46 シュニッツェル
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昼食は中庭に面した部屋に用意されていた。
大きな窓は開け放たれ、木立の切れ間からは噴水とそれを取り囲む花壇が見えている。
「さあ、こちらへどうぞ、トッシュ殿」
マクスは席を引いて、彼を待つ。
「ありがとうございます。王太子殿下」
トッシュ少年は礼儀よく挨拶をしてから腰かけた。
私達は彼の向かい側に並んで座った。
「先ほどは、あれで良かったでしょうか?」
トッシュ王子はマクスに聞く。
言うまでもなく、勘違い公爵令嬢セノーラ様への対応のことである。
「ええ、良い対応だったと思います。次からは一瞥か無視で構わないですよ」
「分かりました」
私はトッシュ少年の冷酷王子モードの迫力が凄すぎて、結構ショックだったのだけど、口に出すのは辞めておく。
「では、食事を運んでくれ」
マクスは部屋に控えていた侍女に指示を出した。
「トッシュ殿を護衛するジャスティンという騎士が途中で来るかもしれません。また、その時に詳しくご紹介しますね」
マクスは優しく話す。
「はい、分かりました」
「トッシュ殿はブカスト王国ではどのように過ごしているのですか?」
「僕は赤龍の宮殿に住んでいます。勉強や剣術などの指導は先生方が来てくださいます。王宮で過ごした記憶が余りないので、マーカス兄上は父親のような存在です」
そのマーカス殿下が行ってこいと言ったから、ここに来ることになったのよね。
「トッシュ王子殿下は何のお勉強が好きですか?」
私も会話に入る。
「僕は大陸史の勉強が好きです。僕の先生は「同じ歴史でも他の国では違う目線で語られることが普通にある。実際に行って見聞を広めなさい」といつも言います。なので、僕は今回ソベルナ王国に来られて嬉しいです」
「そう言ってもらえると私も嬉しいです。トッシュ王子殿下は、ここで魔法のお勉強がしたいと言われていましたね。マクス、先生を誰にするかは陛下と決めるの?」
「いや、おれが教えようと思う。そして、国内の視察に出来るだけ連れて行きたい。トッシュ殿、少し荒い教え方になるかもしれませんが、ご覚悟を」
マクスはニッと企んだ顔をトッシュ少年に見せた。
「わー!僕もついて行って良いのですか!!よろしくお願いします!師匠!!」
「師匠!?くすぐったいな。まあ、一緒にがんばろうな、トッシュ!!」
フフッとマクスが笑う。
トッシュ少年はとても嬉しそうな顔をしていた。
続いて、運ばれてきた食事がテーブルに並べられていく。
目の前のトッシュ少年は一つ一つを興味深そうに眺めている。
本日のランチはシュニッツェルとコーンが乗ったグリーンサラダ、パンはカイザー・ゼンメルという丸いパンが出て来た。
飲み物はオレンジジュースとアイスティーが用意されている。
「トッシュ、飲み物は何がいい?」
師弟関係と言う事なのか、マクスは早速トッシュ少年に砕けた話し方で問う。
「オレンジジュースが良いです!師匠!」
弟子も満更ではないようだ。
私とマクスはアイスティーを選んだ。
配膳が終わると侍女たちは下がった。
「では、食べましょう」
マクスの掛け声で食事を始める。
トッシュ少年は、ナイフとフォークの取り扱いなどを私たちが説明しなくとも、綺麗な所作で食べ始めた。
先ほどの対応や今の様子からも彼は生粋の王子様なのだと感じる。
「この大きなお肉の揚げ物は何という名前ですか?僕は初めて食べました」
「これはシュニッツェルと言って、子牛の肉を薄く叩きのばして、衣をつけて揚げたものです。首都リールの名物料理なのです。お口に会いましたか?」
私は簡単に材料や作り方にも触れて、トッシュ少年へ伝えた。
「これが牛肉!?柔らかくてとても美味しいです。僕の国では牛肉は塊で焼いたり、長時間煮込んだりすることが多いので、この食べ方は知りませんでした。とても美味しいです」
「それは良かった。トッシュ、今日は王宮で過ごす予定だが、明日はマクラーレン領へ行く」
「はい」
「この後、警護が付けば王宮内は歩いて回って構わない。念のため、食事の後に一つ身を守る方法を教える。しっかり食べて力を蓄えるように」
「はい!いっぱい食べます!!」
マクス、子供のお世話がとても上手だわ。
私の出る幕はあまりなさそうね。
その後も、窓の外を眺めて、緑がキレイだとか、お部屋の雰囲気が明るくて好きだとか、トッシュ少年は食事をしながら、祖国と違うものを見つけては私たちに感動を伝えてくれた。
私とマクスもトッシュ少年を連れて来て良かったねとコソコソ話していると、ノックの音がした。
「第一騎士団副団長代理ジャスティン・リューデンハイム入ります」
シャキッとした声と共にジャンが部屋に入って来た。
「ああ、ジャンお疲れ!」
マクスが手を上げて挨拶をする。
ジャンはマクスを見て、その後トッシュ少年に目を向けた。
「え、隠し子?」
何を言い出すのだ、我が弟よ。
「ジャン、、、」
マクスが疲れた声を吐く。
「年齢的に殿下じゃないですよね?」
「ジャン、失礼よ」
「トッシュ、彼が護衛騎士ジャスティン・リューデンハイムだ。我が妻キャロルの弟で国内一のソードマスターと言われている。安心して身を任せるといい」
「はい!ジャスティン殿、僕はブカスト王国第八王子トッシュ・アラン・ブカストです。滞在中の護衛をよろしくお願いします」
ジャスティンはトッシュ少年の挨拶を聞き終わると膝を折り、頭を垂れた。
「大変失礼いたしました。護衛任務、しかと承りました」
「頭を上げてください。僕は遊学でソベルナ王国に来ました。王太子殿下と同じ瞳の為、狙われることが多いと思います。僕を守ることと同じように自分の身も守ってくださいね」
人生を何周回った?というような返しをされて、ジャンはポカーンとしている。
「トッシュ、やるな」
マクスが褒める。
「ありがとうございます!師匠」
「え、ちょっと待って!殿下が師匠って何?」
急に砕けた入り方をしてくる我が弟。
「ああ、オレはトッシュに魔法を教える。簡単な身を守る魔法から伝授する予定だ」
「と言う事は、ここに居る全員が魔法使いってことですよね?僕、必要ですか?」
「確かに、、、」
思わず、こぼしてしまった。
「姉上、そこは嘘でも僕が必要と言うところです」
「ジャン、勿論必要だから依頼した。魔法ですべてを解決出来ると思うのは過信だ」
「はい、余計なことを言ってすみませんでした」
マクスに諭されて、ジャンのテンションは一気に下がった。
「ジャスティン殿の武器は何ですか?」
いいタイミングでトッシュ少年が質問をした。
「僕は両手剣で戦います。神気をまとう剣を顕現させて戦うので、通常はこのような簡易の片手剣しか持ち歩いていません」
ジャンは左腰の剣を指差した。
「神気をまとう剣!?凄いですね。初めて聞きました。いつか見てみたいです」
「トッシュ殿下、ご覧になる時はかなりの有事になるかと、、、」
ジャンは難しい顔をする。
「では、かなりの有事を楽しみにしておきますね」
豪胆な王子の言葉に私たちは苦笑いするしかなかった。
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