47 人手不足につき
楽しい物語になるよう心がけています。
誤字脱字等のご連絡は感謝いたします。
他国からの客人をもてなす王宮内の迎賓館には、一昨日からノード王国の騎士が滞在している。
おれは、昼食後キャロルとジャンにトッシュを任せて、彼と話をするため迎賓館へ向かった。
「ご苦労様、彼はどうしている?」
迎賓館の入り口に立つ、警備官へ様子を尋ねた。
「はっ!お客様でしたら、昨日は中庭の散策と図書館へご案内いたしました。本日はお外に出られてはいません。以上です」
「分かった。ありがとう」
おれはそのまま中に入り、客室へと真っすぐ進む。
ドアの前に控えている警備官はおれの姿を見つけるなり、室内へお伺いを立てているようだ。
おれがフランクのいる部屋の前に到着すると同時に、ドアが開かれた。
「ありがとう」
横に控えている警備官に礼を言って、部屋の中へ足を踏み入れる。
フランクはソファーから立ち上がり、おれが入って来るのを立って待っていた。
「フランク殿、何か困ったことなどはないか?」
「殿下、とても良くしていただき感謝いたします。特に困っていることなどはございません」
おれ達が型にはまった挨拶をしている間に、室内に居た侍女たちはスピーディーにお茶をテーブルへ並べ終えた。
「済まないが席を外してくれ」
おれは侍女たちに向かって指示を出す。
「はい、かしこまりました。御用の際はお呼びくださいませ。失礼いたします」
リーダー格の侍女が代表して言うと三人は揃って礼をし、部屋から出て行く。
それを見送ってから、おれたちはソファーへ腰を下ろした。
「さて、どうする?」
おれが唐突に切り出すとフランクは「何を?」という顔をする。
目の前の騎士フランクは、ライオンのたてがみの様な髪の色はピンクがかったブロンド、瞳の色はブロンズで肌は白い。
大きな体躯は騎士と言われれば、騎士にしか見えない。
しかし、ノード王国のリン王女と親しい付き合いのあるおれは彼に確認したいことがあった。
「ここ最近の出来事は、おれが言うまでもなく、国を跨いで陰謀計画を立てる輩に振り回されている。おれはこれからの未来も考慮し、ブカスト王国の第二王子、第三王子とタッグを組んだ。貴殿も本音で話してもらえると話が早いのだが」
「それは、私がノード王国の騎士だとは思えないと言う事でしょうか?」
「率直に言うとその通りだ。おれはリン王女と親しい。だから、貴殿の風貌を見て直ぐに分かった。そうでなければ、あの場面で即決せずに一度は牢に入れただろう」
「確かにそうですね」
目の前の大男はクスっと笑った。
「お察しの通り、私はノード王国第一王子レナード・フランク・ノードです」
ああ、やはり彼はおれのヨミ通り、ノード王国の王族だったか。
しかし、第一王子だとは、、、。
おれは彼を第二王子かと思っていた。
「おれは、この国の王太子マクシミリアン・K・ソベルナです。呼びにくいので、マクスと呼んでいただいて構いません」
相手の挨拶を受け、おれも礼節に則り、名を名乗った。
「分かりました。マクス殿とお呼びします。私の事も遠慮なく、レードと呼んでください」
レード殿はそう言うと笑顔を見せた。
「それはそうと、ノード王国は、第一王子のレード殿が影のような仕事をして大丈夫なのか?」
おれは一番気になったことを、まず口にした。
「マクス殿は、歯に衣と着せる言う言葉をご存じないのですか?」
レード殿は呆れた表情になる。
「いや、この状況で歯に衣など着せていたら時間の無駄だろう」
「はぁー、貴方が氷の貴公子と言われている意味が分かったよ」
レード殿の口調が急に軽くなった。
おれとしては本音で話したいので、その方が嬉しい。
「氷の貴公子か、そんな二つ名は要らないのだが」
おれは不満を口にする。
「大国ソベルナ王国の王太子殿下は二つ名が付くほどの有名人ということだろう。一方、ノード王国は小国だからね、私には専属の影もいない。我が国の人手不足は深刻だよ。実際、私は第一騎士団で副団長もしている。そう言う訳で、今回は王の提案に自ら志願したのさ」
レード殿は苦笑いをしている。
彼は喜怒哀楽が分かり易い。
そして、絶妙に一昨日の取り調べの際の自白と真実が被っていることに驚く。
