44 人攫い
楽しい物語になるよう心がけています。
誤字脱字等のご連絡は感謝いたします。
私達を呼び止めたマーカス殿下は、少し待って居てくれと、部屋を出て行った。
私とマクス、ピピは何も話さず、静かに待つ。
案外早く戻って来たマーカス殿下は、その手に飲み物の入ったサーバーと、グラスが四つ乗ったトレイを持っている。
そして、その後ろに小柄な少年が一人ついて来た。
「お待たせして済まない。いや、喉が渇いたので飲み物を全員分持って来た。怪しいと思うならば、飲まなくても構わないが、どうぞ」
コップへ金色に光る飲み物を注ぎ、マーカス殿下はマクスに渡した。
次は私に手渡し、そして最後はピピの前に置いた。
そして、ご自身の分も注ぎ、先に口を付けた。
マクスはどうするのかしら?と横目で見れば、堂々と毒見スプーンを懐から出し、飲み物へ浸けている。
いや、その心臓の強さに驚くわ!!
スプーンを引き上げ、何の変化もないと確信したマクス。
「いただきます」
そして、何事もなかったかのように口を付けた。
私は、こっそり「毒、消えろ!」とグラスに念じて飲むくらいしか出来ない。
「いや、マクス殿、堂々と疑ってくれるとは、、、。潔いな」
マーカス殿下が豪快に笑う。
「いろいろ背負っているので、無作法をご勘弁ください。マーカス殿が指示しなくとも、別の誰かが毒を入れることもありますから」
「なるほど、オレが狙われることもあると言う事か、、、」
「はい、ところでそちらは?」
「そうそう、こいつはブカスト王国第八王子のトッシュだ。オレの弟でもある。もしよければ、この子をソベルナ王国で使ってもらえないだろうか?」
「使うと言うと?」
「マクス殿とお会いして確信したのだが、その紫の瞳は何か意味があるのだろう?トッシュも紫の瞳を持っている。もし、ソベルナ王国に行けば魔法が使えるのではないかと思った」
確かにトッシュ王子は綺麗な紫の瞳をしている。
ナリス王女の秘密を聞かなければ、気にも留めないが、ブカスト王国の王族も血縁関係だったと知ってしまえばと意味が変わって来る。
マクスは何と答えるのだろう。
「連れて行くのは構いませんが、命の保証が出来ません。マーカス殿下は色々ご存じなのでしょう?何が狙いですか」
「大方、今回の騒動も発端はソベルナ王国の王位継承権に絡んでいるのだろう。マクス殿の他に継承権を持つものがいるのなら、トッシュの存在は目障りだ。客人と言って連れ歩いてもらって構わない。相手が仕掛けて来るのを待てばいい」
「王位継承権?ナリス王女の事件は、我が国の王位継承権絡みだったと?」
「あれは第二王子の策略が失敗したのか、第一王子の知略勝ちなのかを、今更確認することは出来ないが、あの時代に隣国の王女とねんごろな関係になるのは簡単ではない。不自然と言った方がいいだろう。私は第一王子が曲者だったと考えている」
何だかスゴイ話をしているけど、私もチャーリー王の行動は変だと思う。
「マーカス殿、おれもチャーリー王の行動には不審な気持ちを抱いています。魔法使いを国外に放出し始めたのも彼ですから」
「魔法使いをマナの無いブカスト王国に送り弱体化。国内には魔法使いを置かないという政策のことだろう?本当に嫌な奴だな、そのチャーリーって王は」
「国を追われた魔法使いたちは、ソベルナ王国に帰ることを願っていたのかもしれませんね」
「砂漠の薔薇だからな」
「ええ、そうです」
何々?二人で分かりあっているみたいだけど。
「砂漠の薔薇って、何か暗号なの?」
「キャロル、砂漠の薔薇は、願いを叶える石という意味があるんだ」
「願いを叶える石?私の『天使カード』みたいね」
「確かに、、、」
私とマクスは微笑み合う。
「ええっと、トッシュ殿。君は身を守る術は持っているのか?」
マクスは、トッシュ少年に優しく問いかけた。
目上の人に話しかけられるまで、きちんと黙って待てるところをみると、しっかりした子だと思う。
「初めまして、トッシュです。僕は魔力があります。実際に魔法を使ったことはありませんが、使い方を教えていただけると嬉しいです」
トッシュ少年は目をキラキラさせて、マクスに話す。
「トッシュ殿下はおいくつですか?」
私は年齢を尋ねた。
「僕は十歳です」
十歳か、しっかりしているなぁ。
「私達とソベルナ王国に行くのは怖くないですか?」
「外国に行けるなんてワクワクします」
トッシュ少年の言葉を聞いて、マーカス殿下が噴き出す。
「マクス殿、この通り天真爛漫な奴だ。心配は要らない」
「そうはいっても、ブカスト王国の大切な王子殿下ですから、簡単に連れて行く訳にはいきません」
「この件は、カルロがキャロライン殿を連れ去ったお詫びも込めている。トッシュは馬鹿な兄に代わり、ソベルナ王国へご奉公に行くのだ。あのバカに隣国からの誘拐を繰り返されても困るからな。今回の事はオレがしっかりカルロを反省させるので、どうかこれで許して欲しい」
「そんな人質のようなことは出来ないです。あくまで遊学ということならお引き受けします。勿論、トッシュ王子の身も出来るだけ守ります」
あ、マクスが折れた。
トッシュ少年を連れて帰るつもりなのかな?
