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ソベルナ王国の魔法使い(魔法使いの元男爵令嬢はハイスペ王太子を翻弄する)  作者: 風野うた
第一部 その願い100%叶います!(天使カードに軽い気持ちで魔法付与をしたら大変な事になりました)
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6 探り合い

楽しい物語になるよう心がけています。

誤字脱字等のご連絡は感謝いたします。


 夕暮れ時の執務室で、キャロルはスージー女史と書類のチェックをしている。


 しかし、キャロルは上の空・・・。先程の出来事を考えていたからである。


(カレン様はどうやってここまで来たのかしら・・・。従者も居なかったし、まさかの辻馬車!?いや~、流石にそれは無いわね。――――それに、あのワンピースは何処で手に入れたのかしら、普段のイメージとは違い過ぎて・・・、本当に驚いたわ。――――それほどまでに恋焦がれる相手って貴族?それとも平民?)


「キャロルお嬢様!」


「うわっ!」


「聞いていらっしゃいますか?」


 我に返ると目の前にスージー女史がいた。


――――キャロルはいつの間にか、頬杖までついて自分の世界に入っていたのである。


「ああ、ごめんなさい。少しボーっとしていたわ」


 慌てて背筋を正す。


「キャロルお嬢様、『恋人の丘』への出店申請が二件届きました !!」


 スージー女史の声は弾んでいた。いつも冷静な彼女にしては、とても珍しく・・・。


「業種は?」


「カフェとフラワーショップです」


 最近『恋人の丘』へ出店したいという申請が、あちらこちらから届くようになった。それは願いが叶う『天使カード』の人気が出て、『恋人の丘』へ来る観光客が増え、知名度が上がったからだ。


 領地再生プロジェクトが上手くいって嬉しいと思う反面、今後『天使カード』への魔法付与を諸事情で止めてしまったら、『恋人の丘』の人気が一気に減ってしまうのではないかという怖さもある。


「スージー女史、変な質問をしてごめんなさい。仮に『天使カード』の効果があまり感じられなくなったとしても、『恋人の丘』って、流行ると思う?」


 キャロルが慎重に言葉を選びながら尋ねると、スージー女史は口を開けたままで固まった。


「えっ?私、何か変なことを言ったかしら ???」


 狼狽えるキャロルを見て、真顔に戻ったスージー女史は口を開く。


「いえ、キャロルお嬢様が思っていたよりも夢見る乙女で驚きました。『天使カード』に効果があるなんて、最初から誰も思っていませんよ」


「え、はっ?どういうこと!?」


「恋する乙女たちはその過程を楽しんでいるのです。『天使カード』が運命を変えるとか変えないというのは二の次で、ここを訪れる方々は恋心を楽しんでおられるのですよ。だから、聖地巡礼は人気があるのです」


(なるほど『天使カード』に魔法付与をしているなんて、夢にも思っていないスージー女史の見解はそうなのね~)


「恋心を楽しむ・・・。私には難しいわね」


 キャロルは思わず本音を溢してしまう。


「キャロルお嬢様の周りにいる方々が素敵すぎるのです。いつか、片時も離れたくないと思うようなお一人が現れるといいですね」


 スージー女史は苦笑した。


(私に色恋沙汰が無いことは周知の事実なので反論も出来ないわ。まぁ、一番頼りにしている人はいるけれど、簡単には口に出せない人だから・・・)


「――――話を戻しますね。スージー女史はカフェとフラワーショップに関してはどう思いますか?」


「わたくしは二店舗とも『恋人の丘』との相性がいいと思いますので、許可してみてはいかがでしょうか?商標を使わせるかどうかは、オーナーとしっかり面談して、慎重に決めればよろしいかと・・・」


「ええ、そうね。では、出店する方の身辺調査をお願いします。安心して任せられる方だと嬉しいわ。出来れば長く愛される観光地になって欲しいもの」


「はい、承知いたしました」


 キャロルの同意を得て、スージー女史は安心したようだ。彼女はこの一年、領地再生プロジェクトにとても貢献してくれている。おかげさまで、この領地のお金の流れも少しずつ良くなって来ている。


 この先、道路整備などにもお金を掛けられるようになれば、もっと他の地域との行き来も楽になるだろう。


(――――王都まで、もう少し早く行けるようになればいいのに・・・)




