48 塩トマト
楽しい物語になるよう心がけています。
誤字脱字等のご連絡は感謝いたします。
マクラーレン領は古くから湧水の街として有名な領地で、王都からは馬車で半日の距離にある。
領都エビアにある大きな湖レマレの湖畔には、有名な宿が多く立ち並び、一年を通して観光客が押し寄せる国内でも有数の観光地だ。
そして、今回探査する転移ポイントは「天使の泉」という場所。
レマレ湖の辺りから、目の前に聳える岩山を少し上がった所にその泉はある。
「天使の泉」は、昔から禊の場として知られており、様々な悩みを持つ者が訪れるらしい。
手順としては、三日間冷たい泉で身体を清めれば、泉の神聖な力でその身が浄化され、悪いことは起きなくなると言う。
まぁ、良くある謳い文句である。
その効果は、気持ち次第と言うところだろう。
そして、ここは私の友人エリナ・マクラーレン子爵令嬢の住む場所でもある。
何故に転移ポイントは、私の友人繋がりなのだろうか?
変な感じである。
まだ訪れていない最後の転移ポイント「エルフの森」までもが、私の母の故郷ローデン伯爵領にあるのだから疑いたくもなる。
色々と疑問だらけだが、今日はマクラーレン領の探索に集中しよう。
思いを一通り巡らして、横を見る。
今日のメンツは、三国ドリームチームというか、各種取り揃えというか、、、一言で言うと濃い。
誰が纏める?
マクスにしか出来ないよね。
「皆、今日初めて会う者も居るから、今から自己紹介をしよう。それと今日は探索が目的だから、自己紹介後は敬称や敬語には拘らないように。周りにおれたちがやんごとない身分と知れたら厄介だ。じゃあ、キャロルからどうぞ」
はぁ?私からなの。
「私はマクスの妻のキャロラインです。キャロルと呼んでください。特技は魔法です」
「はい、じゃあ次はジャン」
マクスはサッサと進める。
「僕はキャロルの弟で殿下、あ、マクス様の側近のジャスティンです。ジャンと呼んで下さい。特技は剣です。一様、ソードマスターなので強いです」
「おっ!ソードマスター!?」
先日、捕らえた六人組の一人で大柄な騎士のフランクが、嬉しそうな声を上げた。
騎士だけにソードマスターに関心があるのね。
「じゃあ、次はレード殿」
ん?レードって誰?
「私はノード王国第一王子レナードです。レードと呼んで下さい。特技は剣です」
「は?王子!?」
つい、声に出してしまった。
フランクさんが、ノード王国の第一王子って!?初耳なのですけど。
昨日、マクスは何も教えてくれなかった!
つい、恨めしい目で、マクスを見る。
「キャロル、睨まない。はい、次はトッシュ」
「はい、僕はブカスト王国第八王子トッシュです。そのままトッシュと呼んでください。特技は今は有りません。これから魔法を習います」
溌剌とした声でトッシュ少年が挨拶をした。
「トッシュ殿、宜しく!」
目の前でレード様がトッシュ少年の前に手を差し出した。
彼は嬉しそうに手を伸ばし握手をした。
レード様が社交的なタイプでホッとする。
ブカスト王国の双子王子をここに連れて来たくないなと個人的に思った。
美形だけど、あの二人は何だか面倒くさい。
「キャロル殿も宜しく!」
ボーッとしていたら、レード様は私にも手を差し出して来た。
「はい、宜しくお願いします」
私はレード様の大きな手をギュッと握った。
彼の手は剣を持つ人の手だった。
「ジャン殿、ソードマスターの実力を是非見てみたいな」
レード様はジャンに手を差し出す。
「皆さん、よくそう言われるのですが、僕が神剣を顕現させる時は、かなりの有事ですから、、、」
ジャンは口籠もりながら、レード様の手を握った。
「じゃあ、おれはマクスだ。特技は魔法宜しく」
マクスはレード様の前に、手を差し出す。
レード様はマクスの手をギュッと握った。
「よし!全員挨拶完了。さて、向かうか」
本日、王宮から領都エビアまで、私達はマクスの魔法で転移してきた。
ここから、「天使の泉」までは、徒歩で向かう。
日中は、沢山の観光客に紛れてポイントを探り、夜間に転移先を確認するという、先日と同じ手順である。
歩き始めると後ろから声が聞こえて来た。
「僕は外国に来たのは今回が初めてなのです。レード殿の国はどんな国ですか?」
どうやら、トッシュ少年は、ノード王国のことも気になるようだ。
「トッシュ殿、我が国は小さな国です。国の南側は海に面しています。お魚を釣ったり、海で泳いだりする事が出来ます。潮風が強いので、農作物はあまり育ちません。唯一、トマトだけは美味しいと評判で良く育てられています」
「しおトマトですか?僕、聞いたことがあります。土壌に塩があると甘いトマトが出来るのですよね」
「おっ、詳しいですね。そうです、とても甘くて美味しいのですよ」
あれ?思ったより、マニアックな話になって来た。
私が、聞き耳を立てていると気付いていたマクスは、何故か笑い出す。
「キャロル、土壌が云々の話の時の表情が、、、ハッハッハ」
悪かったわね、絶対、眉間に皺が寄っていたと自覚しているわよ。
私は眉間を指で伸ばす。
「マクス、塩トマトって食べたことある?」
「いや、無いな。食べたい?」
「美味しいって聞いたら気になるわよね」
「この件が片付いたら、ノード王国へ食べに行こう。リン王女にキャロルを会わせたいし」
「リン王女?」
「そう、母上の友達なんだよ。リン王女は長年軍師をしていた武人でかっこいいおばさんだ」
「マクス殿、閣下を、おばさんなどと、、、。私は恐ろしくてとても言えないぞ」
後ろから、レード様が割り込んで来た。
「そうか?おれには優しいけど」
「それは、隣国の王子だからだろう。私には恐怖でしか無い」
振り返ると、大きな身体で身震いをしてみせるレード様が可笑しくて笑ってしまった。
楽しい雰囲気で、泉へ向かう私たちが凍りつくのは、もうすぐ後のことだった。
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