「トッシュ、勉強に行くと言う事を忘れず、しっかり励めよ」
「はい、兄上」
「では、いつ迎えに来ればいいですか?流石にこのまま連れて行くと、今度はおれ達が人攫いと言われそうです」
「僕は十分あれば用意出来ます」
「と言う訳なので、人攫いコースで、お願いします」
マーカス殿下は笑顔で、私達へ行った。
そして、トッシュ少年は、ソベルナ王国へ突然行くことになったにも関わらず、楽しそうな雰囲気で、ハツラツとした笑顔を浮かべている。
「キャロル、ピピ、トッシュ殿下を連れて帰るけどいい?」
マクスは、私たちに最終確認をした。
「大丈夫よ、何かあれば私達が殿下をここへ送れば、安全でしょう?」
「ピピも一人なら、何とか送れます」
「分かった。ありがとう」
「では、マーカス殿ひとつお願いしていいですか?遊学に送り出すと言う書状を作ってください。流石に口約束で、我が国の国王に報告は出来ませんので。」
「分かった。オレは書状を書いてくる。トッシュ、お前は準備をしてこい!!では、申し訳ないがしばらく席を外す」
私達に断って、二人は部屋を後にした。
「ブカスト王国の人たちって、今日初めて会ったと思えないくらいフレンドリーなのは気質なのかしら?」
私が溢すと、マクスも口を開いた。
「いや、話が上手いから、ついポロっと話してしまいそうで、おれは心が疲れたよ。そして、遊学の王子をひとりお持ち帰りなんて、来る前には想像もしていなかった。あー、父上に何と説明したらいいんだ!!」
マクスは頭を抱えている。
マーカス殿下は、自分のペースに持ち込むのが上手いのかもしれない。
私も気を付けよう。
――――20分後。
トッシュ少年とマーカス殿下は一緒に戻って来た。
「大変お待たせして申し訳ない。これが書状だ。そして、トッシュにかかる費用はこちらを使って欲しい」
そう言うと筒状の書状と、えんじ色の巾着袋をマクスに手渡した。
ずっしりと重そうな様子。
「はい、確かにお預かりします。では、何かあれば、すぐにマーカス殿のいる場所へ、トッシュ殿下を送りますね」
「あー、深夜などは、、、」
マーカス殿下が口ごもる。
なるほど、少年に色っぽい場面を見せる訳にはいかないわよね。
「ご心配なく、夜九時から朝九時までの有事の際は、トッシュ殿下のお部屋へ送ります」
私が横からフォロー入れた。
「キャロライン殿、そうしてもらえると助かります。トッシュ、部屋に戻った時は直ぐに侍女を呼べ」
「はい、兄上」
トッシュ少年は元気に答えた。
「そろそろ行こうか」
マクスが声を掛ける。
「はい!王太子殿下!」
トッシュ少年、マクスにもいい返事をする。
「ミーは先に行きます!」
クルっと、跳ねるとピピは一番乗りで消えた。
「トッシュ殿下、ここに立ってくれる?」
マクスは荷物を背負っているトッシュ殿下を私の隣に立たせる。
「では、マーカス殿、また会いましょう」
「ああ、マクス殿、キャロライン殿お気をつけて!」
「ごきげんよう」
私が言い終わると同時に風景は王宮の庭へと変わった。
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