39 優しい心
楽しい物語になるよう心がけています。
誤字脱字等のご連絡は感謝いたします。
オレはチャーリー王が即位する前にあった出来事を話した。
父上は「魔塔へ王家は干渉してはならない」と先代に強く言い聞かせられたらしい。
だから、おれ達が魔塔でトンデモナイ禁忌を侵して来たのでは?と疑い、最初は硬い表情で話を聞いていた。
しかし、話を進めるに連れ、誤解は解けて行く。
父上もソベルナ王国の過去を知った。
そして、現在の王家はルーシー王女の子孫であることに驚いた。
終始、義理の母ジェシカさんは悲痛な面持ちで話を聞いていた。
「マクス、私は魔塔を知ろうとしなかった事を恥じる。勝手に国の魔法使いを罰して、閉じ込める面倒な機関としか思って無かった」
「陛下、私など国に勤めているのに魔塔の存在も知りませんでした。チャーリー王太子殿下を守り切った騎士サファを尊敬いたします」
今日もジェシカさんは騎士道精神を忘れない。
「父上、チャーリー王が即位する迄の話を記録に残しては?」
「ああ、そうしよう」
父上はおれの提案をすんなり受け入れた。
おれは不都合でも過去の負の記憶は記した方が良いという考えだ。
先人の失敗を繰り返さないためにも、戒めとして残していく。
王はその一声で、多くの人を殺すことが出来るという立場を常に自覚すべきであるし、どんな時でも、国民を第一に考え、判断を下さなければならない。
そう考えるとチャーリー王の父上は正しい。
一人の息子を辺境へ送り、一人の娘を塔へ蟄居させた。
何が理由であろうとも、王都を焼くという暴挙を許さなかった。
それは国民の目線で裁いたということ。
正直なところ、おれはチャーリー王が魔法使いをブカスト王国へ逃したという政策に嫌悪を感じた。
虐げられた者を逃すのではなく、虐げた者を諭すなり罰するなりすれば良いのではないか。
理想論だろうと言われれば、それまでだが、おれは誰かが国を追われる様な方法は間違っていると思う。
「マクス、報告は終わりか?」
無意識に考え込んでいたおれに、父上が声を掛けた。
「いえ、もう一つあります。大魔女サンディーという亡霊に会いました」
亡霊という言葉を聞いて、ジェシカさんの顔が引き攣った。
「ジェシカさんも幽霊は苦手なのですか?」
「無理」
おれの問いに義理の母は一言で返事をした。
普段の鬼の団長の顔は何処へやら、嫌そうな顔を隠しもしない。
「キャロルと一緒なんですね、ブファ」
思わず、笑いが出てしまった。
「キャロル嬢も幽霊が苦手なのか、いやマクス、幽霊が好きなどと言う者の方がすくないだろう」
「そうですよ、殿下」
思いのほか、幽霊は怖いという意見に傾く。
「おれにしてみれば精霊・妖精と変わりないの、、、」
「いや、違う!!奴らは可愛くない!」
おれの言葉にジェシカさんが被せて来る。
だが、おれはそろそろ話を進めたい。
「ええっと、すみません。大魔女サンディーの話をそろそろしてもいいですか?」
「それは勿論。取り乱し、失礼いたしました」
ジェシカさんは頭を下げる。
「で、マクス、大魔女サンディーとは?」
おれは魔塔を建てた大魔女サンディーの話をした。
ミイラの姿をしていること、真実を話そうとはしないことと、おれが気になった点を。
「ふむ、獅子と蔦の紋章・タリアンテ祭り・使い過ぎた魔法か」
父上は手で顎を撫でながら考え込む。
「紋章は王家の古文書あたりを調べれば出て来ると思うので、タリアンテ祭りのことと一緒に調べてみようと思います。この後、マルコのところへ行きます」
「ああ、分かった。そのサンディーがキャロル嬢の心配をしていたと言う件だが、彼女はそんなに魔力を秘めているのか?」
「そうですね、今までの感じなら魔力自体は、おれの方が強い気がします。ただ万能に使えると言う点では、彼女の方が勝ると思います」
「万能か、承知した。私もキャロル嬢を頼り過ぎないように気を付けよう。今回の捜査が終わったら、王家として魔力を使うような仕事は、彼女に依頼しないと約束する」
「はい、よろしくお願いします」
その時、コンコンと扉をノックする音がした。
「誰が来たのだ」
父上が警備官に問う。
「王太子妃さまがお見えになっております」
キャロル、もう起きたのか!?
