49 場違いなご令嬢
楽しい物語になるよう心がけています。
誤字脱字等のご連絡は感謝いたします。
「天使の泉」に向かう道の両側には観光地らしく、お土産ショップやカフェが立ち並び、多くの人が行き交っていた。
私達は雑談をしながら、ゆっくりと観光客に紛れて泉へと向かう。
通りにあるカフェで、クリームたっぷりのワッフルや、チーズをとろーりと伸ばしながらピザを食べている人たちの美味しそうな顔を見ると、ちょっと羨ましい気分になった。
朝ごはん、ここで食べたかった、、、。
「キャロル、あのピザは美味しそうだな」
横から、羨ましそうな声がした。
マクスも同じものを見ていたようだ。
「あれ、見た目だけで美味しいのが分かるよね」
私も賛同した。
「今が休暇なら、あれも食べられて、最高なんだけどなぁ、、、」
「私も同じことを考えていたわ」
「絶対早く解決して、キャロルと遊ぶ時間を作るぞ、おれは!!」
道端で堂々と宣言する、マクス。
「マクス殿とキャロル殿は仲が良いのですね」
レード様が話しかけて来たので、彼の方向を見ると、、、。
「あ!トッシュ、、で、、。」
危ない!殿下って言いそうになっちゃった。
咄嗟に手で自分の口を押えた。
あー、焦った!
「トッシュ、楽しそうだな。遠くが良く見えるだろう?」
マクスは、レード様に肩車されているトッシュ少年に話しかける。
「はい、良く見えます!!この商店街の先は左に曲がっていて、階段になるみたいです」
「そうか、階段は人が多そうか?」
「いえ、階段を上る人は、ここと違って少ないです」
「分かった。ありがとう」
マクスはトッシュ少年と話し終えると、一番後ろを歩いているジャンに話しかけた。
「ジャン、階段だと道幅が狭くなるだろう?どういう順番でいこうか?」
マクスは、今回はいつもより警戒しているようだ。
「マクス様、次は僕が先頭になりましょう。その次を姉、トッシュ様とレード様、マクス様は一番後ろを歩いてください。もしもの時にはシールドをし、危機を感じたら安全なところへ転移をしてください」
ガッツリと作戦を立てている二人と肩車をして楽しそうにしている二人の温度差がスゴイ。
私はこの場合、警戒組よね。
「ジャン、私はどうしたらいい?」
「逆に聞きたいけど、姉上は何が出来るの?」
「今のところ、何でも出来るわよ」
私は真実を簡潔に述べた。
私の答えを聞いたジャンは、マクスの顔を見る。
マクスは、ジャンに向かって、大きく頷いた。
「攻撃は?」
「あー、それはしたことが無いわ」
「だよね。それなら、姉上は守りに徹してもらいたい。全員を守って。僕は攻撃に徹するから」
「分かったわ。それにしても今回はヤケに事前準備をするのね。何か情報でも掴んでいるの?」
ジャンは私の方を見て溜息をついた。
「これくらい普通だと思う。そもそも、姉上たちが適当過ぎるんじゃない?」
「え、そうなの、マクス!?」
「ああ、ジャンの言う通り、おれ達は打ち合わせなんてしたことないな」
「今回は守らないといけない方が多いので、気を引き締めてくださいね」
弟から叱咤されてしまうという屈辱。
「はいはい、気を付けるから心配しなくても大丈夫よ」
私がイヤイヤそう答えたところで、頭上からトッシュ少年がマクスを呼んだ。
「師匠!前方に危険人物がいます!!黒髪の女の子も一緒に居ます」
危険人物?何それ。
「分かった。ジャン、どうする?一旦引くか?」
「そうですね、騒がれると厄介ですね」
「危険人物ってトッシュ殿、あのご令嬢たちのこと?」
レード様が、トッシュ少年に確認している。
「そうです。あのクルクルした金髪の人と黒髪の人です」
「ああ、それならば、あのふたりだな。マクス殿、二人は商店街を抜けた先にある階段を、たった今、上って行った。私達と目的地が同じかもしれない」
「そうか、困ったな。ひと気のない場所で、二人を何処かへ飛ばすか」
マクスが強硬手段のような発言をしている。
「家に強制送還もいいかもしれないですね」
ジャンが、マクスに提案した。
人ごみに埋もれている私は皆の会話が分かるようで分からない。
「危険人物って誰?」
気になって仕方ない私はマクスに尋ねた。
「セノーラと恐らくキャロルの友達だろう」
「ええええ!セノーラ様とエリナ?」
「そう」
如何したら、そんな組み合わせになるのよ。
すると、私の耳元でマクスが囁く。
「キャロル、マクラーレン子爵家のエリナ嬢の母リビエラは、ブカスト王国首都ブカの行政官の娘だ。カシャロ公爵家やボルドー男爵家と繋がっている可能性が高い」
「そんな情報をこんなところで囁かれても、、、」
エリナは敵なの?
