58 誰でしょう?
楽しい物語になるよう心がけています。
誤字脱字等のご連絡は感謝いたします。
陛下の執務室に集まったのは、陛下を除くと六名。
マクスと私とジャン、そしてノード王国の第一王子レナード殿下、ブカスト王国第二王子マーカス殿下、最後に復活したての大魔法使いサンディーさん。
今回、トッシュ少年はお留守番をしてもらうことになった。
「昨日、梃ずったランディ・ボルド―の取り調べに、今日は君たち六人で行ってもらう。成果があれば嬉しいが、何よりも身の安全に気を付けて行って来て欲しい」
「父上、現場には先にピピとマックが向かっています。万全の体制で行ってきます」
「ああ、くれぐれも気をつけて」
マクスと陛下が皆に向かって注意喚起の話をしている時、横からトンッと軽く肘うちされた。
「キャロル殿、あの女性が被っているのはオレの、、、」
マーカス殿下が言いにくそうに、小声で私へ聞いてくる。
私がその女性であるサンディーさんへ目を向けると、彼女は昨日の紗を頭から被っていた。
この部屋に来たときは、確か何も被ってなかったハズ。
何がどうしたのだろう?
サンディーさんは、明らかに顔を隠している。
「マーカス殿下、すみません。あれは昨日お借りした紗ですよね。直ぐにお返しいたします」
私はサンディーさんの方へ向かって踏み出そうとした。
すると、肩を掴んで止められる。
「いや、気に入ったのならば、返却はしなくていい」
マーカス殿下は私の耳元へ囁く。
「え、それでいいのですか?」
「ああ、構わない。彼女からわざわざ取り上げなくていい」
マーカス殿下はそう言うけれど、改めて、あの紗を観察すると、とても高そうだ。
繊細な文様が織り込まれていて、金糸や銀糸もふんだんに使われている。
後で、サンディーさんにどうしたのかを聞いてみよう。
「それでも一応、サンディーさんに確認しますね。とてもいい品に見えますから、簡単に頂くわけには行きません」
マーカス殿下は横で頷いた。
「キャロル、聞いていたか?これから、全員で牢へ向かう。何かがあった時の為に、ペア分けをする。おれとレード殿、キャロルとジャン、サンディーとマーカス殿。これは転移の魔法が出来る者と出来ない者を組み合わせた。何かあれば二人で安全な場所へ転移して欲しい」
「分かりました。私はジャンと組むのね」
「マクス殿、よろしく!」
レード様がマクスへ挨拶をした。
マクスは、レード様の肩をポンポンと叩く。
「サンディー殿、宜しく頼む」
その横で、マーカス殿下も、サンディーさんへ声を掛ける。
「・・・・・・」
ん?サンディーさんが何も返事をしない。
あれだけ普段うるさい人が何も言わないなんて、具合でも悪いのかしら?
「皆さん!ちょっとすみません。サンディーさんの様子がおかしいので、少し席を外します」
私は皆にそう告げるとサンディーさんの腕を掴んで、廊下に出た。
急に私たちが執務室から飛び出して来て、警備官たちが驚く。
「どうされました?」
「あー、大丈夫です。ちょっと二人で話したいことがあって出て来ただけです」
「それでしたら、お向かいの部屋が空いておりますので、どうぞ使われてください」
警備官の一人が気を利かし、向かいの部屋へ入れてくれた。
「サンディーさん、どうしたの?具合でも悪いの?」
私が問い掛けると、彼女はゆっくり首を振った。
「急に顔を隠したのは何故?その紗はマーカス殿下の布なの、気に入ったなら返さなくていいって言って下さったけど、そうじゃないのなら他の布を用意するから、それは返却した方がいいかも」
「えええ!そうなのぉ?」
驚いた声を上げるサンディーさん。
「ええ、そう。気に入ったなら貰っておく?」
「んー、アタシはあの方と組むのは、、、」
「あー、サンディーさんも、チャラそうなのは嫌いなの?」
「チャラい?」
「軽そうな人ってことよ」
サンディーさんは首を傾げる。
「あの方、見た感じ体重は軽くないと思うよぉー」
「いや、体重じゃない、、、。んー、何て言えば伝わるのかしら」
私は顎に手を置き、少し考えた。
唐突に、サンディーさんが話し出す。
「キャロちゃん、マーカスちゃんはアタシの夫シオドロスにそっくりでねー。驚いちゃった!!」
は?冥界送りにした旦那さま!?
