38 宜しくない
楽しい物語になるよう心がけています。
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「んー?」
サンディーは、いきなり目を逸らした。
そんなにワザとらしくされると逆に気になる。
「サンディー、魔法使える?」
おれは質問のハードルを下げた。
「マーちゃん、魔法は宜しくないんやわ」
「具体的に何が宜しくなかったの?」
サンディーは、またおれから視線を逸らす。
何か、やましい事でもあるのか?
「サンディーは何で包帯を巻いているの?」
敢えて話題を変えた。
「むむむ!マーちゃんは嫌な質問をするわ〜」
「サンディーさん、ミーも知りたいです!!」
おっと!足元から援護射撃がキタ。
「えー、ピピまで!?アタシの事なんて、面白くないって」
「包帯の下はケガ?」
「うーん、ケガと言えば怪我かしらん」
サンディーは思わせブリな言い方をする。
「サンディーは、おれの先祖だよね?」
「それは、、、そうなのかしら?」
質問に質問で返して来た。
「本当はケガなんかしてないくせに、包帯なんか巻きやがって、、、」
おれは小声で言い捨てる。
「キー!!ヒドイわ!!聞こえたわよ。マーちゃん!!」
一見、ミイラのサンディーは何処からか、ハンカチを出し、悔しげに噛む。
おれはサンディーを挑発しながら、彼女を観察していた。
ハンカチにはワンポイントで金の刺繍が入っている。
獅子?その周りを囲むのは蔦か。
「サンディーは元王女?」
「ん?」
「いや、王女さま?」
「アタシがかい!?」
怪訝な声を出すサンディー。
「おれは王太子だけどね」
ドヤ顔をする、おれ。
「ミーはうさぎの妖精です」
同じくドヤ顔のピピ。
「アタシゃ、ミイラってことじゃダメなのかい」
サンディーは困った声を出す。
包帯の下の表情が分からないから、探るのはなかなか難しい。
「だって、色々知りたいからさぁ〜。サンディー、何にも教えてくれねーの?」
オレはワザと太々しい態度をみせた。
「まーちゃん、最高だね」
「よく言われる」
サンディーのノリは王家の奴っぽいのだけどなぁ。
ハズレか?
「じゃあ、サンディー。どこから来たの?」
「忘れたよーぉー」
突然タップダンスを踊るサンディー。
この大陸でタップダンスをするのは、ソベルナ王国だけだ。
収穫を祝うタリアンテ祭りでは、肩を組んでタップダンスをする。
「それ、タリアンテ祭りの踊りだろう?」
「・・・」
サンディーは、急に動きを止めて固まった。
「どうして、魔法を嫌いになったんだよ」
おれは落ち着いた声で、サンディーに問い掛けた。
「何でも叶うのは宜しくない」
「何でも叶うくらい魔力があったってこと?」
「そう。何でも出来ても、何でもしてはダメ!!」
うーん、さっきまでのやり取りと反して、突然深い話だな。
「おれは、魔力をピアスで抑えている。だから思い付きで魔法は使わない」
「それは良い事。思い付きでアタシは使い過ぎたのよ」
「そうなんだ」
「まーちゃん、そのお嬢ちゃんは魔力が強めよぉ。アタシみたいにならない様に気をつけてねー」
キャロルのことか?
「ああ、分かった。頼り過ぎない様にするよ」
「マーちゃん、良い子だわ」
「ミーは?」
ピピはサンディーの足元に擦り寄った。
「あー、ピピは勿論良い子だよ。チョコレート食べるかい?」
サンディーは、ピピにチョコレートをふた粒渡した。
「ホレ、これはマーちゃん達の分ね」
そう言うと、おれにも四粒くれた。
「アタシゃ、あんまり世俗に干渉したくないんだよ。コレで勘弁しておくれ!じゃあ、また会う日まで〜」
サンディーは手を振りながら、姿を消した。
獅子と蔦の紋章、タリアンテ祭り、使い過ぎた魔法。
サンディーが教えてくれたキーワードをおれは胸に仕舞う。
そろそろ、気を失ったキャロルを休ませ方が良いだろう。
「ピピ、おれたちは王宮に戻る」
「分かりました。殿下、キャロルを宜しくお願いします」
「ああ、分かった。ありがとうピピ」
魔塔を出ると外は真っ暗になっていた。
一体、どれくらいの時間この中にいたのだろうか。
そう感じるのは、おれ達だけかも知れない。
何故なら、魔塔の時間は何処かで止まっている。
中にいる彼らは、この時を、今を生きてはいない。
おれたちが来た事で、たまたま動き出しただけだ。
そんな感覚がした。
キャロルをベットへゆっくり下ろした。
怖いのに無理して頑張ったよな。
目が覚めるまで、ゆっくり休ませよう。
額へ、そっとキスをする。
そのまま、音を立てずに部屋を出て、廊下の使用人に伝言を頼み、おれは父上の執務室へと向かった。
オレが父上の執務室に到着すると、室内から大きな声が聞こえた。
扉の前にいる警備官が「ジェシカ様がお見えになられています」と教えてくれた。
おれは一緒で構わないと伝え、ドアをノックする。
部屋に入ると、義理の母と父上がこちらへ歩み寄って来た。
「マクス、キャロル嬢はどうした?」
「喧嘩?」
二人同時に聞いて来る。
「いえ、キャロルは疲れて眠っています。喧嘩はしてないです」
おれは冷静に答えた。
二人は安堵した表情を見せる。
おれって、案外信用がないのか?
「いや、すまぬ。仲が良いのなら問題ない」
父上が言い訳がましく、謝る。
「はい。おれは報告があってここに来ました」
「そうか。先にジェシカの報告を聞いていた。お前も一緒に聞いた方が良いだろう」
「はい」
「では、陛下と殿下へ改めてご報告いたします。ハーデン子爵及び家族の捕縛は完了いたしました。まだ尋問はしておりません」
「分かった。では次はマクスの報告だな」
父上がおれに報告を促した。
「すみません、少し長くなるので座りましょう」
おれは二人をソファーに座らせ、話し始めた。
「今日、キャロルと魔塔へ行って来ました」
「魔塔!?」
義理の母と父上の大きな声が揃った。
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