56 ギャップ
楽しい物語になるよう心がけています。
誤字脱字等のご連絡は感謝いたします。
白猫サンディーは、オレの顔をジーっと見る。
「まーちゃん、お手伝いをしたいのは山々なんだけどねー、アタシはここから出られないのよぉ。助言だけじゃダメかい?」
「んー、どうして、ここから出られない?」
「ここは、外の世界と違う空間なんだよぅ。アタシは死んでいるからね、外に出たら成仏しちゃうんだわ」
成仏か、、、。
それは、困るな。
「あのー、私の意見を聞いてもらっても?」
キャロルが遠慮がちに割り込んで来る。
「あんら!キャロちゃん!!何々?何でも言ってごらんー!」
サンディーの言い回しが、無駄にウザい。
「ええっと、サンディーさんは、ヘリオス王子を生き返らせたと言われていましたけど、ご自身を生き返らせることは出来ないのでしょうか?」
「・・・・・・」
白猫が置物のように固まる。
キャロルが大胆なことを言い出すから、おれもドキッとした。
生き返らせるって、禁忌中の禁忌だろう。
「キャロル、それは流石にマズ、、、」
「むむむ!!!キャロちゃん!アタシは目から鱗、灯台下暗し!!」
白猫サンディーは意味不明なことを叫んで、ソファーの上から飛び降り、床を駆け回った。
「サンディー、奇行が過ぎるだろ、、、」
走り回るサンディーを目で追いながら、呆れ果てる。
何だか、どっと疲れが出て来た。
そう言えばおれ、今朝、魔力を大量消費したんだった。
あの時の疲労感と言ったら、半端なかった。
半ば気合いで乗り切って、皆を連れて戻って来た。
ところが、王宮の中庭に付くと、急に疲労感が消えたんだよなぁ。
あの時は、特に気に留めて無かったけど、改めて考えるとおかしな話だ。
あれはもしや、地中に眠る魔石の効果?
王宮と王宮の森は、繋がっている。
その可能性は充分ある!
「サンディー!!戻って来てくれないか?」
走り回る白猫に呼び掛ける。
白猫は、おれの声を聞くと、動きをピタッと止めた。
そして、こちらを振り返る。
「まーちゃん、ごめん!ちょっと本能に負けちゃった」
トボトボと歩いて戻って来た白猫は、ピョンとソファーへ飛び乗った。
「ええっと、何の話だったー?」
サンディーはあからさまに忘れたフリをする。
しかし、それを完全に無視して、キャロルは先ほどの話をご丁寧に繰り返した。
「サンディーさん、生き返ってみるのはどうでしょう?」
「・・・・・・」
「おい、走り出すなよ・・・」
おれはボソッと呟く。
サンディーは、オレを見る。
「まーちゃん、聞こえているからね!!」
「出来ますか?」
キャロルが、サンディーに詰め寄る。
「・・・・。あーもう!!二人で追い詰めて来るなんてぇー、怖いわぁ」
「サンディー、出来るんだろう?この魔塔の地下にある魔石の力を使えばいい。というか、魔石は悪い奴らが使う前に一層の事、使い果たせばいいんじゃないか?」
「まーちゃん、キャロちゃん。出来るか出来ないかというなら、出来るわよぉ。でも、アタシが生き返って、どうするのぉ?」
「そりゃあ、大魔女として活躍してもらうに決まっている」
おれの横で、キャロルも頷く。
「それとさ、ここの地下にある魔石の魔力なんだけど、漏れていないか?おれ今日は魔力を沢山使って、ヨレヨレだったんだけど、そのあと王宮の中庭に帰って来たら、急に元気になったんだよ」
「ありゃー!!やっぱり封印が弱まっているのかもしれないねぇ」
「ああ、そこから嗅ぎつけられた可能性は高い」
「マクス、前にルーシーさんたちとお話した時、ロレンス様が十年くらい前に魔塔へ来たって言ってなかった?」
キャロルが言う。
「ああ、言っていた。その時、ロレンス叔母は魔塔に入れなかったと言う話も覚えている。ロレンス叔母は今回の陰謀にも絡んでいる。その時、何かに気付いた可能性もあるだろう」
