40 一途
楽しい物語になるよう心がけています。
誤字脱字等のご連絡は感謝いたします。
目の前の出来事に驚き過ぎて、固まった。
「キャロル、こいつの事は深く考えなくていいから」
目の前で、マルコ次官に抱きしめられているマクスに言われても、説得力がない。
私とマクスは調べ物の依頼をするために、総務部を訪れた。
部屋に入り、グルグル眼鏡を外せば恐ろしく美人そうな、おかっぱ頭の女性にマルコ次官を呼んでもらう。
すると、遠くからドタバタと大きな足音が聞こえて来て、マルコ次官が現れた。
すると、彼は間髪を入れず、勢いのままにマクスへ抱きついた。
「殿下~!!お久しぶりぃ!寂しかったわアタシ!!」
そして、状況の分からない私は立ち尽くした。
「第一応接室に行きましょう」
マルコ次官に言われて、動き出す。
ところが、歩きながらもマルコ次官は、マクスにベッタリ。
この二人は一体どういう関係?
ソファーへ腰かける時に、ようやくマクスがマルコ次官に言った。
「お前はそっち」
残念そうな表情で、マルコ次官は私たちのお向かいに座った。
「マルコ、彼女がおれの妻で、王太子妃のキャロラインだ」
マクスが、私を紹介したので、私も挨拶をする。
「初めまして、キャロラインです。リューデンハイム男爵家出身です」
「あら、ご丁寧にありがとう。あなたが誘拐された時にジャスティン坊やが来たわよ。あ、これは言って良かったのかしら?」
手を口に当てて慌て出す、マルコ次官。
「大丈夫だ」
「ああ、良かったわ!妃殿下もご無事でなによりです」
「その節はご心配をおかけいたしました」
「とんでもないわ。私たちは情報を集めるのが仕事なの。あの誘拐事件は正直なところ此方の不手際よ。私たちは叱責を受けてもおかしくなかったわ。で、今回は何?」
「今回は王家にまつわる重要案件だ。取り扱う部下も吟味して欲しい」
「最近のご依頼は重いわね。部下の件は承知いたしました」
「内容なのだが、過去の王族で、獅子と蔦を使った紋章を使っていた者はだれかを調べて欲しい。もう一つはタリアンテの踊りを」
「ええっと、紋章の件は分かったわ。タリアンテの踊りって、ボルドー領の収穫祭のことよね?」
「ああ、そうだ。祭りの起源や祭りに関係ある話を、出来るだけ知りたい」
ん?今、気になるキーワードが、、、。
「ボルドー領って、あのボルドー領なの?マクス」
私はマクスの袖を引いて聞いた。
「キャー!!可愛いわ、妃殿下!!」
向かいに座っているマルコ次官が叫ぶ。
ん?マルコ次官はマクスのことが好きなのではないの?
「キャロル、変なことを考えているようだが、こいつは距離感がオカシイだけだ」
「やだ!殿下ヒドイですぅ。可愛いものが好きなだけです」
「おれは可愛いのか?」
「ええ、世間には冷酷王太子と思われているのに、ずっと妃殿下を一途に思っているところが可愛いですわ」
マルコ次官が謎の攻撃を仕掛けて、マクスは両手で顔を隠した。
「マルコ、この野郎!覚えておけよ!!」
しぐさとは裏腹の怖い声をマクスは吐く。
妃殿下って、ん?、、、私のことか!?
