50 傀儡にしやすい王子
楽しい物語になるよう心がけています。
誤字脱字等のご連絡は感謝いたします。
マクスの自信に満ちた掛け声で、私たちは神剣を顕現させて戦うスタイルのジャンだけをその場に残し、階段を駆け上った。
目的地だった「天使の泉」はジャンの予想通り、破壊された箇所があった。
上空に見えた魔法使いらしい三人は、私たちを離れた位置から見ている。
「突然人々が消えたから、動揺しているんだろう。逃がさないように転移防止のシールドでも張っておくか」
マクスは指をパチンと鳴らした。
「師匠、僕はレード殿と組んで良いですか?」
「ああ、そうしてくれ。レード殿、トッシュは防御シールドを出す事が出来る。二人は離れないようにしてくれると助かる」
「分かった。身を守ることを優先させて貰う」
「ああ、それでいい。キャロル、上空の三人をここに引っ張ってくれないか?」
「引っ張るだけでいい?ピピとマックは呼ばなくていい?」
私の言葉にマクスがハッとした。
「マックか、、、。あいつらも呼んでくれ」
私は指輪に魔力を流した。
目の前に白い毛玉が現れた。
「ピピ、一大事なの!マックを呼んで来て!!」
互いに挨拶を交わす前に私はピピへのお願いを早口で捲し立てる。
ピピはいつものようにクルリと着地することも無く、スッと消えた。
本日も有能ナリ、我が相棒。
「マクス、マックを待つ?」
「そうだな、少しなら待てる」
私たちのやり取りが終わったところで、空中から大小の毛玉が落ちて来た。
「キャロル!マックを連れて来ました」
「んー、なんか分からんうちに連れてこられたばい」
マックは目をパチクリしている。
「あのね、悪い魔法使いが三人いるの。ここに引き寄せるから魔力を食べて!」
「ほう、三人ね。分かったさ。いつでもよかよ」
私の焦りと正反対ののんびりモードでマックは返事をする。
「白うさぎと羊!?」
トッシュ少年の呟きが聞こえたけど、今は返事をしている場合ではないので聞き流す。
「マクス、引き寄せるわよ」
「頼む」
私は上空に右手を挙げ、「そこの三人こっちへ来い!」と叫んだ。
思いの外、大きな声が出て少し恥ずかしい。
ドンッと目の前の岩場に三人は落ちて来た。
身体を打ちつけた三人組は直ぐに起き上がり、杖のようなモノをこちらへ向けた。
刹那、その先端から何かがこちらへ飛んでくる。
あれは氷?
ガシャンと私たちの目の前で弾け飛ぶ。
念のためにと掛けていたシールドに弾かれたようだ。
「攻撃する気みたいよ。どうする?」
私がマクスに話しかけるように、向こうも何かヒソヒソと仲間内で相談している。
三人は黒いフードを被っていて、顔が見えない。
もしかしてフードだけ取ったり出来るかな?
急な思い付きを実行するため、私は手を挙げず、こっそりと「フード消えろ!」と心の中で呟いた。
「え、ナスタ兄上!!」
三人の魔法使いたちのフードが、スッと消え去るなり、トッシュ少年が叫ぶ。
「ナスタ?トッシュ、アイツは第一王子か!?」
「はい、そうです」
マクスは、改めて三人をじーっと見る。
ピィーンと独特な音色が聞こえた。
ジャンの準備が整った合図だ。
「良し、捕えるぞ。ジャンが来たら避けろ」
マクスはそう言い残すと姿を消した。
私は防御を任されているので、レード様ととトッシュ少年と共に様子をうかがう。
ピピとマックは、いつの間にか魔法使いの背後の岩場に居るのが見えた。
バリッと天を裂くような音がした。
音のした方を見ると、マクスが浮いていた。
彼は雷の様なものを三人に向けて放ったようだ。
何とか、それを避けた三人はバラバラの方向へ飛び立ち、一人が私達の方へ向かって来る。
コレって防御壁で大丈夫なの?
少し迷ったけど、それしか思い付かなかった私は両手を前に出し、盾をイメージした。
敵は鬼の様な形相でこちらへ向かって来る。
いやだ!怖い!!
