53 王族の覚悟
楽しい物語になるよう心がけています。
誤字脱字等のご連絡は感謝いたします。
マーカス殿下が、疲れた表情を見せた理由が分かった。
私も予想外の出来事に、どうしたらいいのか分からない。
「ええっと、伝えておきたいことがある。マーカス殿、こちらへ」
「どうしたんだ?マクス殿」
突然、怪しげな行動をみせる、マクス。
マーカス殿下を連れて、ドアの外へ出て行った。
目の前にラスボスがいると言うのに、、、。
何をコソコソしているのだろう。
そもそも、ランディ・ボルド―をワザと召喚しなかった、私達。
こんなタイミングで捕らえるとは思っていなかった。
私は改めて三人の方を見回した。
皆、虚ろな感じで生気がない。
マックはだいぶん魔力を吸ったのかもしれない。
次に会った時に褒めよう。
ドアの外にマーカス殿を連れ出し、おれは質問をした。
「マーカス殿、あのランディー・ボルド―は本物か?」
実はおれとランディ・ボルドー男爵は面識が無かった。
マーカス殿にしっかり確認しておかなければ、人違いだと大変な事になる。
「偽物がいなければ、、、」
「は?自信がないのか」
「いや、間違いない。だが、砂漠の薔薇というのは我が国で最強のスパイ組織だ。こんな簡単に捕まったとは、、、。驚きで言葉もない。オレはソベルナ王国とは絶対争いたくない。絶対勝てない」
真剣な顔でおれに訴える、マーカス殿。
「いや、おれは何度も言うが、ブカスト王国と戦う気は微塵もない」
「今後も気が変わらないことを祈るよ」
彼は苦笑いをした。
「それより、一つ言っておく。これから厳しく取り調べをする。我が国及びブカスト王国にとって不利になるような内容が出てくるかもしれないが、静かに見ていて欲しい」
「拷問でもするのか?」
「そのような非人道的行為はしない。キャロルの魔法の力を借りる。この手法は他言無用にして欲しい」
「分かった。一部始終を見届けさせてもらう」
「ああ、そうしてくれ。では、部屋に戻ろう」
ドアの外から、二人が戻って来た。一体、何の話をしたのかしら。
「二人共、話は終わりましたか?では、誰から調べましょうか?」
「キャロル、左から順に行こう」
マクスは鍵を出して、鉄格子を開けた。
私達は素早く中に入り、鍵を閉める。
「まさか牢に入るなんて思わなかったよ」
マーカス殿下がおどけた様子で言う。
「確かにそうだろうな」
マクスも苦笑した。
「では、制約魔法の解除と真実を自白するよう、魔法をかけます」
私が今からすることを宣言すると、マーカス殿下の目を大きくした。
「取り調べに魔法?」
「ああ、これなら安心安全だろ?」
マクスは、ドヤ顔で答える。
「いや、怖いけど」
マーカス殿下が、引いている。
私はジョージ・ボルド―の左肩に手を置き、「制約魔法、解けろ!」と「真実を私とマクスとマーカス殿下に話しなさい」の二つを心の中で念じた。
身動きの取れない男は、こちらを睨みつけている。
ボルドー一家は人を睨むのが好きなようだ。
「はい、質問をしても大丈夫ですよ。どうぞ」
「キャロル、ありがとう。では、質問を始める。あなたの名前は?」
男の口が勝手に動き、話し出す。
「ジョージ・ボルドーです」
「「天使の泉」で何をしていた?」
「「天使の泉」を破壊しようとしていました」
男の表情に絶望感が出て来る。
「何故、破壊しようとした?」
「転移ゲートを塞ぐため」
ガタン、カン。
ジョージ・ボルドーは抵抗したいのか、身体を動かす。
しかし、拘束はビクともしない。
「転移ゲートの先には何がある?」
「アジトがある」
「アジト?魔塔ではなくて?」
今度はマクスではなく、私が質問をする。
「魔塔の地下にある」
「何故、そのようなところにあるのでしょう?」
「マナの、、、。ゴフッ」
「えっ!?」
制約魔法の解除を掛けていたにも関わらず、ジョージ・ボルド―は血を吐いた。
「キャロル、ダメだ。取り敢えずコイツは眠らせて、次にいくぞ」
「そうね。では次は第一王子ナスタ殿下ね」
手慣れた様子で、マクスが血まみれのジョージを眠らせ、私たちは隣のブースに移動する。
「いやいやいや、マクス殿。お二人の鬼畜ぶりに寒気がしてきたのだが、、、」
「今は耐えてくれると助かる。キャロル、頼む」
私は第一王子ナスタ殿下の左肩に手を置き、「制約魔法を解除する」と「真実を私とマクスとマーカス殿下に告げよ」と今回は口に出して言った。
ナスタ王子殿下は生気が消え、大人しい様子だった。
「マクス、質問をどうぞ」
「では、貴殿の名前を教えてもらおう」
「ナスタ・アラン・ブカスト」
「何故、「天使の泉」に居た?」
「ジョージ・ボルドーの護衛対象から、第八王子がソベルナ王国にいると情報を得た」
「聞いたから、来たのか?」
「はい」
ナスタ王子殿下は、ボソボソと答える。
「トッシュと会ってどうするつもりだったんだ?」
「排除する」
「何故、排除する?」
「魔法の国の王は彼ではない」
「では、誰がなるんだ?」
「ジョージ王子」
あ、え?そっちなの!?
私の心臓がバクバク言い出す。
「ジョージ王子とはソベルナ王国のか?」
マーカス殿下も質問に加わる。
「はい」
「お前は一体どういう立ち位置なんだよ!」
マーカス殿下は声を荒げた。
「私は、、、。えっと、分からない」
「分からないのに参加するなよ!」
マーカス殿下は呆れた顔で言い捨てた。
「ごめんなさい」
あー、委縮しているタイプって、本当だったのね。
「お前にトッシュを排除出来るはずがないだろう。下手すれば、お前もトッシュもまとめてボルドー一家に殺されて終わりだ」
マーカス殿下が怒気を孕んだ声でナスタ王子殿下に言った。
「そ、そんな、、、」
「マーカス殿、ナスタ殿はいつもこんな感じなのか?」
マクスが聞く。
「ああ、こいつは普段から流され過ぎだ。あの場でマクス殿やキャロル殿を傷つけていたら、全部ナスタ、お前のせいになる。分かっているのか?」
「えっ、そ、そうなの?」
あー、ナスタ王子って、周りが見えてないタイプなのね。
これは傀儡にピッタリだわ。
前に居るマーカス殿下が頭を抱える。
「お前はいま何故ここに居るのかわかっているのか?」
「他国で破壊活動をしたから」
「いや、ソベルナ王国の王族や民を攻撃しただろう。お前は死刑もしくは生涯幽閉になる瀬戸際だぞ。罪の重さを分かれよ」
「死刑、、、そんな。そうなのか?」
「ああ、おれはお前を助けない」
マーカス殿下が冷たく言い放つと、ナスタ王子殿下の目から、大粒の涙が流れだした。
私とマクスは、目の前にいる兄弟の遣り取りに、唖然となる。
兄がしっかりしているという先入観は、捨てなければならない。
ナスタ王子殿下は、うかつ過ぎた。
「マーカス殿、悪いがおれも涙を見たところで、減刑には出来ない。そこは了承して欲しい」
「マクス殿、勿論だ。オレもこんな王族の覚悟が微塵もない奴の嘆願などしたくもない。しっかり裁いてくれ」
「分かった。では、次に行くか!」
頷いた私と、マクス、マーカス殿下はランディ・ボルド―がいる隣のブースへと移動した。
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