「入ってよい」
父上が了承すると扉が開かれた。
「ごきげんよう。マクスがこちらにいると聞いたもので参りました」
「キャロル嬢、疲れていたのだろう。無理をしていないかい?」
父上がキャロルを気遣う。
「はい、少し横になりましたので、もう大丈夫です」
「キャロル、顔色が悪いわ」
ジェシカさんが、キャロルに歩み寄り肩を抱いてソファーまで連れて来た。
キャロルはゆっくりとおれの横に座る。
「目が覚めた時に居なくて済まない」
「大丈夫よ。お二人に魔塔のお話をしたの?」
「ああ、今終わったところだ」
おれ達のやり取りを聞いていたジェシカさんがボソッと言った。
「本当に仲良しなのね」
おれ達の仲を疑っていたのか?
「ええ、マクスとは昔から仲良しよ。お母様、ごめんなさい」
一体、何のごめんなさいなのかが、おれには分からないけども、、、。
「いいのよ。私が知ろうともしなかったのが問題なのだから。それで、二人はいつから恋人同士になったの?」
ジェシカさん、いきなり爆弾を投下。
キャロルが口を開けたまま固まった。
「それは、幾ら親子でも秘密です」
おれは咄嗟に助け船を出す。
「秘密?へぇ~そんなものなの?」
ジェシカさんが納得いかないと言う顔をする。
「ジェシカ、辞めなさい。そう言う質問はダメだ」
父上がジェシカさんを諭した。
「はーい。でも気になるのよ。いつの間に愛を育んじゃったのかなと、、、」
「愛なら、初めて会った時から注いでいます。キャロルは可愛かったですから」
「な!何を答えているのよ、マクス!!」
「いや、何か言わないとジェシカさんが納得しなさそうだったから」
おれとキャロルが押し問答を始める。
「すみません」
ジェシカさんが少し大きな声を出した。
「私がこういうことをいうから、マークは教えてくれなかったのだと気づいたわ。二人共ごめんなさいね」
ジェシカさんの苦笑いでようやく場が収まった。
「あの~、陛下、一つお聞きしても宜しいでしょうか?」
今度はキャロルが父上に質問を投げかける。
「ああ、何かな?」
「陛下はいつお休みになられているのでしょうか?いつ来ても執務室に居らっしゃるのでお身体が心配です」
キャロルの質問を聞いて、父上は目頭を押さえ、上を向いた。
「父上、大丈夫ですか?」
「いや、実の子供たちにも心配されたことがないから嬉しくて。ジェシカ、君の娘さんは優しい心を持っている!!」
「それじゃ、私がやさしくないみたいじゃない」
早速、優しくない扱いをしてくれる、ジェシカさん。
「キャロル嬢、大丈夫だ。ここから、私室へは誰にも分からないよう転移しているのだよ。留守にしている時は、この魔道具で音を拾うようにしている。それ故、呼ばれてから慌てて戻ることもあるぞ。外に立っている警備官は気付いてもいないだろう。おっと、これは秘密だから他言無用で頼む」
新しい娘にはとても優しい父上が極秘事項をペラペラ話す。
「それでも、行ったり来たりは休まらないですよね。マクス、お手伝いしたら?」
えっ!!まさかのおれ!?
「この事件が片付いてからで良ければ、、、」
おれがそう言うと父上が苦笑いしながら、「ああ、期待しておくよ」と言った。
何だか、みんなおれに対してヒドイ。
「では、そろそろ私は任務に戻ります」
ジェシカさんが立ち上がるタイミングで、おれ達も退室することにした。
「皆さま、ごきげんよう」
キャロルが挨拶をすると、父上もジェシカさんもにっこりとする。
「キャロル、今夜はしっかり休養しなさい」とジェシカさん。
「そうだ、疲れが溜まり過ぎないように」と父上。
「お気遣いありがとうございます。では失礼いたします」
最後まで、あの二人はおれを気遣う言葉など一つも無かったな。
少しやさぐれた気持ちで執務室を出た。
「マクス、お部屋に戻る?」
「いや、総務部のマルコのところへ向かう。キャロルはどうする?身体が怠いなら、一度、王太子宮まで送っていくよ」
「うううん、大丈夫。一緒に付いて行く」
「じゃあ、一緒に行こう」
おれはキャロルの手を握って、総務部へと向かった。
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