友達と戦うなんて、想像もしたくない。
黙り込む私の頭をポンポンとマクスが優しく叩く。
「大丈夫さ、心配し過ぎるな」
笑顔で励ましの声を掛けてくれた。
そうよね、ここまで来たら、なるようにしかならないわよね。
「よし、ジャン、レード、トッシュ!予定通り進もう。影が潜んでいるかも知れないから、気を付けて行くぞ」
マクスの小さな声で囁かれた指示に全員が頷いた。
商店街の人混みを抜け、階段の下まで到着。
緩やかな傾斜の階段を見上げると、場違いなドレスに身を包んだ二人が見えた。
あの二人は、ここで一体何をしているのだろう?
「まさか、禊をしに来たわけじゃないわよね?」
「いや、その可能性もあるぞ」
マクスの顔は笑っていた。
私は念のため、階段を上り始める前に「仲間全員にシールド!」と密かに心の中で呟いた。
緩やかな階段を50メートルほど上ると、美しい景色が視界の端に見えて来た。
ゆっくりと左へ視線を向ければ、レマレ湖の凪いだ湖面が輝いている。
再び前に視線を戻したところで、悲鳴が上がった。
「ギャー」
「キャー」
「何だ!あれは!」
様々な叫び声が飛び交う。
私達は上る前に決めた順番で並んでいる為、目の前にはジャンしかいない。
「ジャン、何があったのかしら?」
「姉上、僕からは見えないです」
うーん、どうしようかな?と、考えたところで、次は強い振動が来た。
「これは地震?」
「どうかなぁ。何かを破壊したような音が聞こえた気もするけど」
ジャンと話しながら、後ろを振り返るとレード様とトッシュ少年は振動に備えて伏せていた。
その後ろにいるマクスは難しい顔をして立っている。
「マクス、どうする?」
少し大きな声で叫ぶと、マクスは口に左手の人差し指を立てて、右手の人差し指で前方の上空を指した。
私はマクスの指先を辿り、前方の空を見る。
「え、あれって魔法使い?」
そうしているうちに、マクスは階段を上り、私の横に来た。
「ああ、三人いる。振動が来る前に何かを放った。おれは魔法使いを相手に戦ったことはない。一か八かになるが、一緒に行くか?」
「勿論、行くわ」
「僕も行きます」
「よし、じゃあ、おれとキャロルが時間を稼ぐ。神剣の用意が出来たら、この笛を吹け。俺たちは避けるから」
マクスは前に「恋人の丘」で使っていた小さな笛をジャンの首に掛けた。
「キャロル、まずおれはここに居る人々を安全な場所に転移させる。魔法使いが狙ってきたらシールドを張って欲しい」
「分かった」
マクスは両耳から素早くピアスを外した。
するとゆらりとマクス周りに陽炎のようなものが立った。
こんなマクスを見るのは初めてなので、緊張する。
マクスは手を胸の前で組み、瞑想を始め、、、。
ド、ドン!!!
また強い振動が来て、足元が揺らぐ。
だけど、横にいるマクスは微動だにしない。
目を閉じたままジッとしている。
騒ぐ人、階段を駆け下りようとする人も出て来て、マクスに接触しそうになる。
私はヒヤヒヤしながら、マクスを見守る。
だいぶん長く感じた時間を経て、マクスは目を開いた。
すると彼の体の周りに漂っていた陽炎が刹那、白い閃光となった。
次に目を開けた時、私達五人以外の人々はすでに階段から消えていた。
「あの人数を?」
レード様が驚愕の声を出し、トッシュ少年はポカーンと口を開けている。
「さあ、民は安全な場所へ送った。皆、暴れていいぞ!」
マクスは疲れを微塵も見せず、私たちにニヤリと笑って見せた。
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