55 冥界送り
楽しい物語になるよう心がけています。
誤字脱字等のご連絡は感謝いたします。
おれの勢いに驚いたのか、サンディーが後退る
「まーちゃん、何を聞きたいのか知らないけどぉ、言えないこともあるからねー」
「ああ、それでも構わない。早速だけど、この魔塔の地下ってどうやって行くんだ?此処からは繋がって無さそうだけど」
「地下?何でそんな話になったんだい」
「いや、当代のワルが、ここの地下にアジトを作ったって言うからさ」
サンディーは額に手のひらを当てて、首を捻る。
「どうした?」
「いやー、困ったねぇ。どこからか地下に行けるんだね。まーちゃんは知っているだろうけど、アタシはここに封印されているんだよ。外には出られないんだ」
「と言う事は、地下に行く方法は分からない?」
「どうやって行ったんだろうねーというのが、感想だね」
「ふうん、それなら次の質問。魔塔の地下には何かあるのか?」
「ああ、あるよ。それがあるからアタシがここにいるんだ。どうしたものかねぇー。マズいねー」
サンディーは、首を左右に振りながら、悩み出す。
「それは、サンディーが昔やらかしたこと関係?」
「そうだね。大いにやらかしちゃったからねぇー」
「それで、アレクサンドリア女王陛下は何をして、こんな事に?」
おれは昨日の夕刻にマルコから、サンディーに関する報告書を受け取っていた。
サンディーの正体はソベルナ王国二代目の女王アレクサンドリア。
彼女の王配はブカスト王国第三王子シオドロス。
子供はヘリオス王子とクレア王女のふたり。
第三代目のヘリオス王は、ソベルナ王国にルド歴を取り入れた賢王として、有名だ。
さて、サンディーは、おれに嘘偽りない話を聞かせてくれるのだろうか?
「まーちゃん、情報が早いねぇ。ところで、今もルド歴は使われているのかい?」
「ああ、使われている。今はルド3859年だよ」
「は!?3859年!!!そんなに時が過ぎたのかい!!」
おれは頷いた。
サンディーはショックを受けたようだ。
「あなたの子供、ヘリオス王は今でも賢王として有名です。彼はソベルナ王国史にもしっかり功績が残されている。しかし、あなたに関するものは皆無でした。サンディー、何故ここに魔塔を建てたのかを教えて欲しい」
おれが、急に落ち着いた声で話し始めたのを受けて、目の前のサンディーも挙動不審な動きを辞めた。
「こんな日が来ないで欲しかったんだけどね。魔塔の地下を掘られたら困るのよぉ。どうしようかー。まーちゃん、アタシの秘密聞いちゃう?」
「うーん、出来れば、キャロルと聞きたいんだけど」
おれは視線を腕に抱えたキャロルに落とす。
「思い切って姿、変えちゃおうかねぇ?」
「それなら、怖くないやつで、、、」
おれがサンディーと話していると、キュッと袖を引かれた。
「あれ?キャロル、目が覚めた?」
「う、ううん、さっきから話は聞こえていたの、だけど怖いから黙っていただけ。私は目を閉じておくから、そのままお話しを続けて」
「あんら、キャロちゃんに怖くないって言われる格好にしようと思ったんだけどねぇ」
サンディーは少し寂しそうな表情になった。
「んー、お化けは本当に無理なので、動物の姿とかは出来ませんか?例えば猫とか」
キャロルは目を閉じたままで、サンディーに話しかける。
おれはこの状態でも構わないと思うのだけど。
「あ!にゃんこね。キャロちゃんは、にゃんこなら怖くないのねー!」
サンディーは、指をパチンと鳴らして、真っ白な猫になった。
これなら、キャロルも怯えないだろう。
「キャロル、サンディーが白猫になった」
おれが伝えると、彼女はゆっくりと瞼を開けた。
赤みのある綺麗な茶色の瞳がおれを見つめる。
おれは、そっとキャロルを下ろした。
キャロルは、横にいるサンディーの方へ視線を動かした。
「あ、猫ちゃん!!これなら大丈夫です。サンディーさんありがとう」
キャロルは、手を伸ばして、白猫の背中を撫でた。
「キャロちゃん、始めまして、アタシはサンディーよぉ。仲良くしてねー」
白猫になっても、中身はそのままだった。
「はい、キャロラインです。よろしくお願いします」
話を聞くため、私達は場所を二階に移した。
前にルーシィ―達と話をした部屋である。
だけど、今日二人の姿は無かった。
怖くなるから、あまり深く考えないでおく。
私とマクスは並んで座り、白猫のサンディーさんは向かいのソファーの真ん中にちょこんと乗った。