「アタシが仮に生き返るとして、地下にある魔力を使っても、まだまだマナは沢山あるよぉ。悪事に使われる前に使い切ってしまうという案は悪くないかもしれないねぇ」
「私もサンディーさんの考えに同意します。ブカスト王国に移り住んだソベルナ王国出身の魔法使いは、代替わりを重ねて、自分が魔法使いであることを知らない方も多いそうです。なので今、単純にマナをブカスト王国の大地へ戻せば、不慮の事故が多く発生しそうな気がします。ですから、沢山あるマナは何か人々の役に立つ事に使った方が良いと思います」
キャロルの話を聞いて、サンディーが口を開く。
「魔法使いの移住って、ルーちゃん達の頃のお話だわねぇー。そう言えば、アタシはソベルナ王国の現在の状況を知らないのよぉ」
「今、この国で魔法を使えるのは王族だけだ。国は魔法を使うことを禁じている。王族も有事しか魔法は使わない。現在、国内で王族以外の魔法使いはキャロルだけだ。まぁ隠れている魔法使いが居ないとは言えないけどな」
「そりゃまた大変なことになっているんだねぇ。そんな状況で、アタシが魔法を使っていいのかい?」
「サンディーには大魔法使いという称号を与え、魔法を許可してもらえるように陛下へ話を通す。その代わりと言っては何だが、悪を成敗する手伝いをして欲しい」
「まーちゃん、ありがとう。それと一つ覚えておいてねー。アタシは年相応の寿命が来れば、今度は確実に死ぬからねー。二度と生き返ることはないよぉ。だから、アタシは命が尽きる前に責任を持って、魔石の件はキレイに片づけて死にたいわぁ。それでいいかい?」
「ああ、それでいい。おれは生き返ったサンディーが間違った道に進まないよう、見張っておくよ」
「私も見守りますね」
キャロルは笑顔で言った。
「ああ、まさかもう一度、現世に戻るとはねー。人生は分からないねー」
感慨深そうな言葉を吐く、サンディー。
儀式はどのようなものなのかも、彼女に聞かないといけない。
「サンディー、どうや、、、」
おれが言いかけたところで、ソファーに座っていた白猫が宙に浮き上がる。
「え!?」
急にミイラに戻ると、キャロルがまた倒れるんじゃないか?
「サンディー?」
おれの呼びかけに白猫は全く反応しない。
かと思えば、猫の周りに白い靄がかかり始める。
そして、その靄はどんどん大きくなり、猫よりもかなり大きな塊となった。
「マクス、まさか今じゃないわよね?」
「いや、サンディーだから、何があってもおか、、、」
おれがキャロルの方を向いて話している途中で、それは起こった。
「キャー!!ダメ、マクス!そのまま顔を動かさないで!」
突然、目の前のキャロルに動くなと言われた。
キャロルは、ひじ掛けに畳んでおいていたマーカス殿の紗を持って立ち上がった。
おれは言われた通り、固まって待つ。
向かいのソファーへ、キャロルは歩み寄り何かをしている。
「マクス、もういいわよ」
おれが、キャロルの方に向くと、長い銀髪の若い女が横たわっていた。
「まさか、サンディーなのか?」
「多分そうだと思う。服を着ていなかったから、布を掛けたのよ」
「目覚めるまで待つべきか?」
おれはキャロルに聞く。
「起こしてみるわ」
キャロルはサンディーの額に手を置いた。
ん?足が動いた。
「上手くいったと思う」
キャロルは、サンディーの頬を撫でた。
サンディーの長い銀色のまつ毛が、小刻みに震える。
ゆっくりと瞼が開いて行く。
おれもキャロルの横に行って、サンディーを覗き込む。
潤んだ紫色の瞳と目が合った。
サンディーが大きな声で叫ぶ。
「まーちゃん!キャロちゃん!!」
見た目と、しゃべりのギャップに耐えられなくなったおれとキャロルは、思いっきり吹き出した。
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