43 論破
楽しい物語になるよう心がけています。
誤字脱字等のご連絡は感謝いたします。
双子の王子は視線をマクスから、私に移す。
何故、私を見る?
「マクス殿、その質問はストレートな意味なのか、または深い意味を含むのだろうか?」
カルロ殿下が答えた。
「ストレートだとか深い意味という分別が、おれには分からない」
マクスは首を傾げた。
「ならば、ストレートな問いとして、お答えする。私はキャロライン殿が大魔法使いということを存じておる」
「へっ?」
「はぁ?」
私達は素っ頓狂な声を出してしまった。
私が大魔法使い?
「それは誰が言った?」
マクスの声が低くなった。
怒気を感じる。
「ランディー・ボルドーから聞いたのだ」
「ほう、それで、深い意味とは?」
「ソベルナ王国に於いて、大魔法使いは虐げられる存在であり、王家はその存在を許さないと言う話だ」
「悪いが、その話をおれは今初めて聞いた」
「私が大魔法使いという話も初めて聞きました」
私達は真っ向から否定した。
「カルロ、全てランディー・ボルドーの嘘なんじゃないか?」
マーカス殿下が口を挟む。
「嘘かも知れぬ。だが、キャロライン殿は目を付けられる素質を充分持っておる。現にソルティール監獄塔から、あっさり脱獄したのだ」
「ソルティール監獄塔から脱獄?本当に!?キャロライン殿、スゴいね」
双子は私を見ながら、余計なことを話している。
「いや、お二人に釘を刺しておきますが、誘拐したのはそちらですからね。スゴイって感心している場合じゃないでしょう」
マクスは、トドメを刺した。
「その節は申し訳ない。甘言に乗せられ、救世主の様な気分だった己を恥ずかしく思う」
「カルロ、また人助け?こいつ、困っている女性をどんどん娶っては、ハレムでお世話をしているんだよ。いや、最早ハレムではなくシェルターだな」
「困っている者を助けて何が悪い」
「いや、誘拐して来たらダメだろう」
「誘拐ではない保護だ」
「攫うのは誘拐って言うんだよ。本人の了承を得てないだろう」
また、双子王子は、目の前で小競り合いを始める。
「マクス、何となく二人の性格が見えてくるわね」
私は隣のマクスにヒソヒソと話し掛けた。
「ああ、カルロ殿は正義感が強そうだ。マーカス殿は次期国王と言われるだけあって、柔軟だね」
「軽くない?」
「話しやすいとは思う」
マクスはやんわり私の悪意を退けた。
「ソベルナ王国の王太子ご夫妻、その節は弟が大変ご迷惑をお掛け致しました。お詫び申し上げます」
しばらく、言い合っていた双子王子が最後は揃って、私達へ謝罪の言葉を述べた。
私はプライドを大切にする王族からの謝罪に驚く。
「謝罪を受けます。今後は互いの国が、仲良くなれるように協力して行きましょう」
「ありがとう、キャロライン殿」
カルロ殿下は笑顔を見せた。
うっ、眩しい!!
「では、確認します。お二人は大魔法使いのことを他にはご存知ないという事ですね」
マクスが念を押す。
「ああ、それ以上は知らぬ」
「分かりました」
マクスはこの件はもう追及し無さそうだ。
それはさておき、私は他に気になっている事があった。
「あの、ひとつお尋ねしても?」
「キャロライン殿、どうぞ」
マーカス殿下は、気楽な感じで答える。
「先程、カルロ殿下は「私は存在を消されたりはしておらぬ」と言われていましたが、それは何か理由があるのでしょうか?」
「ああ、それはオレが答えよう。我々の母、側妃サリー・ポルトナ・ブカストは父に嫁ぐ前、医師をしていた。母は私達を産んだ後、双子は王家にとって不吉だという話を、医学的見地で論破した。それにより、父上はオレ達の存在を隠匿しなかった。だが、念のためにと、カルロの誕生日は非公表にし、双子であることを伏せているこの状況はどうなのかという気はする。まぁ、そのうちバレるだろう。見ての通り、私たちが並べば一目瞭然だからな」
「側妃殿下は医師をされていたのですね」
「そうだ、母は筆頭宮廷医師ミルドール・ポルトナの次女で、父上とは幼い頃から親しかったと聞いている。私達の立場がしっかりしているのも、父が母を信頼し、大切にしているという点が大きいだろう。実際、正妃のナターシャ・ダート・ブカストは己が軽んじられていると、いつもキレている」
マーカス殿下は言い終わると何かを思い出したかの様に、クスッと笑った。
「そう言えば、第一王子殿下は何故後継者として名前が上がらないのですか?」
マクスが結構、際どい質問を投げ掛けた。
「ああ、あいつはキレ気味の母親に育てられ、完全に萎縮しているからね。簡単に操られそうでダメなんだろう」
第一王子殿下をあいつって、、、。
「操られる、、、か。現時点で、第一王子殿下とノード王国、ランディ・ボルドーが繋がっていることを掴んでいます」
「何?その話、詳しく聞かせてくれないか?」
マーカス殿下はマクスの話に食い付く。
マクスは先程カルロ殿下に伝えた話を、もう一度マーカス殿下にした。
カルロ殿下は黙って様子を見守っている。
一通り、マクスがメルク領で捕らえたチームの話を終えるとマーカス殿下はこう言った。
「それは第一王子とノード王国の王族をハメただけだろう。ランディ・ボルドーの息子まで使って、大掛かりなことだ」
「おれもそう捉えています」
マクスは同意した。
「ただ、奴らが国を手に入れたいのは真実だろう。その為、多くの者を騙し、自らは手を下さないというのだから、腹立たしい。また、間違いなくランディ・ボルドーは魔法を使う。こちらも隙を突かれないように対処しないといけない」
マーカス殿下は首を捻りながら、悔しそうに話す。
「私もあやつは許せぬ。目的も何と愚かなことか、魔法の国とは、、、。この国にはマナもほとんど無いという事を知らぬ訳では無かろうに」
「ちょっと待ってください。ランディ・ボルドーが魔法を使う?」
マクスの指摘は私も気になったところだった。
すでにスージー・ボルドーとマイルス・ボルドーが魔力を持っている事までは把握しているけど、一族で魔法を使うということ?