「この際だから聞くが、ノード王国の次期国王は貴殿なのか?」
「それは、勿論そうだと言いたいのだが、今回の事件は王位継承に結構水を落としている」
「それは、ロレンス叔母の悪巧みと関係があるのか?」
「ある。彼女は私と第二王子を葬るつもりだ。そして、自分たちの子供を王位に付けて、今後は魔法を使える者を王族にするだろう」
「あー、そこでランディ・ボルド―の思想と繋がるのか」
「ああ、一昨日の取り調べで、ボルドーの息子が言っていた話を本当に疑いもなく目指しているのだろう」
一昨日、ランディー・ボルドーの息子は、己の父がこの大陸を統一し、魔法の国を作ると言っていた。
実際には地域によってマナが無いところもあるし、実現は難しいと思うのだが、彼らは真剣に取り組んでいるらしい。
そして、大陸を統一すると言うのなら、ロレンス叔母はノード王国も潰されると何故気付かないのだろう。
「単純に実現すると思うか?」
「いや、難しいだろう。ノード王国にマナは皆無だ。だから、騎士や戦士が国を守っている」
「おれもそう思う。だが、そうなってくると、マナに溢れたソベルナ王国に拠点を置きたいと考えるのが普通だろう。とすれば、どう考えてもおれを亡き者にして、傀儡に出来そうなジョージを王にするのが一番だと思うのだが、、、。おれは今回、まだ毒を盛られたくらいなんだよ」
「いや、毒を盛られたと言うのも、充分攻撃されていると思うが、、、」
「おれは毒くらいでは死なない。奴ら、どうすると思う?」
おれの返答に若干引きながらも、レード殿は口を開く。
「大体のお決まりならば、大切な人を狙うだろうな」
「まぁそうなるだろう。レード殿の予想通り、先日妻のキャロルが誘拐された」
「はぁ?あの可愛いお嬢さんが誘拐されたって!?大丈夫だったのか?」
「それが、キャロルは見た目に反して、結構強いんだよ。捕らわれたブカスト王国のソルティール監獄塔から自力で帰って来たんだ」
おれの話に驚く様子を見せるレード殿。
「へぇ、それはちょっと凄いね。ことごとく失敗で砂漠の薔薇も行き詰っていそうだね」
「おれとしては、敵がガタついている今のうちに全容を暴いて捕えたい」
「なるほど、それで私に機密をこぼしたのか」
「協力してもらえると助かる」
「いや、私こそ協力して欲しいよ」
おれとレード殿は互いに企んだ笑みを浮かべ、硬く握手を交わした。
「レード殿、ノード王国で砂漠の薔薇はどういう活動を?」
「最初はロレンス様のお抱え商団として、ソベルナ王国から我が国に来たようだ。王都に店を構え、利益で孤児院経営をしていた。一昨日の手先、レイはその孤児院の出身だ。何とも狡猾なやり口で気に入らない」
「孤児院で工作員を育てたのか。最悪のパターンだな」
「ああ、今回潜入して初めて分かった。私達の目が節穴だったという点も付け加えておく」
彼は悔しそうな素振りで語る。
「早く片付けて、子供達には安心できる場所を用意しないといけないな」
「その通りだ。一刻も早く片付けたい」
「レード殿、おれ達はこの国にある砂漠の薔薇の転移ポイントを捜査している。あと二カ所ほど残っているのだが、明日は「天使の泉」と言われるマクラーレン領のポイントへ向かう。貴殿も一緒に行きたければ連れて行くが、どうする?」
「マクラーレン領と言えば、湧き水で有名な観光地だね。是非ご一緒させて欲しい」
「分かった。では、明日の朝食後に声を掛ける」
「よろしくお願いします」
おれは用事を済まし、立ち上がろうとして、肝心なことを言い忘れていたと気付く。
「ああ、明日は妻のキャロルと、その弟でソードマスターのジャン、ブカスト王国第八王子のトッシュ殿も同行する。襲撃時には出来るだけ全員護るつもりだが、念のため自分の身は自分で守れるよう覚悟はしておいて欲しい」
「ブカストの第八王子、、、?色々聞きたくなるメンバーだね。分かりました。明日は帯剣しておきます」
「では、明日に備えて、今日はゆっくりと過ごしてくれ」
「はい、お気遣い感謝します」
おれはレード殿に見送られ、迎賓館を後にした。
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