52 出来レース
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私の質問に興味があるのか、マーカス殿下が身を乗り出した。
「先ほど、後継者にしか紫の瞳の意味を伝えないと言われていましたよね?ならば、あらかじめ後継者は決まっているということでしょうか?ブカスト王国の王座は兄弟で競い、勝者が座るという通説との矛盾を感じるのですが」
私の質問を聞いたマーカス殿下が、深いため息を吐く。
「キャロル殿、あなたは顔に似合わず、オレの息の根を止めるような質問を投げかけるのだな。確かに我が国の「兄弟で玉座の争奪合戦をする」という話は有名だ。しかし、戦闘しか出来ない者、知略を悪い方へしか使わない者などを国王に据えれば、国は簡単に亡ぶ。という訳で王位争いは、それなりの出来レースだと察して欲しい。そして、ついでに言うなら、オレが次期国王になることは、おれが十五歳を迎えた五年前から、すでに決まっている。だが、慣習により、次期国王は現国王が退任する直前まで発表されない」
私の質問に真摯に答えてくれるとは思って無かったので、少し驚いた。
「そうなのですね。ではマーカス殿下が国王になると発表されるまでは、分かっていても知らないフリをしないといけないですね」
「ああ、そうしてもらえると助かる」
私とマーカス殿下の話を陛下は黙って聞いている。
「マーカス殿はおれと歳が同じだったのか、、、」
マクスは年齢が気になったらしく、ボソッと口にした。
「マクス殿も二十歳なのか?」
「ああ、残念ながら同い年だったようだな」
「いやー、これからも仲良くしようじゃないか」
嫌そうなマクスにマーカス殿下は嬉しそうに絡む。
ふと、目の前に白い毛玉が降って来た。
ピピだ!!
そう言えばお茶を淹れた時に見当たらないと思ったら、どこかに行っていたのね。
「ピピ、どうしたの?」
ふんわり着地した相棒は可愛い目で私を見た。
「キャロル、お知らせです。マックが三人の魔力を吸い終わりました。そして、お腹いっぱいなので帰りたいと言っています。マックを帰らせていいですか?」
ピピは首をカクンと傾げる。
「マックを見に行ってくれたのね。ピピ、ありがとう」
「ピピ、マックを送ってやってくれ。そして、マックにはおれが感謝していたと伝えて欲しい。おれも後で牢には取り調べをしに行く」
「分かりました。ミーはマックを送ってから、牢に戻ります」
本当に今日も大活躍の相棒は、カッコいいし、可愛い!!
「ありがとうピピ。マックに宜しくね!」
「はい、ではまた後で」
ふわっと、飛び上がって相棒は消えた。
「ピピ殿が欲しい」
マーカス殿下が、呟いた。
「あげませんからね」
私はピシッと断った。
「っははは、キャロル嬢は頼もしい」
陛下は、ずっと無表情だった顔を崩して笑い出した。
「父上、おれ達はこの後、先ほど捕縛して来た三人の取り調べに行きます」
「疲れているところを申し訳ないが、しっかり頼む」
「はい」
「その取り調べにオレも同行してはいけないだろうか?」
マーカス殿下が会話に入り込む。
「第一王子と顔を合わせてもいいのか?」
「それは構わない。他の二人が誰なのかを知りたいだけだ」
「確かにブカスト王国の方なら、マーカス殿下の方が詳しそうですね」
私はそれもいいかなと思った。
ただ、ここにマーカス殿下がいることをバレないようにしなければ、、、。
「私はマーカス殿が犯罪者と会うことを、特に制限するつもりはない。この件はブカスト王国の王家と話し合って処分を決めると先ほど口にしたからな」
陛下が許容する旨の発言をした。
「ありがとうございます。何を企んでいたのかをしっかり見聞きし、父へ伝えます」
「ああ、そうした方が判断しやすいだろう。気を付けて行ってきなさい」
「父上、では詳細は、取り調べ中に念話で報告します。おれ、今日はゆっくり休みたいんで」
マクスが本音をさらけ出す。
流石に今日は疲れているわよね。
さて、取り調べは私が頑張りますか!
お茶を飲み干した後、マーカス殿下を連れて、私たちは牢へと移動した。
移動と言っても、マーカス殿下を連れて、廊下を堂々と歩いて回る訳には行かないので、またしても疲れているマクスに頼ってしまった。
今夜、マクスは部屋に戻ったら、そのまま倒れて眠りそうだ。
「マクス殿、転移とはスゴイな。こうも自在に行き来出来るとなると馬に乗る必要もないだろう」
「いや、そんなことは無い。いつもは馬や馬車をよく使うし、魔力は極力使わない生活をしている。今は有事と言う事で使っているだけだ」
「何故?こんなに便利なのに勿体ない」
「何でも出来るというのは宜しくないという先祖の教えがある。過去の愚かな政策で失敗したソベルナ王国は魔法使いが居なくなり、王族だけが強い魔力を持ってしまった。強い魔力は使い方を間違えれば、何かを破壊することも、多くの民の命を奪うことも、簡単に出来てしまう。おれは民にとって肝心な時にしか、魔法は使うなと子供の時から教え込まれた」
「なるほど、個人的には使わないと言う事か、素晴らしい教育だな」
マーカス殿下は顎に手を置いて、頷く。
「そう言ってもらえるとは思わなかったよ」
マクスは笑う。
「あの、お二人共宜しいですか?そろそろ部屋にはいりません?」
私は重そうな鉄のドアを指差した。
今回の三人は攻撃して来たので、今までの犯人たちよりもより厳重な牢に入れられたようだ。
先日の取り調べの雰囲気とは漂っている空気が違っていた。
「ああ、すまない。いこうか」
そう言うとマクスは扉の中心に手を置いた。
ドアに紋章が浮き上がり、カチャっと鍵が開く音がした。
「さあ、入ろう」
マクスがドアを押す。
重そうな音を出しながら、ドアが開く。
少し廊下があって、その先にもう一つドアが見えた。
「ここは廊下だけ?」
私は小さな声でマクスに聞いた。
「ああ、脱獄し辛くしているんだ」
二つ目の扉でも、マクスは中心に手を置いた。
今回は紋章が浮き上がらず、カチャっと音だけ聞こえる。
ドアの先には更に鉄格子があり、その先に光る鎖で手足を拘束されている三人が見えた。
また、鉄格子の中でも一人ずつ鉄板の仕切りで区切られているため、三人は互いの顔を見ることが出来ないようにされている。
「まず、誰から調べましょうか?」
私は、マクスとマーカス殿下に話し掛けた。
すると、分かり易いくらい、マーカス殿下の表情が曇っている。
「マーカス殿下、どうされました?」
「いや、面識がある奴らばかりで、、、」
ボソボソと話すので、語尾が聞き取りずらい。
「第一王子以外に誰を知っている?」
マクスが、少し強い口調でマーカス殿下に問う。
マーカス殿下は最初に左を指した。
「あいつはジョージ・ボルドー、ランディ・ボルド―の息子だ」
「ああ、アイツがジョージ・ボルドーか。カシャロ公爵家のセノーラの影という情報があったから、あの場に居てもおかしくないとは思っていた」
そう言えば、セノーラ様はエリナと一緒に「天使の泉」付近にいたわね。
次は真ん中を指した。
「言うまでもなく、我が国の第一王子のナスタ」
そして、右を指した。
「砂漠の薔薇のトップ、ランディ・ボルド―」
ピリッと空気が凍り付く。
主犯が、そこにいる!?
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