「さて、アタシの話をするわよぉ。ソベルナ王国を作ったのは私の父、、、なんて話から始めたら終わらなくなるわぁ。というわけで、アタシの結婚の話からにしちゃおう」
明るい口調で、サンディーさんは話し始めた。
大陸の東の端にあったエルダー王国が滅んだことにより、初代皇帝アレックスはブカスト王国との戦闘によって得たメズール川の東側の土地と、旧エルダー王国の土地を、国土するソベルナ王国を建国した。
初代皇帝アレックス唯一の子、王女アレクサンドリアは生まれた時から将来王位に就くことが約束されていた。
隣国ブカスト王国は第三王子をアレクサンドラ王女の婚約者として差し出した。
幼少期から、ソベルナ王国に送られた第三王子シオドロスとアレクサンドラは、ともに学び、ともに遊び、時には喧嘩もする良き友として成長する。
そして、アレクサンドラ王女が十六歳の成人を迎えると同時に二人は結婚した。
「最初はさぁー、仲良く楽しい家族でね。ヘリオスもクレアも可愛いし、夫のシオも父の仕事を良く手伝っていてくれたんだわ」
「そうなのですね」
私は相槌を打つ。
「ところがさぁ、父が崩御すると事態が急に変わるワケよ」
「何が起こったんだ?」
「夫がヘリオスをこ、、、殺したんだわ」
「・・・・・」
私もマクスも声が出なかった。
私達が固まっているのを無視して、サンディーさんは話しを続ける。
「子供が死んでしまって、夫はブカスト王国からの密命を受けて、ソベルナ王国に来ていたと分かったんだよぉ」
「密命?」
「いや、ちょっとまて、ヘリオス王は、、、。は?まさか!?ええ」
隣のマクスが混乱している。
その言葉を聞いて、私も一足遅れて大変なことに気付いた。
「賢王ヘリオス?」
私がその名を口にすると、「そうそう、ヘリオスは立派な王になったよぉ」と、他人ごとのようにサンディーさんが言った。
「ええっと、かなり重要な内容を飛ばしたよね、サンディー?」
マクスが少し怖い声で語り掛ける。
白猫はブルっと身震いを一回した。
「むむむ!言いたくないけど、言うわぁ。心して聞きな!!」
良く分からないけれど、突然、勢いづくサンディーさん・・・。
「アタシは、息子の死に怒りが収まらず、ブカスト王国の大地からマナを吸い取った。そして、この魔塔の下に石化させて埋めた。その強大な力を少し借りて禁術を使い、息子ヘリオスを生き返らせたんだよ」
「・・・・・」
スケールが大き過ぎて、理解するのに少し時間が掛かった。
「そんなことが出来るのか?」
マクスが呟く。
「その頃のアタシは魔法で出来ないことが無いと思うくらい魔力を持っていた。あれは調子に乗っていたんだよ。馬鹿だったわぁ」
「掘り返して悪いが、密命は何だったんだ?」
「夫はソベルナ王国の後継者を潰せという密命を受けていた。アタシもクレアも殺される予定だった。そうすれば、簡単にソベルナ王国はブカスト王国のモノになるってわけさ」
「そうか。それで怒りに任せて、ブカスト王国のマナを吸ったって?」
「そうそう、そーゆーこと。だけどね、この下に眠る魔石の事を知られたらマズいだろう?だから、アタシは己をここへ封印して、守り人さんになったんだよぉ」
「あのー、シオドロスさんは?」
私は、恐る恐る尋ねた。
「冥界送り!一択だわ」
サンディーさん、即答。
彼女は可愛い白猫とは似ても似つかない強い御方だった。
「で、歴史に残さなかったのはなぜ?」
マクスが質問した。
「いやぁ、それはヘリオスとクレアの血の半分はブカスト王国だからねぇ。無駄に戦わせるのも嫌でねぇ。結局、世の中が知っているのは、アタシの夫が急死したって事と、ブカスト王国からマナが突然消えたって事件だけだね」
「マナの事件は、サンディーの仕業って、ブカスト王国は知らないのか?」
「さぁ、どうだろうね。だけども、この魔塔を嗅ぎつけられているんだろう?何かしら、気づいた奴がいるのかもしれないねぇ」
白猫は首を傾げた。
「あの、魔塔の下にある魔石を持ち出すと具体的には何が出来るのでしょう?」
「キャロちゃん、魔石があったらブカスト王国でもバンバン魔法が使えちゃうよー」
あ、魔法の国、計画、、、。
私はマクスの袖を引いた。
マクスは私を見て頷き、白猫に向かって言った。
「サンディー、残念ながら魔石の存在はバレてると思う。そして、既に持ち出している可能性がある。早急に対処するため、おれ達に力を貸してくれないか?」
最後まで読んで下さりありがとうございます。
面白いと思ったら評価、感想のほど、どうぞよろしくお願いいたします。