51 勝てない
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目の前で陛下が難しい表情をしている。
それはそうだろう、先ほどマクラーレン領で、私達を攻撃して来た魔法使いに隣国の王子が含まれていたのだから。
「父上、マーカス殿を呼びます。判断はそれからにしましょう」
先ほど、疲れて荒ぶっていたマクスは、直ぐにいつもの調子を取り戻した。
私とマクスは陛下へ報告に向かい。
ジャンは、レード様とトッシュ少年を連れて、迎賓館へ戻った。
「マクス、ブカスト王国の王子たちと親しくするのは構わないが、国王はこの事態を把握しているのか?」
陛下と同じことを、私もずっと考えていた。
「父上、その辺はマーカス殿に聞きましょう。色々考えても憶測でしかありません」
「そうだな」
「では、ピピを呼びますね」
私は指輪に魔力を流した。
空中から毛玉が降って来る。
「ピピ、今日は何度もごめんなさい。マックはどう?」
「マックは三人目の魔力を吸っています。だいぶんモコモコになっています」
「そうなのね。二人が居てくれて、とても助かったわ」
「ああ、おれからも礼を言わせてくれ。ありがとうピピ」
マクスはピピに近寄り、頭を撫でた。
「お役に立てて嬉しいです」
ピピは嬉しそうな顔をしている。
「あのね、また頼みごとがあるのだけど、、、」
「はい!ミーは今日も活躍します」
ピピは切れの良い返事をした。
「ブカスト王国のマーカス殿下を連れて来て欲しいの」
「マーカス殿下ですね。了解しました。今から直ぐでいいですか?」
ピピはマーカス殿下を見つけたら、有無を言わせず連れて来そう、、、。
「ピピ、マーカス殿下の用意が出来次第で構わないわ」
シーツを巻いたまま連れて来られたら大変だもの。
「はい、では行ってきます!」
「行ってらっしゃい」
ピピはスッと消えた。
「キャロル嬢、そなたの精霊は優秀なのだな」
陛下が、ボソッと言った。
「はい、婚姻の指輪に感謝しています」
「いや、私もそなたが指輪で精霊の加護を得たとマクスから聞いてはいた。しかし、マクスがまさか国宝を勝手に婚姻の指輪にしているなどとは思わず、後から聞いて驚いたのだが、、、。あの選択は正解だったな、マクス」
ん?何だって!?
「ええ、急を要していましたので」
「その指輪は過去の王と王妃が使っていたものだ。お前たちの役に立っているのなら、ご先祖様もさぞ喜んでいることだろう」
「そのように大切な指輪をいただいたとは存じませんでした。ありがとうございます」
「いや、キャロル、実はおれも知らなかったんだ。単純に精霊を召喚出来ると記載されていたから役に立つかなと思って」
「お前らしいな」
「すみません」
二人の会話を聞いて、改めて左手の薬指にある指輪を眺めた。
細い金の指輪。
どんな方が使われていたのだろう?
ピピに聞いたら分かるかもね。
ドン!
目の前に煌びやかな衣装に身を包んだマーカス殿下とピピが現れた。
「おおお!ピピ殿、凄いな!!」
マーカス殿下は楽しそうな声を上げる。
「マーカス殿、ようこそソベルナ王国へ」
何となく不機嫌な声でマクスが挨拶をした。
「おお、マクス殿、キャロル殿、お招きありがとう」
「いや、礼には及ばない。父上、こちらがマーカス殿です」
マクスは陛下にマーカス殿下を紹介した。
「お初にお目にかかります。ブカスト王国第二王子マーカスと申します」
マーカス殿は姿勢を正して、陛下に挨拶をした。
「王太子から話は聞いている。最短ルート街道の整備の実現に向けて、今後ともよろしく頼む」
「ありがとうございます。ソベルナ王国の良き隣人となれますよう努力したいと思います」
「早速だが、マーカス殿はおれに呼び出された理由を薄々分かっているのだろう?」
マクスは不機嫌全開でマーカス殿下に言う。
すると、マーカス殿下が突然、深く頭を下げた。
「いや、頭を下げられても分からない。口で説明してくれないか」
マーカス殿下は顔を上げ、口を開いた。
「マクス殿、その様子だと、我が国の第一王子がすでにご迷惑を掛けたのだろう」
「ああ、その通りだ。何故、彼も紫の瞳を持つと昨日言わなかったんだ」
「いや、済まない。言い訳にしかならないが、トッシュがこちらの生活に落ち着いてから話すつもりだった。まさかこんなに早く事態が動くとは思っていなかった。本当に申し訳ない」
平謝りしているけど、マーカス殿下はどこまでが本音なのか、私には分からない。
「今日、我が国のマクラーレン領の観光地に魔法使いが三人現れ、おれ達や民を攻撃した。その三人の内の一人が第一王子のナスタ殿だった。トッシュは「反逆者には遠慮なく処罰を与えてくれ」と言ったが、貴殿はどうして欲しい?そして、ブカスト王国の国王陛下はこの件をどこまで知っているのかも合わせて聞きたい」