「ああ、彼はそもそもソベルナ王国からの移民して来た一族だからな」
「そのルーツは辿れますか?」
マクスがマーカス殿下に尋ねる。
「それは可能だが、マクス殿、調査は少し時間をいただきたい」
「分かりました。よろしくお願いします」
マクスが了承する。
すると、マーカス殿下は急にマクスへ近寄った。
「今更なことを聞くが、カルロと王太子ご夫妻はどうやってここに来たんだ?いや、来た時がアレだったから気が動転していて、直ぐにおかしいと気付かなかったんだよ」
マーカス殿下はバツが悪そうに言う。
それに対する答えは、マクスが口を開く前に、カルロ殿下が答えた。
「マーカス、王太子ご夫妻は自由に転移が出来る。私は一緒に連れて来て貰った」
「転移!?魔法とはそんなことも出来るのか!!カルロ、我が国は既に負けが決定だな」
「いえ、おれは勝つだの負けるだのに興味はないんで、ご心配なく」
マクスはフォローを入れる。
「いや、マクス殿、その発言は既に勝者のものだ」
マーカス殿下は苦笑した。
「マーカス、私も同じ気分だが、マクス殿は共に歩み寄りより良い未来を目指すと言って、最短ルートの街道を提案してくれた。我々も卑屈になる事なく、高みを目指すのが良いだろう」
「カルロ、流石だ。聖人は言うことが違うな」
「茶化すな」
二人の第三ラウンドが始まるのか?と思ったところでマクスが話し始めた。
「街道の話が出たので、ひとつ宜しいですか?ルートは最短を目指しますので、出来るだけ直線で作ります。我が国は貴族に利権争いで時間稼ぎをさせないため、ある程度話が固まった時点で国王の勅命を出します。工事、設計メンバーは優秀な者を選び、国の騎士団も護衛を兼ねて参加させるつもりです。互いの国から選出する人員の擦り合わせは、また後日集合して話し合いましょう」
「承知した。私達は簡単に動けぬので、良ければこの宮殿を会合場所にして貰えないだろうか?」
「はい、オレはそれで構いません。カルロ殿もここへ召喚すれば良いですか?」
「ああ、そうして貰えると助かる。伝達はピピ殿で構わぬ」
カルロ殿下がピピの名前を出したことで、私はここに居ない相棒のことを思い出した。
「そう言えば、ピピは何処に、、、」
「確かにここに来てから見てないな」
「皆が言うピピとは何だ?」
「ピピ殿は白うさぎだ。マーカス」
「白うさぎ?」
「ええ、何処にいるのか分からないので呼んでみますね」
私は左手の薬指に魔力を流した。
目の前に小さな毛玉が落ちてくる。
「ピピ!何処にいたの?」
「おおお!本当にうさぎじゃないか!!」
「ミーはお妃さま方に、もふもふされていました。やっと、逃れられたので良かったです」
マーカス殿下は喋るうさぎに驚いている。
「マーカス、ソベルナ王国は面白いものが沢山ありそうだと思わぬか」
「そうだな、カルロ。うさぎが喋るなど絵本の世界の話ではないか!!」
「ミーはうさぎの妖精です。絵本の世界ではありません」
ピピはいつもの調子で言い返す。
「賢いのだな。オレへの伝達係も是非ピピ殿にお願いしたい」
「分かりました。ピピ宜しくね」
私はピピにお願いした。
「はい、ピピは活躍します!」
うわー、優秀な相棒は今日も可愛い。
「では、今日はそろそろお開きにしましょう。おれも引き続きランディー・ボルドーの件は調べておきます。お二人も身辺にはくれぐれもお気を付けて下さい」
「分かった。王太子ご夫妻も御足労いただきありがとう。街道の件はオレが責任を持って国の事業として許可を出す。次に会う日を楽しみにしている」
「はい、オレたちも今後を楽しみにしています。では、カルロ殿から送っていいですか?」
「ああ、宜しく頼む」
「キャロル、おれは行ったことが無い場所の特定は正直なところ、自信が無い。頼んでいいか?」
マクスが小声で私に言う。
「ええ、任せて。では、カルロ殿下を送りますね」
私はカルロ殿下に手を翳し、黄龍の宮殿へ戻れと願う。
カルロ殿下はスーッと消えた。
「うわっ!消えた!!スゴイな。人が消えるのを初めて見たよ」
マーカス殿下が笑顔でいい声を上げる。
「では、おれたちも帰ります」
マクスがそう告げるとマーカス殿下が呼び止めた。
「少しだけ、時間をくれないか?」
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