♢♢♢♢♢♢♢♢



  一方、王宮の中庭では王妃主催のティーパーティーが開催されていた。今回は主賓として隣国ノード王国のリン王女殿下も招かれている。


 王女とはいっても、王妃と同年代の落ち着いている女性だ。ここに集まったハンターのようなご令嬢たちとは全く違う。


 マクスは母(王妃)だけではなく、父(国王陛下)からも命を受け、今日は仕方なく茶会に出席することになり・・・。


―――つい先日。


「マクス、形だけでも婚約者を探すフリくらいしろ」


 マクスを呼び出した国王は『もういい加減にして欲しい』と言葉だけではなく、目でも訴えてくる。


 何故なら、マクスは二十歳を迎えたというのに婚約者も決まっていないからだ。


 そのため、国内の高位貴族だけではなく、他国からもマクスの妃として迎えて欲しいと連日、釣書が送られてきている。


 いつものマクスなら『聞き流す』の一択だが、今回は堂々と言い返した。


「父上、おれはリューデンハイム男爵に書簡を送りました」


「ほう・・・、いよいよ動くのか?」


「はい、ご心配には及びません」


 マクスの返事を聞いて安心した国王は表情を緩める。これで次期王妃の件は大丈夫だと・・・。


「しかし・・・、次回のお茶会だけは出席してくれ、王妃はお前のことをいつも心配しておる」


「――――分かりました」


 マクスは渋々了承した。


――――そして今、マクスは目の前の光景を見て、後悔し始めている。


 綺麗な芝生の上に用意された数々のテーブルに座っているご令嬢たちは派手に着飾っていて、且つ、値踏みするような視線を互いに送り合っている模様・・・。


――――清楚、品格・・・、ナニソレの世界である。

 

 それに加え、マクスが誰か一人に話し掛ければ、その女性を消そうとするセノーラもいるというのだから、安易に雑談を楽しむことも出来ない。


――――というわけで、マクスは迷わず、王妃のテーブルへ向かっていく。


「ごきげんよう。リン王女殿下、母上」


 王妃とリン王女は何も言わなくても、マクスの気持ちを分かっているようだった。それは二人が含みのある笑みを浮かべて、マクスを見ていたからだ。


「ごきげんようマクシミリアン王太子殿下。わたくしのようなおばさんへ一番にご挨拶していただけるなんて、光栄ですわ」


 リン王女殿下はマクスの肩をドンッと強く叩いた。


(そうそう、この人はこういう人だ。祖国の軍事に長く携わって来た軍師。それが彼女の本当の顔。――――着飾って座っているだけの貴婦人ではない。ノード王国は海から攻め入られることの多い国だ。当然、苦しい時もあったはず・・・。でも、今まで他国の手に落ちたことは一度も無い。これがどれだけ凄いことか・・・)


 ノード王国の情勢など、余程、外交に興味のあるご令嬢以外は知らないだろう。今もリン王女の行動を見て、ご令嬢たちはヒソヒソと耳打ちをしあっている。


(嫌な感じだな。どうせ、野蛮だとかいっているんだろうな・・・)


「マクス!眉間にしわが寄っていますよ」


 王妃は笑いながら指摘した。


 マクスは指先で眉間を撫でる。


 ご令嬢たちの間から、ハァ~というため息が漏れ聞こえた。実は、大陸一の美男と言われるほど、マクスは見目麗しいのだ。それが釣書の多さの理由でもあるのだが、残念ながら本人は無自覚だった。


「フフフッ、マクシミリアン王太子殿下は相変わらずですね。そろそろ、唯一の方をわたくしにもご紹介して下さいね」


 必要以上に大きな声でリン王女殿下が意味深な発言し、会場は騒然となる。


――――だが、これはマクスにとっては有難い展開だった。


「ええ、リン王女殿下には一番にご報告させていただきますので、楽しみにしていてください」


 唯一の相手がいるとマクスが宣言したことで、会場は阿鼻叫喚となる。


(お前たちのその様・・・、全く淑女らしくないという事を指摘してやろうか?) 


 マクスは猫を被ることを止めたご令嬢たちを見て、つい意地悪なことを考えてしまう。


「では、おれは仕事に戻ります」


「あら、もう行ってしまうのね」と言いつつ、リン王女はひらひらとマクスへ手を振る。


「マクス、健闘を祈るわ!!!」


 王妃は下心があってここへ集まったご令嬢たちに追い打ちをかける。


――――王妃が応援!?


 中庭の騒ぎは一瞬で水を打ったように静かになった。


(おれの意地悪は母上譲りなのか・・・。母上、いつになく楽しそうだな・・・)


 王太子が誰か心に決めた人がいるかもしれないと広められただけでも、ここに参加した甲斐があったのかも知れない。マクスはニコッと王妃とリン王女へ微笑むと、踵を返して、どのテーブルにも寄らず、堂々と中庭を突っ切っていった。


 この時、マクスは目論見通りに話が進み、安心してしまったのである。――――結果、油断した彼はこの後、飛んでもない失敗を犯してしまうのだ。


最後まで読んで下さりありがとうございます。

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