マクスの説明を神妙な面持ちで聞いていたマーカス殿下の顔色が悪くなっていく。
「魔法で攻撃?そこまで愚かだとは、、、」
マーカス殿下は考え込んでしまった。
「皆さん、取り敢えず座りませんか?」
私はソファーを指差し、提案した。
「そうだな、この際しっかり話そう」
マクスが陛下とマーカス殿下を席へ誘導する。
私はドアを開けて、廊下に控えている警備官にお茶を淹れたいので道具を持って来て欲しいと頼んだ。
直ぐに侍女がワゴンにティーセットを乗せて現れたので、続きは自分ですると言って、ワゴンを受け取る。
そして、警備官に「これから重要な案件を話し合うので、しばらく誰も取り次がないで欲しい」と伝え、ドアを閉めた。
執務室の中にブカスト王国の第二王子が居ると知れたら大変だ。
とても怪しい行動に見えたかもしれないけど、今はバレないのが重要だろう。
「キャロル嬢、ありがとう」
陛下が、ねぎらいの言葉を掛けてくれる。
私はお茶を淹れて、それぞれの前に置いて行く。
最後に自分の分の紅茶もカップへ注いで、ソファーに座った。
「では、仕切り直しましょう。皆さん、宜しければお茶もどうぞ」
私が声を掛けるとマーカス殿下が紅茶を口に運んだ。
「美味しい。キャロル殿、お気遣いありがとう」
「どういたしまして」
「急かすようで悪いが、第一王子は我が国の法律で裁くならば、王族に危害を加えようとした者として、処刑もしくは生涯幽閉となる。貴殿の意見を聞きたい」
「ブカスト王国も他国の王族を狙った者は同じく処刑もしくは生涯幽閉となる。父も自分の息子だからと言って、甘い対処をするようなタイプではない。そもそも、我が国は王座も力で奪い合うというルールだ。一人ひとりの事情などを考慮するようなことはない。この件は私から父に報告して良いだろうか?」
「現状、ブカスト王国と我が国は国交がない状況だ。この対処を間違えば、また良き隣人になる機会を失うかも知れぬ。マーカス殿、そなたの国の国王の意見を聞いてから処罰は考えよう」
陛下は静かに考えを伝えた。
「国王陛下、我が国の不祥事に寛大な対処をしていただき、ありがとうございます。父へ早急に伝え、お返事いたします」
「ああ、宜しく頼む」
「マーカス殿、一つ気になっていることがある。貴殿の国では紫の瞳を持つ者は後継者にはなれないのではないか?」
マクスの質問にマーカス殿下は答える。
「その通りだ。紫の瞳を持つ者が王になれば、ソベルナ王国との繋がりを疑われる。歴代の王は紫以外の瞳を持つ者、そして、その秘匿は後継者にしか知らされない。だから、この秘匿を当代では、オレしか知らない筈だった。だが、第一王子は誰に聞いたのかは分からないが、以前からそれを知っていて、砂漠の薔薇とも懇意にしていた」
「何故、そこまで分かっていて、自分で第一王子の怪しい動きを止めようと思わなかった?」
「オレは魔法が使えない。だから単純に魔力を持つあいつには勝てないと思っていた。そこへ、マクス殿が現れた」
「おれなら勝てると?」
「その通り。詳細を話して断られたくなかった。本当に黙っていてすまない」
「もう、お前たち双子はこれ以上隠し事をしていないだろうな。これから、頼みごとをするなら面と向かって言え。変に期待されても迷惑だ」
「はい、次からは素直に言います」
お兄ちゃんに怒られる弟みたいになってしまっているけど、、、。
「マーカス殿下、今回マクスは数百人の民を自分の身を削って転移させました。安易にお願い事をするのは辞めてください。また、マクスだけでなく、ソードマスターである私の弟も全力で戦いました。たまたまケガはしませんでしたが、こんなだまし討ちのような計画は許せません。反省してください」
「キャロル嬢、申し訳ない。弟殿にもご迷惑を掛けてすまなかった。数百人を転移するなど想像も出来ないが、とてつもない被害が出る可能性があったという事は分かった」
マーカス殿は立ち上がり、再び深々と礼をした。
「マクス殿、大変申し訳ございませんでした」
「ああ、お詫びは受け取る。今後は信頼して事前に相談して欲しい」
「ありがとう。頼りにしています」
「いや、頼りにするなよ」
何だか、この人、また面倒ごとを持って来そうな気がする。
チラッと陛下を見ると苦笑いをしていた。
今頃気付いたけど、陛下も両耳にピアスをしている。
今日、マクスの魔力の凄さを初めて目の当たりにした。
陛下も同じことが出来るのかしら?
私は陽炎が立つほどの魔力を自分が持っていたら、怖くて仕方ない。
マクスも陛下も凄いな。
「キャロル、他にマーカス殿に聞きたいことはないか?」
「うーん、そうですね、一つあります」
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