37 紫の瞳
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ルーシーさんとサファさんの話が終わると、部屋の中に沈黙が訪れた。
皆、思い思いの感情が湧き上がっているのか、複雑な表情を浮かべている。
私も何を口に出せば良いのか分からない。
悲しみ、激しい怒りに加えて、穏やかな温かさや愛情を感じ、目の前の二人が乗り越えて来た困難を一言で言い表すことなど、到底出来なかった。
「ルーシーさん、ミーが来た時はいつもドアが開いてます」
唐突にピピが沈黙を破る。
「ピピ、私達は人間を警戒しているの」
ルーシーさんは、優しい口調で答えた。
「人間、、、。分かりました」とピピが頷く。
「少し、急ぎ足でお話ししてしまったね。何か聞きたいこととかがあれば、遠慮なく質問をどうぞ」
サファさんが、私達を優しく気遣ってくれる。
「では、一つ確認したいことがあります。お二人は、おれのご先祖様なのですか」
「ああ、そうだね。チャーリー王の子として、系譜に載っているのは私達の子だよ」
「ええっと、前から気になっていたのですけど、王家で紫の瞳は何か意味があるのですか?」
私も思い浮かんだ質問を口にした。
「それは私が答えるわ。紫の瞳を持つ子は魔力が強いの。当時は王位継承権の条件の一つでもあったわ」
「ええ、それは今も変わっていません」
ルーシーさんの答えにマクスが同意した。
「分かりました。ありがとうございます」
私は前から疑問に思っていた事が、一つ解決した。
当代の王位継承権持ちはマクスと王弟バンス様のご子息ジョージの二人で間違いないということだ。
ジョージ王子の母はカシャロ公爵家の長女。
こちらも微妙にキナくさい。
ここのところの出来事は様々な陰謀と思惑がグルグル絡みついている。
「それと、古の大魔女というのは今もご存命なのでしょうか?」
私はここを古の大魔女が建てたという話を思い出した。
「サンディーは既に亡くなったというか、すでに私がここに来た時に亡霊の状態だったわ。古の時代はルド暦が出来る遥か前なの」
「サンディー、、、ピピの言っていたサンディーか?」
「はい、ミーのお友達です」
「古の大魔女サンディーが亡くなった後、この国には大魔女という称号を持つ者はいない。ただ、これはあくまでもわたしの予想なのだが、我が妻ルーシィの魔力は大魔女と言われなくとも桁外れだった。サンディーは王族と関係あるのではないかと思っている。ここに居るサンディーに質問しても何も教えてくれないのだけどね」
サファさんは話し終えるとクスクス笑った。
「サンディーは、ちょっとね」
ルーシーさんも笑い出す。
「ピピ、サンディーさんってどんな人なの?」
「サンディーさんは面白いです」
ピピはルーシーさん達を不思議そうな目で見ながら、そう答えた。
ふーん、よく分からないや。
「お二方、詳しくお話を聞かせていただきありがとうございます。最後の質問ですが、最近ランディ・ボルドーという男をこの辺で見かけませんでしたか?」
「ランディ?塔の内外では見掛けてない。だが転移ポイントを使っている可能性はある。
私達はそこまでの確認はしてないんだ。もうブカスト王国へ逃げる者も減ったからね」
サファさんが遠い目をしながら話す。
ルーシーさんと共に長きに渡り、逃げる人の手助けをすると言うのはとても大変な事だったのだろう。
「分かりました。今日はありがとうございました」
「ありがとうございました」
マクスと一緒に心を込めてお礼を伝えた。
「世俗のことはよく分からないが、私達の話でお役に立てるのなら、いつでも話すよ」
「ええ、また遊びにいらしてね」
お二人も私とマクスへ優しい笑顔を向けてくれた。
相変わらず、複雑な出来事のピースを集めることで今は手一杯だけど、このお二人には解決したら報告に来たい。
名残惜しくも席を立ち、礼をして扉へ向かう。
マクスが扉を開け、外に出る。
ふと、振り返ると部屋には誰も居なくなっていた。
マクスが扉を閉めたタイミングで、私は彼に抱きついた。
「えっ!キャロル?どうした!?」
急に怖くなって、身体に震えが来る。
マクスはよく分からないまま、私を抱き上げた。
私は震えながら、小声でマクスへ必死に伝える。
「マクス、と、とび、扉を出たら消えたの、、、お二人が、、、」
私の途切れ途切れの話を聞きながら、マクスは相槌を打つ。
「分かった。大丈夫、しっかり抱っこしておくから」
マクスが少し笑い声なのはさておき、頼りになるので縋る事にする。
「キャロル、殿下。サンディーさんに会いますか?」
ピピが、足元から質問して来る。
「あー、そうだな。おれは会いたい。キャロルは無理か?」
「怖いけど、ルーシーさん達みたいな見た目なら、、、」
怖いけど精一杯、譲歩した。
「ピピ、頼む」
「はい、呼びますね。サンディーさーん!!」
ピピの声が塔に響き渡る。
「あーい!呼んだ?」
私達の目の前に包帯グルグルのいかにも悪霊が現れた。
その瞬間、私は意識を手放した。
「あ、キャロルが!!」
「あんらー!可愛いお嬢ちゃんはどした!?」
あー、失敗した。
キャロルが気を失ってしまった。
「キャロルは大丈夫ですか?」
ピピが心配そうな声を出す。
「あー、大丈夫だ。しばらくしたら起きるだろう」
とりあえず、ピピを安心させるために優しく頭を撫でた。
「そこのイケメンも初顔ね。よく此処に入れたわね」
「サンディーさん、初めましておれはソベルナ王国の王太子マクシミリアンです」
「あんらぁ、マーちゃんは王太子なのね」
「眼の色がおれとお揃いですね、サンディー」
「あら、アタシかなり年長者なのに呼び捨て?良いわぁ〜!まーちゃん!!」
包帯グルグルで中身は何なのか分からないサンディーが悶絶する。
「サンディー、大魔法使いって何?」
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