く。
「サンディー、おれもそいつを殴りたいが、それはダメだ、、、」
おれが注意すると、サンディーは、べーっと舌を出した。
はぁっ、手に負えない。
「マクス、私、怒りが湧き過ぎたのか、吐き気がして来たわ。あの男は最低を超えた下の下よ」
キャロルが怒りに声を震わせる。
「おれも吐きそうだ。同じ男として恥ずかしいし、許せない」
おれは、怒りを必死で抑えているキャロルの背中を優しく撫でた。
「我がノード王国のロレンス王弟妃との子供とは誰です?」
黙っていたレード殿が、ゆっくりとランディ・ボルド―の前へと移動し、そして、彼を見据えてから質問した。
「マーティン王子が、私の子だ」
「何と言う事だ!あなたは私利私欲のために他人を冒涜し過ぎだ!何も知らずに生まれて来た子供たちが、自分だけ父親が違い、母親も家族を裏切っていたと知った時のことを考えると、私は胸が張り裂けそうになる。あなたは地獄へ落ちた方が良い」
悔しそうな表情で、感情を顕にし、悲痛な声で語る、レード殿。
だか、この悪人は開き直ったのか、レード殿の言葉が響いている様子は皆無だった。
「それで、あなたは、自分の手中にある女と子供たちを使って、具体的には何をしたのですか?」
ずっと黙って様子を見ていたジャンが質問をした。
「我が家門は代々『砂漠の薔薇』という諜報機関の頭をしていた。家訓に砂漠の薔薇は願いを叶える石であると書かれていたことが、昔から気になっていた。何故なら、私の知っている砂漠の薔薇とは、砂漠にある、ただの石ころだったからだ。私はまず、家門に保管されていた古い書物を調べた。だが、目ぼしい情報は全く得られなかった。次はソベルナ王国とブカスト王国の王家の文献を調べた。すると、ソベルナ王国二代目女王アレクサンドラの御代で、ブカスト王国から王配に入った第三王子が急死したという記述を見つけた。また、同じ時期にブカスト王国からマナが消えるという怪事件が発生していたということにも気が付いた。二つの事件に関連性があるのかを調べるため、ソベルナ王国の王宮侵入し、王家の森も含め、隈なく探索した。そして、王家の森にある魔塔付近は魔力が異常に強いと突き止めた」
「あららー!アタシのことを知っちゃったのねぇー」
サンディーが、紗でランディ・ボルド―の頭をピシっと叩いた。
「サンディー!とにかく手を出すな!我慢しろ!」
「あーい。まーちゃん、ごめんねー」
流石に今度は謝って来た。
しばらく、じっとしていてくれよ、サンディー!!
「それで、魔塔のまわりの魔力が強いと突き詰めて、あなたはどうしたのですか?」
今回、最年少であるにも関わらず、一番落ち着いているジャンが、質問を続ける。
「魔塔には何か秘密があるのではないかと仮説を立て、再び詳しく調べた。すると、ブカスト王国の文献に、ソベルナ王国の魔塔から魔法使い達が多く逃れて来たという記述を見つけた。どうして魔法使いが逃れて来たのかを調べれば、ソベルナ王国のチャーリー王の政策だと分かった。彼の王妃はブカスト王国の王女ナリスだ。それが縁で、ブカスト王国へ逃していたのかと考え、裏を取るつもりで、ブカスト王国の文献も確認した。だがそこで、私は思い掛けず、己のルーツを知った。私には、ソベルナ王国の王族の血が流れていると。また、魔塔の裏手から、地下へと穴を掘り、沢山の魔石が眠っているという事実もこの目で確認した。莫大な力を手に入れた私は、長年の夢である魔法の国を作る為、大陸の国々を統一する事にした」
「そして、魔法の国を作ろうと思ってからは、何をしたのですか?」
「先ずは三国を手に入れるため、王族に嫁いだ幼馴染と、私に気があった王女ロレンス、王妃になりたくて仕方ないが王から寵愛を貰えない女ナターシャとの間に急いで、子を成した」
「なぜ?そんな酷いことを思いつくの!?あなたには、すでに妻が居たのでしょう?」
キャロルが、ランディ・ボルドーを強く非難する。
「私に取って、妻もとい女は子を成す道具に過ぎない。何の問題もない」
ランディ・ボルド―は、キャロルに火をつける。
キャロルは、つかつかと彼の前に歩み寄る。
「子を産むのは命がけだとご存じないようですね。道具などと言う言葉はとても失礼だわ!」