一歩遅れて、自分のことだと気づいた私。
「オホホホ、殿下、アタシの勝ちね」
マルコ次官は、楽しそうにホホホと笑い続ける。
私はどういう対処をしたらいいのか分からず、笑顔で黙っていた。
「話を戻そう」
立ち直ったマクスが仕切り直す。
「妃殿下、タリアンテの豊穣祭はボルドー領の祭りで間違いなですわよん」
マルコ次官が私に言う。
「マルコ次官はボルドー領のことで何かご存じないですか?」
私はストレートに質問した。
「あら、妃殿下にご質問いただけるなら、完璧にお答えしたくなるわね。ボルドー男爵領は、3世代ほど前まではカシャロ公爵領だったのよ。当時、王都で商会を営んでいた商人ボルドーが、男爵位をお金で買ったの。ええっと、当時は今と違って、爵位もお金で買えたのよ。それで、カシャロ領の穀倉地帯をボルドー領地として獲得したの。でも、当時カシャロ公爵家が、ドル箱の穀倉地帯を譲るなんて怪しいと疑う声はゴシップでも少し出ていたみたい。だけど、後日、ボルドー男爵はカシャロ家のご令嬢と結婚したから、皆、ああそういうことねと納得したのよ」
「娘さんの為に譲ったということですか?」
「まあ、そうなるわね」
「マルコ、砂漠の薔薇って知っているか?」
「先日の取り調べの報告で見たわ。どこの国にも諜報機関というのはあるでしょう?そんなに驚く話でもなかったわ」
「そうか、それなら過去に諜報機関が暴走して国が揺らぐような事件とか、、、あーっ!」
話している途中で、あーと言ってマクスが考え込む。
「殿下、あーっ!?の後は、何よ」
「いや、ちょっと点が繋がりそうだなと思ったが、、、。だが予測でモノはいえない。気にしないでくれ」
「そんなこと言われたら気になるわよね!妃殿下!」
マルコ次官が同意を求めて来た。
「はい、気になりますね」
二人でマクスの顔を覗き込む。
「あーもう、分かった!!あくまで想像だからな。犯人の狙いはおれだ」
「えええ!!何それ!?マクスもっと詳しく言いなさいよ!!」
「それはまだ秘密」
「マクス最悪!!狙われているなら気を付けないといけないじゃない!!」
私は立ち上がってマクスに言い放った。
「妃殿下はそれが素なのね。可愛いわ!!殿下のことが大好きなのね」
目の前にいるマルコ次官がニヤニヤしている。
「マルコうるさい!」
私は言い返す。
「最高の誉め言葉をありがとう。罵られるのも楽しいわね」
何だか嬉しそうな素振りを見せる。
マルコ次官改め、マルコの性癖は私の手に負えない。
「で、マクスは誰に狙われているの?」
私は、なおも食い下がる。
「キャロル、確信もないのに口には出せない。悪いが本当にまだ言えない」
冷たく言い返された。
マルコ次官への依頼は終わり、今日も日付が変わりそうな時間に王太子宮へ戻った。
先ほど冷たく言い返されたのは結構ショックだった。
分かり易く、気分が沈んでいる。
「キャロル、すまない。心配させるようなことを言って」
入浴を終えて戻って来た私を、マクスは優しく抱き締めた。
何か言おうと思うけど、なかなか出てこない。
「キャロル、おれは強い。何があっても大丈夫だ。だから、今後おれが消えたりしても、落ち着いて待っていてくれ。必ず帰って来るから」
「マクスと離れたりするのは、ヤダ!」
やっと出て来た言葉がコレで自分でも恥ずかしくなる。
「おれだって嫌だよ。だけどソルティール監獄塔に送られた時のおれの対応を思い出して欲しい。直ぐに飛んで行かず、婚姻の儀式を優先した。物事は見誤ると取り返しがつかなくなる。絶対に感情で動くな。おれを信じてくれるか?」
マクスが私の目を真っすぐ見つめる。
これはおふざけではない話だと分かった。
マクスの脳内では、今後何かが起こると分かっているのかも知れない。
「分かった。信じる」
「それと、魔力の取り扱いには気を付けて欲しい」
マクスの言葉を聞き、私はすっかり言い忘れていたことを思い出した。
「この魔力のことなら、今の事件の捜査が終わったら、私もマクスと同じピアスを付けたい。私の手には負えない気がしているから」
「ああ、そうしよう。お揃いで」
厳しい表情だったマクスがようやく笑った。
それだけで沈んでいた気持ちが浮かび上がる。
「大好きよ、マクス」
「ああ、おれも大好きだよ。キャロル」
マクスは私を抱き上げた、もとい抱っこした。
「もう!お化けは懲り懲りよ!!」
「大丈夫。おれが何度でも抱っこしてあげるから」
私と一緒にマクスが楽しそうに笑う。
このふわふわした時間に幸福を感じる。
今夜も仲良く夜更かしをしてしまいそうな予感がした。
最後まで読んで下さりありがとうございます。
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