「それで、顔を隠したの?」
「そうそう。変なことしてごめんねー。大丈夫ぅ、もう落ち着いたー!」
サンディーさんは頭から紗を外して、私に謝った。
「落ち着いたのね。それなら良かった。紗はどうする?貰っておく?」
「使っていいなら、貰っちゃおうかなー!」
あ、いつもの調子が出て来た。
「よし、部屋へ戻ろう!」
私は再びサンディーさんの手を引いて、執務室へと戻った。
「お待たせしました」
「おかえり、キャロル、サンディー」
私が皆に一声掛けてから、部屋に入るも、マクス以外からの返事がない。
皆の視線は、私の後ろへ向かっている。
「大魔法使い殿は、そんなに美しい方だったのか!」
マーカス殿下が出した驚きの声に、レード様とジャンも頷く。
陛下は、最初から知っていたので、苦笑している。
「マーカスちゃん!これ綺麗だから貰っちゃってもいいかなぁ?」
いつもの調子で、サンディーさんが、マーカス殿下に話し掛ける。
流石の彼も『ちゃん呼び』は衝撃的だったようで固まった。
「マーカス殿、サンディーはこれが通常運転なので慣れてください」
間髪を入れず、マクスは、マーカス殿下へ説明する。
「そうなのか?」
「マーカスちゃん、仲良くしてねー!!」
サンディーさんは気にせず、マーカス殿下へ笑顔で言う。
このギャップには、皆も慣れるまで、時間が掛かりそうだ。
「ああ、サンちゃんよろしく!!」
マーカス殿下が、まさかのサンちゃん呼びで返した。
「きゃー!!マーカスちゃん、ありがとね!!」
サンディーさんが、飛んで喜んでいる。
意外と柔軟なマーカス殿下に驚いた。
「姉上、僕は何と呼ばれるのでしょう?」
コソコソと、ジャンが聞いてくる。
「さぁ、予想がつかないわ」
「あんら、キャロちゃんの弟ちゃんは、ソーちゃんよ。ソードマスターのソーね!!」
「あ、名前じゃないこともあるのですね」
ジャンが冷静に言う。
「それとレナちゃん!!背が高くて、シュッとしてあるわぁー」
「サンディー殿、どうぞ宜しく」
こんな時でも、レード様は落ち着いている。
「あーい!!みんなアタシが守ってあげるからねー。楽しく行こ!!」
その時、ジャンの背後で寂しそうな顔をしている陛下が目に入った。
陛下、陛下を忘れているわ、サンディーさん!!
私は、サンディーさんの袖を引く。
「陛下を忘れているわよ」
出来るだけ、小声で言った。
「カエちゃんはお留守番よろしくねー!!アタシたち頑張って来るわぁ!!」
そう言うと、彼女はマーカス殿下の紗を振り回しながら、小躍りを始めた。
正直、スタート前から手に負えない感が滲み出ている。
「さて、サンディーの調子も上がって来たから、出発するか。最初は、おれが全員を転移させる。サンディー大人しく付いて来いよ」
「あーい。まーちゃんに任せるぅ」
サンディーさんは、クルクルと紗を回しながら、返事をした。
「マーカス殿下、すみません。見ての通り、かなりあの紗を気に入っている様なので、、、」
私が言葉を濁すと、マーカス殿下はケラケラ笑い出す。
「遠慮なく使ってくれ」
声を震わせながら、彼は言った。
「マーカスちゃーん!!ありがとー!!」
サンディーさんが、マーカス殿下に飛び掛かる。
私はサンディーさんの奇行にヒヤッとする。
その瞬間、私たちは牢へと転移した。
昨日訪れた牢の扉の前に到着。
皆、この一瞬で気持ちを切り替えたのか、静かにマクスが開錠していくのを見守る。
二つ目の扉を開けると、ピピとマックが鉄格子の中で、スタンバイしていた。
「ピピー!!来たよぉ!!」
サンディーさんが大きな声を出したので、ピピが驚いて飛び上がる。
そして、冷静な声でサンディーさんに言った。
「ミーはお姉さんが誰か分かりません」
サンディーさんが両手で顔を覆う。
あら、結構ショックだったのかしら?
「声で当ててねー、だーれーでーしょー」
いや、心配して損したわ。
というか、今日はこんな調子で取り調べになるの???
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