そう言うと、彼女はヤツを思いっきり蹴りそうなポーズになったので、おれは飛び掛かって止めた。
「キャロルの脚が痛くなるだろう。こいつは蹴る価値もない。辞めておくんだ」
我に返って、ハッとしている彼女を優しく抱きしめた。
「ごめんなさい」
小さな声が聞こえた。
怒りたくなる気持ちは、おれも充分理解出来る。
だからと言って、罪人を殴ったり、蹴ったりすれば、それもまた罪となる。
「いいんだ。おれだって腹が立っている」
「ああ、オレも大概ムカついている。マクス殿、ちょっと、、、」
マーカス殿は、おれに何か言い掛けた。
おれは首を傾げる。
「少しいいか?」
「ああ、何だ?」
おれに了解を取って、マーカス殿は左のブースにいる、ブカスト王国第一王子ナスタ殿に向かって話し掛けた。
「お前、話を聞いていただろう?どうなんだ、お前はこいつが父親だと知っていたのか?」
「いや、えっと、、、。母上が、、、。んー」
「何なんだ、ハッキリと言え!」
「いや、僕が出来損ないなのは、アイツのせいかもしれないって、騒いで居たことがあって、今、話を聞いて納得したと言うか、、、。僕は、マーカスやカルロみたいに賢くないし」
聞いているこちらが切なくなるような話が、出て来た。
一番、ランディー・ボルドーからの被害を被っているのは、間違いなく、ブカスト王国だろう。
「おまえ、人のせいにするなよ。オレやカルロが賢く見えるなら、ハッキリ言ってやる。オレたちはお前の何倍も努力したからだ。母親に甘やかされ、取り巻きにもチヤホヤされて生きて来た癖に分かったようなことをいうな!」
マーカス殿は慰めるのではなく、更にナスタ殿の心を抉る。
兄弟ゆえの厳しい言葉だと、おれは感じた。
だが、ナスタ殿に通じたかどうかは、分からない。
マーカス殿は、またその更に左のブースに居る男にも話し掛けた。
「おい、お前の父親は妻もとい女は道具だとか言っているぞ。いつもこんな感じなのか?」
急に質問されると思っていなかったのか、ジョージ・ボルドーの顔に焦りが出ている。
「あ、え、はい。僕たちは道具です」
マジか!?子供たちまで道具、、、。
あいつは、児童虐待の可能性もクロだな。
「幼少期から、どうやって育てられたんだ?」
マーカス殿が、斬り込む。
「ひたすら、スパイ訓練です。オレはカシャロ家のセノーラ様の影兼、ジョージ王子殿下の影でもあります。父からいつでも命を捧げられるよう覚悟を待って任務を遂行しろと言われてました」
「あんた!可哀そうだわぁー!!」
サンディーが走ってきて、手足を鎖で拘束されたジョージ・ボルドーの頭を撫でた。
「俺は可哀そうなんかじゃない!」
ジョージ・ボルドーはサンディーに反抗する。
「ああ、そうかい。認めるのは勇気がいるんだわぁ。今はそう思っておきなー!」
全く気にせず、サンディーは、彼の頭をグルグル撫で回す。
「すまぬ。脱線した。あちらへ戻ろう」
サンディーを横目に、マーカス殿は、おれに言った。
「ああ、戻ろう」
ふたつ隣のブースへ戻ると、キャロルとレード殿がランディ―・ボルドーの近くで腕を組んで、仁王立ちをし、にらみを利かしていた。
「どうした?」
「マクス殿、女性たちとのことを聞いていたのだが、、、」
「マクス、この人、相手が合意してなくても手を出したみたいよ。魔法の力で」
キャロルが、先ほどの怒りを超えて、冷静になっているのが怖い。
「婦女暴行ということか?」
「いや、強姦だ。ご丁寧に記憶を消したらしい。」
レード殿が嫌悪感満載で答えた。
「王弟妃ロレンス様とは愛人だったみたいだけど、王弟妃カシア様は、子種を注がれていたことも知らないみたいよ」
キャロルの表情が忌々しさを伝える。
「それは、ヒドイな。おれはこいつがてっきり手練手管で、女を手玉に取っているのかと思っていた」
「まだその方がマシだわ」
キャロルが冷たく言い捨てた。
「いや、ほとんど唯我独尊の極みだね。反省をしている素振りもないし」
レード殿も、呆れている。
「もはや、死罪以外の道が見えもしない有様だな」
その場に居た六人と二匹が同時に頷いた。
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