57 王冠
楽しい物語になるよう心がけています。
誤字脱字等のご連絡は感謝いたします。
綺麗にベッドメイクされたシーツに飛び込む。
あー、疲れた。
今日は何とも濃ゆい一日だった。
マクスが天使の泉で、あんなに多くの人々を一瞬で転移させた時は鳥肌が立った。
私の夫はカッコいい!!
シワのないシーツの上をゴロゴロと転がる。
そこへ、ノックもせず、ドアを開けてマクスが入って来た。
「楽しそうだな、キャロル」
マクスの顔は笑っているけど、声は疲れている。
私達はサンディーを迎賓館に送って、一旦別れた。
マクスは、陛下へ報告に行って戻って来たところである。
「大丈夫!?疲れた雰囲気が溢れ出しているわよ、マクス」
「いや、流石に今日は疲れた。間違いなく、おれの人生で一番疲れた日だと思う」
「でも、カッコよかったわ。あんな事が出来るのはマクスだけよ」
「ありがとう。キャロルが褒めてくれると嬉しい」
マクスは、甘えるように抱きついて来た。
私も彼の背中に手を回す。
二人でピッタリとくっついて、程よい温もりを共有する。
「転移させる前にしていたのは瞑想?全員を転移させるって、どんな風にしたの?」
「んー、あれは瞑想じゃない。おれがしていた事は、、、。まず、全員の数を把握する。そして、一人ずつ一時間前に居たところを掴んでから、一時間分の記憶を消し去り転移させた。そうすれば騒ぎ自体が無かった事になる」
は?この方は、何を言い出すのだろう。
一人一人が一時間前に居たところ?
「一人一人遡って場所の特定をして、その間の記憶も消せるの?しかも、それをあの短時間で完了したってことよね」
「そう、出来るし、出来た。今日おれは頑張った。大いに褒めてくれ」
私は手を伸ばして、マクスの頭を優しく撫でた。
お礼にマクスは私の額にキスを落とす。
「願いを叶える系の私の魔法と、マクスの色々考えて組み上げる魔法は全然違うよね。あと、マクスと一緒にいる様になって分かったのだけど、マクスは常に沢山のことを考えて行動しているって気付いたわ」
「一様、王太子だからね、おれは」
マクスは簡単に言うけれど、毎日違う人に会って、それぞれの主張を聞くだけでも大変だと思う。
私はそれぞれの主張に左右されがちだけど、マクスはもっと大きな視野で話を受け止めているのか、動じない。
「私も、マクスみたいに思慮深くなれるかしら?」
「キャロルは、そのままで充分だよ」
そう言うとマクスは私の頬にキスをした。
「ありがとう。それとね、ルーシィーさんや、サンディーさんの話を聞けば聞くほど、魔力を持ち過ぎるのは、怖いなぁと益々思う様になったわ」
「んー、あの二人が強烈過ぎるのもあるけれど、、、。キャロル、おれに何かあっても、復讐なんかしなくて良いから。もしもの時は、キャロルをあの世で気長に待っておくよ。逆におれもキャロルが一番大切だけど、王族である以上、国を優先することもある。お互いにそこは割り切るしか無い」
マクスは静かな声で、私に語る。
「言葉で言うのは簡単だけど、復讐しないとは約束出来ない」
私は本心を伝えた。
マクスが私の両頬に手を伸ばし、私の顔を覗き込む。
「大丈夫、おれを倒せるヤツはこの世に存在しないから、キャロルが誰かを復讐するような場面は訪れない」
マクスらしい強気な発言。
「ふふっ、そうね。確かにマクスが一番強そう」
私が笑うとマクスも笑った。
「そう言えば、陛下は何か言われていた?」
「ああ、遊学の次は大魔法使いかって」
「陛下、ノード王国のレード様のことを忘れてない?」
「ああ、強烈なヤツが増えていくから、レード殿のことは忘れているかもな」
一番、人が良さそうなレード様だけに、ちょっとお気の毒。
大魔法使いとして復活したサンディさんは住む部屋が用意出来るまで、迎賓館に泊まることになった。
彼女曰く、魔塔はあくまでも別空間なので、人間的生活には向いていないらしい。
「迎賓館が賑やかになりそうね」
「ああ、サンディーが騒ぎそうだ、、、」
マクスは欠伸をした。
「疲れているでしょう?そろそろ寝ようか」
「・・・」
おお!話している途中でマクスが寝落ち!?
初めてかも知れない。
それだけ疲れていたと言う事よね。
明日、私達は改めてランディ・ボルドーの取り調べをする。
私もしっかりと眠って、明日に備えよう。
一方、その頃不夜城と呼ばれるブカスト王国の王宮では、、、。
オレと父上は疲れ果てていた。
何故かって?
ピピ殿に送って貰い、父上と第一王子の件を相談しているところへ、突然王妃が踏み込んで来た。
「陛下!第一王子が、ソベルナ王国に誘拐されたのです!!国軍をお出しください!!」
それはそれは激しく取り乱し、取り巻きを引き連れて騒ぐ騒ぐ。
王宮は騒然となり、父上とオレは呆気に取られた。
騒動を眺めながら、内密に済まそうとしてくれたソベルナ王国に申し訳ない気持ちで一杯になる。
その時、いつも温和な父上の堪忍袋の緒がブチっと切れた。
「黙れ!ナターシャ!!ナスタは誘拐されたのでは無い。ソベルナ王国の王族と民に危害を加えたのだ。非は全面的にこちらにある。ナスタは廃嫡にする。ナターシャ、お前も王妃の座から降ろす」
烈火の如く、父上は吠えた。
オレはあんなに怒った父上を見たのは初めてだった。
ギャーギャーと騒いでいた取り巻きも無言になり、重い空気に包まれる。
「ナスタがそんな事を出来るはずが有りません。誰かに騙されたのです」
無神経な王妃は空気を読まずに言い返した。
「王子が騙されたから何だと言うのだ、騙された時点で王子失格だ。おい、ナターシャを連れて行け!」
父上は衛兵に命令する。
そして、そこに居合わせた王妃の取り巻きにも釘を刺した。
「この件は他言無用だ。ソベルナ王国のご厚意で表沙汰にしない。分かったな」
父上の怒気を浴び、目が泳がせながら、取り巻き連中は逃げる様に去って行った。
「マーカス、早く王妃を決めよ。わしは責任を取って退位する。このままではソベルナ王国に何と詫びて良いのやら、、、。ようやく両国で歩み寄れるチャンスがやって来たのだ。ナスタのせいで台無しにしたくは無い」
「父上、ソベルナ王国の国王、王太子は器の大きな方です。退位まで求めはしないと思いますが、父上が退くのなら、オレも即位する覚悟は出来ています。王妃はベルでお願いします」
「分かった。ソベルナ王国へお詫びと共に、わしの退位を伝えてくれ。くれぐれも未来のために良き隣国として歩んで行きたいとも」
「はい、ナスタはどうしますか?」
「好きにしてもらって構わないと伝えてくれ」
「では、近々また報告に上がります」
「ああ、宜しく頼む」
オレは、ナスタがやらかしたせいで、予想よりも早く王冠を被ることになった。
カルロにも伝えなければ、、、。
ああ、ベルに話もせずに勝手に決めてしまった。
怒るだろうなぁ、、、。
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