弱気になったところで、私の上を影が通り過ぎた。
ドドーン!ガラガラガラガラ。
ジャンが己と同じくらい大きな剣を敵に向かって振り下ろした。
その破壊力が半端ない。
剣筋が岩を抉る。
魔法使いは逃げ遅れたのか、足を負傷した様だ。
「捕縛する」
マクスの声がしたかと思えば、天から鎖が降って来て、目の前の魔法使いを拘束した。
あと二人。
一人は空に浮いている。
もう一人はマック達の前にいた。
魔力を吸われていることに気付いているのかは、まだ分からない。
「トッシュ、あなたのお兄様はどれ?」
「あの白うさぎと羊の前です」
「それなら、多分怪我はせずに済むと思うわ」
「いえ、反逆者なのでトドメを刺していただいて構いません」
「えっ?」
冷血王子モードの声を発するトッシュ少年に怯む。
「キャロル殿、危ない!」
レード様の声でハッと我に帰る。
目の前に火の玉が迫っていた。
あー、もう!!そんな急な攻撃なんて対処出来るわけ無いじゃん。
「無理!!消えて!」
テンパった私の叫びにより、火の玉はスッと消えた。
「うわぁぁー」
呻き声が耳に入る。
空から、魔法使いが降って来た。
肩から血を流している。
私を狙っている隙に、ジャンが斬りつけた様だ。
「捕縛する」
マクスの落ち着いた声と共にまた鎖が降って来る。
私に火の玉を放った魔法使いは鎖で拘束された。
最後の一人、ブカスト王国第一王子ナスタ殿下は、その場に座り込んだ。
彼は魔力切れだろう。
マックはいい仕事をした。
しかし、マクスは手を抜かない。
他の二人と同じ様に鎖で、ナスタ殿下も容赦なくグルグルに拘束したのだった。
三人を拘束し、自害したりしない様、眠らせた。
誰もいない岩山に眠る魔法使いと私たち。
「このまま、全員で王都へ戻る。その前に確認したい。トッシュ、第一王子はおれの目が間違ってなければ、紫の瞳だった。お前たち兄弟は何故重要な事を隠したんだ」
怒気を隠さず、マクスがトッシュに詰め寄る。
「マーカス兄上が、僕を遊学に送り出したのは、これが狙いだったのだと思います。紫の瞳を持つ傀儡にしやすい王子を見つけたランディ・ボルドーの目的も見通していたのだと思います」
「これが、お詫び代わりということか」
「はい」
「お前たち兄弟は面倒くさ過ぎる!!分かり易く言え。おれが力を持ってなければ、多くの民が巻き込まれていたんだぞ」
「はい、済みませんでした」
「もういい、後はお前の兄に言う」
マクスがトッシュ少年に怒りをぶつけ、ブカスト王国のマーカス殿下の曲者ぶりが顕になった。
「あー、頭の中がぐちゃぐちゃだ!!おれは疲れた!帰ってから考える」
珍しくマクスが取り乱している。
「マクス殿、安心していい、私は一部始終を見ていた。帰ってから出来事を整頓しよう」
レード様がマクスの肩を叩く。
「レード殿、ありがとう。ちょっと魔力を放出し過ぎた。取り乱して済まない」
「マクス、帰りは私が全員を運んでみようか?」
「いや、それくらいは大丈夫だ。それより、キャロル、転移ポイントは何処か分かるか?」
あー、すっかり忘れていた。
「待って、探索してみる」
私はいつもの様に両手を広げて、「出てこい転移ポイントー!」と念じた。
オレンジの柱がガタガタになった泉の背後にある岩場に立つ。
「あ、あそこにあったわ、マクスどうする?」
「ピピ!済まないが何処に通じているのか調べて来てくれないか」
マクスは少し離れたところにマックといるピピへ呼び掛けた。
「はーい、少しお待ち下さい。行って戻ってきます」
ピピはオレンジの柱へ触れて消えた。
そして、宣言通り、直ぐに戻って来た。
「殿下、この柱は魔塔の裏に繋がってます」
「魔塔か、分かった」
「ピピもマックもありがとう。とても助かったわ」
私は二人にお礼を伝えた。
マックのお陰で隣国の第一王子は怪我なく拘束出来た。
「それじゃあ、全員怪我なく無事で良かった。王宮へ戻ろう」
マクスはその場に居た全員を連れて、王宮の中庭へと転移した。
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